医療ガバナンス学会 (2009年11月20日 11:56)
MRIC編集長の上 昌広です。先日、行政刷新会議に関してコメントを募集した
ところ、多数の回答がありました。全て、現場からの切実なご意見です。代表的
なものをご紹介させて頂きます。
http://medg.jp/support/contact.php
【岡崎美知治 皮膚科開業医】
配布資料48頁目のD表
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov11-pm-shiryo/05.pdf
皮膚科の収支差額2800万円とされています。
調査が行われた6月は皮膚科患者が一番多い月です。6月単月の収支差額を12倍
したのが2800万円だとすれば、この数字は実態を反映したものとはいえないと思
いますが如何でしょうか?
【原田佳明、小児科勤務医】
今回の事業仕分けには、「コンクリートより人の命」と言った民主党の医療に
対する仕打ちかと正直なところたまげています。
事業仕分けは一般会計を対象としているからと特別会計を取り上げないようで
すが、ここにトリックがあると思います。国がやることに「一般」も「特別」も
ないだろう、特別会計をやらなかったのは、今までの国会議員の怠慢だろう、ま
だ怠慢を続ける気かと呆れます。
取り上げた事や内容も議論すべきですが、取り上げなかった事も議論すべきと
思います。
事業仕分けで厚生労働省関係の無駄の象徴、年金関係が一切取り上げられず、
人身御供や目くらましのように診療報酬が取り上げられています。
民主党の支持母体が労働組合で、国会議員にも社会保険庁出身の労組幹部が含
まれていたことから、ある程度予想していましたが、年金関係の見直しが一切さ
れていません。
ヘルススパ小田原に留まらず厚生労働省関連の天下り団体はもっと無駄がある
筈と思われますが、労組団体の関連する事業を事業仕分けでは、一切切り込んで
いません。
林野庁では、全国の半分の林野にスギやヒノキを植え、生態系を崩壊させ、花
粉症を全国民に蔓延させた緑機構の無駄も取り上げられず、農林省では専業農家
より多い農業指導員の無駄も取り上げられませんでした。いずれも巨大な労働組
合が関連している事業です。
診療報酬では、レセプト審査で社会保険庁関連で多大な人員と費用を費やして
います。直接な医療費ではなく、これこそが無駄なのですが、これも労働組合が
関連しているので、手付かずです。
見ざる・聞かざる・言わざるなのか、天然ボケなのか、世論をミスリードしよ
うとしているのか、この政権が4年間続けば、医療と社会の崩壊が促進されます。
新聞やテレビなどマスコミは、この程度の目くらましにも気付かないのでしょう
か?
医療費削減は、トヨタの奥田経団連会長が小泉政権発足当時に言い、経団連の
医療改革モデルで文書化されていました。どうやら財務省の持論のようです。政
権が発足した100日を狙って、財務省が持ち出す常套手段・政策ではないかと考
えます。
財務省に依存する民主党の限界を見る気がします。そう言えば、「コンクリー
トより人の命」には下の句がありません。勝手に市民が「をたいせつに」と思い
込んでいただけかも知れません。民主党は「はだいじではない」であったのかも
知れません。
【内科勤務医】
漢方、ビタミン、湿布薬を一緒にして、保険からはずす、というのはどういう
見識であろう。
漢方は医師が数ある処方の中からその人に一番あった薬を選択して用いるから
こそ効果があるのであって、湿布薬のように誰もが出しても変わらない、という
ものではない。
わが国では医学教育モデルコアカリキュラムに入って、医学生が勉強するよう
になっている。世界を見ても医療の根幹となっているICDに入ろうという中、
わが国が全く世界からはずれた動きをすることはナンセンスである。
医師の裁量がもっとも問われる漢方治療をビタミン、湿布薬と同じジャンルに
入れていること自体ナンセンスであり、試案を作成した人の見識を疑う。
【ジャーナリスト】
私が「仕分け」の議論を聞いていて、診療報酬の関連で「おっ」と思ったのは、
枝野さんでした。彼は、厚労省が作っている開業医と勤務医の収入格差について、
公平ではないと判断してます。それは、「収支差」の計算です。現在の厚労省の
収支差の計算は、診療報酬から様々な経費を引いただけのものです。
勤務医は、退職金は別にもらえますし、医療機器などの再投資は病院が行いま
す(減価償却は認められているが、機器の利用期間に比べると長い)。借金の元
本は、利益の中から返します。医師が病気に なったりすれば、とたんに 収入が
なくなるので、一定の貯蓄も必要でしょう。上記を勘案しても開業医が有利なの
か、きちんとした統計を作るように命じていましたが、担当者の返事は消極的で
した。
開業医に関して言われるのは、奥さんがきれいな格好をしているとか、いい車
に乗っているとか、嫉妬といえるものです。政策判断が正しい情報にもとづかず、
感情で行われるので は、国民は安心して生活できません。
開業医が本当に恵まれているのか、正しい情報を出せば、開業医の側も納 得
して配分の変更に応じるはずですし、その情報をきちんと開示することで、 国
民の判断材料が増えます。いまは、単純な結果だけを示して感情で国民を動かそ
うとしているだけです。
「配分」を議論するなら、最低限のことだと思いますが、現状では無理ですね。
感情によるコントロールが隅々まで行き届いています。これは、大野事件の時の
マスコミが置かれていた状況より根深いものがあるように思います。
【有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役 木村 知】
行政刷新会議の事業仕分けにおいて、病院勤務医と開業医の報酬の平準化、す
なわち診療所の報酬を削り、その分病院の報酬を上げるかのような議論がされて
いるが、そもそもその報酬の多寡以前の問題として、「診療所=開業医」と判断
している部分に誤りがあると思われる。確かに、診療所勤務医の多くは、開設者
(=院長であり経営者)であると思われるが、診療所に雇われている医師(=雇
われ院長含む)も存在している。平成18年の医師数277,927人のうち、病院勤
務医は168,327人、診療所勤務医は95,213人であり、日本医師会会員総数は
165,086人。うち開設者、管理者に相当するA1会員が84,879人、研修医であるA2C
会員を除いたA2B会員は37,479人である。診療所を開設している者がすべて日医
に加入していると仮定すると、(診療所勤務医)?(A1会員)=10,334人は診療
所に雇われている医師数と推測される。
これはあくまで推測であり、全医師数比でみても、3.7%程度とマイノリティで
はあるが、この者たちの存在を無視していいのであろうか?
今、国民の感覚のなかにも「診療所=開業医」、開業医(=診療所)は楽をし
て儲けていて、病院(=勤務医)は薄給で疲労困憊している、との認識が各メディ
アによって刷り込まれつつあるが、そこには診療所に雇われて勤務し、日々地域
医療に真摯に対応している医師の存在は出てこない。
「診療所=開業医」という誤った定義をもとに性急、拙速な議論で報酬配分を
決定することには、強い違和感を感じる。
【整形外科医】
仕分け作業中、整形外科開業医の年収、4200万円の発言が聞こえたと聞い
ております。美容形成外科医の年収と間違えているのではないかと、整形外科医
の間で問題になっておりますが如何でしょうか。
診療報酬が上がるとの、長妻さんの発言がありましたが、急性期病院重視で、
慢性期病院の診療報酬は上がるのか、如何でしょうか。
【医師】
診療報酬の行政刷新会議の事業仕分けを拝見するに、そこで使われた資料も杜
撰で間違いだらけであるし、医療を行うのにどれくらいの費用がかかるのかとい
う計算がされた形跡が全くなく驚いた。資本主義社会なので経営が成り立つよう
にすることは当然なのだが、自由に価格を設定出来ない以上、診療報酬に則って
正しい医療を行えば経営が成り立つレベルに設定せざるをえず、そうなると中に
は予想以上に利益が出るところも出て来て当たり前だろうと考える。
また勤務医と開業医の収入の比較も、勤務医はいわばサラリーマンの給料に相
当する額、開業医はいわば個人事業の売り上げから必要経費を差し引いた額であ
り、当然両者はそれぞれにとって同じ意味を持つ収入ではないことくらい、高校
で政治経済を勉強した程度でも分かるであろう。
さらに、整形外科や眼科の診療所を吊るし上げたいのか、そのような感情的な
ことをして整形外科や眼科開業医が潰れたら、ただでさえ手術に手が回らないほ
どに外来が忙しい病院の整形外科医、眼科医が疲弊してしまうだけだと思う。そ
れは他の分野の開業医と勤務医の関係も同じであり、それぞれに重要な役割分担
がある。世界一と評価されるコストパフォーマンスと一定の診療レベルを維持し
ている日本の医療がどうして成り立っているか、それは開業医と勤務医が協力し
て成り立っているのであって、決して開業医の尻拭いを勤務医がしている訳では
ないことを理解してほしい。私は開業医ではないが、開業医が潰れたらよりいっ
そう勤務医が苦境に立たされることは自明であると考えている。
現状認識の出来ない行政刷新会議の事業仕分け委員の先生方の猛省を促したい。