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Vol.56 カンボジア人の英語力は想像を超えていた Sunrise Japan Hospital Phnom Penhからの報告(3)

医療ガバナンス学会 (2017年3月13日 06:00)


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この原稿はハフィントン・ポストからの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/rumiko-tsuboi/sunrise-japan-hospital-ph_2_b_14630040.html

Sunrise Japan Hospital Phnom Penh
坪井瑠美子

2017年3月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は現在カンボジアのSunrise Japan Hospital Phnom Penhにお世話になり、プノンペンで生活しています。

しかしカンボジアに来るまでは、カンボジアといえばアンコールワットと猫ひろしさん(2016年のリオオリンピックで話題になりました)くらいしか聞いたことがなく、私の周りの人たちもあまり状況を知らなかったので、カンボジアに行ったらこんなところに日本人?のような番組に出てしまうのでは、と言われたくらいでした。

しかし、カンボジアは未開の地ではありません。日本人も既に2000人以上住んでいます。首都プノンペンには高層ビルがいくつかあり、街中はレクサスなど高級車で渋滞しています。と同時に、決して衛生的とはいえない露店が並び、道路にはバイクが溢れ歩道は人が歩く余地がありません。トゥクトゥクに乗っていると嫌でも排気ガスやゴミ溜めの異臭を吸い込んでしまいます。これが東南アジアならではのいわゆるカオスだと思います。

しかしこのカンボジア、皆が口を揃えて言うのは、どんどん変化、成長している国だ、ということです。私がいるのは短期間ですが、5年後にこの地へ来たら全く違う景色になっているかもしれません。また、子供や若者が多いのが印象的で、これからこの国をもっとよくしていく、という力が溢れているようで羨ましくもあります。

そんなカンボジアで最も衝撃的だったのは、カンボジア人の特に若い世代はみな英語が流暢に話せるということです。逆にいうと、英語がないと生活、仕事が成り立たないようです。ホテルや病院、外資系企業に勤める人だけでなく、トゥクトゥク運転手にしても英語が話せると外国人を乗せることができ、収入も増えるわけです。発音もきれいで、日本語英語のようなたどたどしさはありません。

経済的に余裕のある家庭では学生のうちに英語学校に行き、授業も会話も英語を使い数年間で身につけてしまうのだそうです。最初は話せなくてシャイにもなるけれど、だんだん慣れて話せるようになるそうです。

また、クメール語の発音が難しいので、英語の発音もカバーできるそうです。英語だけでなく、日本語が話せる人もたまにいます。なぜたくさんの言語がある中で日本語を選んだのか聞くと、日本人は礼儀正しいので日本人と仕事をしたり、案内したりしたいから、と教えてくれました。中には経済的に余裕がなくても、お寺でお坊さんから外国語を学ぶ人もいるそうです。

このようなカンボジア人の言語習得に対するモチベーションの高さには頭が下がります。日本はある程度国がしっかりしていて、日本国内で何でも完結することが多く、英語がなくても生きていける、外を見なくても生きていける、私自身がそうでした。

しかしカンボジアでもFacebookが流行していますが、今はいつでも簡単に世界中の情報を得たり発信したり、連絡を取り合うことができます。世界中への往来も便利な今、世界を相手にしていかなければ国が取り残される時代となり、英語は当然必要なツールです。私自身は日本が好きですし、日本人の穏やかさ、誠実さなどは仕事にも現れており日本人の誇るべきところだと思いますが、それを発信していく力はまだ不足しているように思います。

もちろんプノンペンの街中に溢れるトヨタ車や、ホンダのバイク、SONYの電化製品などをみると日本企業は海外でも存在感があると実感できますが、バイリンガルが特別視される日本と、バイリンガルが当然のカンボジアを比べると、日本はいつかカンボジアにも置いていかれる日が来るのでは、と危惧してしまいます。そんな私は英語ができずに今まさに苦労していますが、だからこそ子供を海外やインターナショナルスクールで育てる上司を見ると、これは良い方法かもしれないなと羨ましく思ってしまいます。

言語だけでなく、新たな若い力が溢れるカンボジアと比べ、少子高齢化の日本では、医療福祉をはじめ、様々な問題を抱えています。国民皆保険も制度の維持が難しく、いつか違う形での保険や医療費の形に変えなければならないでしょう。

カンボジアで日々診療していると、医師として勧めるべき検査や治療を患者に提示しても経済的理由で拒否されることも日常です。いわゆる医学の常識や、ガイドライン通りではなく、その患者にとってまず最低限必要な検査、治療は何かを考え、相手の状況に合わせて可能ならプラスして提案していきます。患者も他院での検査結果や飲んでいる薬を持ってくる習慣があり、二重の検査や治療を避け、無駄な出費を控えるようにしています。

しかしいざというときに経済的な理由で患者や家族から治療を拒否されることもあり、患者、家族、医療者それぞれに葛藤があります。もちろんカンボジアの医療費設定は病院によるので、違う病院に行くという選択肢はありますが、そこで良質な医療が受けられるかは状況によりけりです。いつか日本にもそのような日が来るかもしれませんが、医療費を気にする際に最も重要なのは、予防できる疾患は予防すべき、ということだと感じます。

カンボジアでも生活習慣病が増えてきており、今後どれだけ心筋梗塞や脳卒中が増えるかと思うと恐ろしいです。カンボジアで診療を始めたときにはHbA1c 10%以上や中性脂肪500mg/dl以上の患者をみていちいち驚いていましたが、今ではあまり驚きません。健診にそのような患者がいることもさほど稀ではないのです。Sunrise Japan Hospital Phnom Penhでは市民向けに健診や疾患の講演会など啓蒙活動も行っています。時間はかかりますが、このような活動が実を結びゆくゆくは患者の医療費負担を減らせればと思います。

私はカンボジアに来て日本で既に行われている様々な医療活動の重要性を自分で実感することができ、同時に日本が抱える問題についても目を向けるようになりました。今までは目の前の仕事に精一杯で何も考えていませんでしたが、幸運にも私はカンボジアで外の世界を知り、さらにそこから日本を見るというチャンスを得ました。カンボジアに少しでも貢献するのも目標でしたが、帰国後にこの経験をどう活かし一医師、一日本人として生活していくか、これからの私の課題です。

結びに、このような貴重な機会をくださったSunrise Japan Hospital Phnom Penh院長の林祥史先生をはじめスタッフの皆様、カンボジアに行きたいという唐突な申し出にも関わらず快く背中を押してくださった仙台厚生病院院長の長南明道先生、消化器内科主任部長の中堀昌人先生、この記事を書く機会をくださった病理部の遠藤希之先生に心から御礼申し上げます。

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