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臨時 vol 353 「目指すは「パイの取り合い」からの転換」

医療ガバナンス学会 (2009年11月20日 08:14)


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ー中医協委員就任にあたって

嘉山孝正
山形大学医学部長


【中医協委員として目指す方向】

私は先月、診療報酬を決定する中央社会保健医療協議会(中医協)の委員に新
任された。大学医学部からの就任は初めてのことである。

今、引き起こされている医療崩壊の責任の一端は中医協の医療費の決めかたに
あったのではないかと考えている。中医協で今まで行われた議論は、パイ(医療
費総額)を開業医、勤務医、それぞれの立場で取り合う議論に終始していたから
だ。この間、本当に必要なところに医療費が使われず、医療崩壊が起こった。

私は、これからは今までの様に限られたパイを取り合う議論ではいけないと考
えている。そして、中医協は特定段階の利益のためではなく、国民が健全な医療
を受けられる医療費配分を決定する機関であるべきである。私は、一刻も早く中
医協を本来の姿に戻すための努力を惜しまないつもりである。そのためには、ま
ず、医療再生のための基本方針を作ることが必要である。そして、その基本方針
に沿った形で医療費の配分をしていきたいと考えている。

【大学医学部から選ばれたことの意義】

大学病院は、今まで医療の不採算部門を担ってきた。それなのに、社会保障費
も国立大学への運営費交付金も年々削れられた結果、大学が疲弊し、大学病院含
む病院勤務医が疲弊し、医師の立ち去りと医療崩壊を生んでしまった。

医療は有機的な連携で成り立っている。大学病院あっての勤務医であり、勤務
医あっての開業医であり、そして開業医あっての大学病院である。すべてがつな
がっているのだ。しかし、大学医学部崩壊は医療崩壊全体の引き金になり、それ
により医療の有機的連携が切断され、泥沼の医療崩壊のスパイラル陥ってしまっ
た。

私はこの問題の根本は医療費削減と考えている。そして、現状ではその弊害を
医療費の配分に関して発言権を持たない大学医学部が多くを背負わされている。
そのような中で、大学医学部が「発言権」を持つことは、医療崩壊の防止の観点
からも、重要な意味を持つと考えている。この点は大学医学部に籍をおく私が委
員に就任の意義の一つである。

医療の有機的な連携を守り、医療崩壊を断ち切るために重要なのはパイの取り
合いではなく、医療費自体の増額なのだ。私は、大学病院から選ばれた委員とし
て、この点を何度も繰り返し主張していたい。

【勤務医重視・病院重視の流れのなかで】

来年度の診療報酬改訂では勤務医重視・病院重視の流れが強まる見通しである。
先日の会議でも「大病院に厚く」という方針が出された。しかし、私はこの点に
関しては慎重に行うべきであると考える。なぜなら、東京から見れば中小規模の
病院でも地方では中核病院となっているからだ。下手をすると、同じ医療行為を
しているのにハコの大きさによって医療費が違うということにもつながりかねな
い。よって、私はより効果的な医療費の配分のためには、ハコの大きさではなく
機能で医療費を配分する必要があると考えている。さらにいうならば、地方の医
療を守るというセーフティーネットの観点からいえば、むしろ地方にほど厚く配
分する必要があるのではないかと考えている。

【「日医はずし」の影響】

先日の中医協の会議で「開業医の年収は勤務医の1.7倍」というデータを事務
局が出してきた。開業医には退職金がないこと、設備の減価償却があることなど
を勘案しておらず、非常に恣意的な数字である。ここには、勤務医に手厚くする
分、開業医の配分を削ろうとする誘導がすけて見える。開業医だって、ぎりぎり
である。開業医がいなくなれば、結局、困るのは勤務医である。開業医が担って
いた地域医療がそのまま、勤務医に降りかかってくるからだ。短絡的な政策はな
んとしても避けなければならない。

【来年度の改訂に向けての取り組み】

私は、前政権が医療再建を目指した「安心と希望の医療確保ビジョン」でも委
員を務めた。医師数増などのビジョンでまとめた報告書の内容は中医協で実現し
たい。どの政権下だろうと、医療崩壊を防ぐために提言したことが予算の裏付け
となる医療に反映されなければ意味がない。そのためには、何度も言うが、医療
費の増額が必要である。長妻昭厚生労働大臣は医療費増額を打ち出してはいるが、
中医協の議論ではまだ医療費削減の流れを引きずっている。

医師不足や病院の赤字経営などで地域医療はまさに危機的な状況である。医療
崩壊を克服する方法として、是非実現させたいのが山形大が既に導入しているド
クターフィーの新設だ。私は、特定機能病院は現行の1.2倍、その他の病院は1.1
倍に引き上げた上でアップ分の半分を医療技術料として、医師らの直接報酬とす
ることを提案している。これは急務の課題だ。今やらなければ、日本の医療は本
当に崩壊するだろうと強く危惧している。

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