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Vol.057 介護人材確保を目指す「心のボーナス」という考え方

医療ガバナンス学会 (2017年3月15日 06:00)


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株式会社メディケアソリューション 代表取締役
鯨岡栄一郎

2017年3月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災から丸6年が経つ福島県いわき、相双地域において、介護職員不足が慢性化している。そこで今、いわき・相双地域等の介護保険施設等に就職しようとする方に対して、介護職員初任者研修等の研修受講料及び就職準備金を無利子で貸与している。なお、奨学金は1年間又は2年間就業すると返還が免除される。(平成26年度利用者は、就職準備金が28人、受講料が5人)http://www.f-kaigoshogaku.jp/?page_id=25

厚生労働省の推計によると、2025年度に必要な介護職員は全国で253万人の見通しで、今後予想される介護人材の増員数と比較すると約38万人が不足する恐れがある。
これに対し、「多様な人材の参入促進(マッチング強化,就学支援,イメージアップ)」「資質の向上(潜在的有資格者の再就業に向けた研修,キャリアパス,キャリアアップ支援)」「労働環境・処遇の改善(処遇改善加算の増設)」など、様々な対策が考えられている。
さる1/20の安倍総理の施政方針演説においても、「介護離職ゼロ」に向かって、介護の受け皿整備を加速させるため、国家戦略特区で実施してきた都市公園に介護施設の建設を認める規制緩和をすることや、介護人材を確保するため、処遇改善として経験などに応じて昇給する仕組みを創り、月額平均1万円相当の改善を行うとの話が盛り込まれたばかりだ。

介護職員が辞める理由は何だろうか?一般的には、仕事の大変さ、給与の問題がイメージされるが、福島県の介護労働実態調査結果(H26年)によると、直前の介護の仕事を辞めた理由は、1位が「職場の人間関係に問題があったため」、2位が「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」、3位で「収入が少なかったため」となっている。もちろん、生活するためのレベルがきちんと担保されていることが前提ではあるが、必ずしも給与額が選ぶ第一の要素ではないことが分かる。人がそこに勤め続ける、人がそこで働きたいと思う理由は、まず「働きがい」以前の「居がい」。つまり、そこに居てもいい、通ってもいいという根本レベルのニーズが担保されていることが重要である。

私が支援させて頂いた事業所の一つに、いわき市のi-step株式会社(藤井秀徳代表)https://www.i-stepproject.jp/ がある。開設後5年経ち、「トレーニング型デイサービス」(超短時間利用)を先駆け、最近では全国でも珍しい「カルチャー型デイサービス」を立ち上げ、地域で唯一気を吐いている。特筆すべきは、この人材難の中ですでに24名(パート含む)を雇用し、初期の何名か意外、ほとんど辞めていない点。それどころか、遠方からもしくは近場の事業所から、「どうしても働きたい」と次々集まってくるというのだ。それは決して給与水準を引き上げて提示している訳ではない。採用の時点で代表自らが立ち合い、「何がしたいのか?」「何が欲しいのか?」を聞き取り、「じゃあそれをやりましょう」と当初からスタッフ個々人のニーズに合致した働き方にする点と、代表の思いとコンセプトを率直に伝え、「これに手伝ってもらえませんか?」と投げかけることで、双方の思いに齟齬が生まれない。入職後も否定されることがないから、自らの、そして法人の目標達成のために喜んで主体的に働く。だから定着する。その噂を聞きつけ、周辺から人が集まる。その良循環が生まれる。これぞ、「内発的動機づけ」を発動させた好例だろう。

ダニエル・ピンクの書籍「モチベーション3.0」では、人の行動を考えた時に、これまでの「アメとムチ」に代表される管理方式(モチベーション2.0)は、現代ではこのような交換条件つきの報酬は「自律性」を失わせ、かえって成果が上がらなくなる。人間には学びたい、創造したい、世界を良くしたい、という第三の動機づけ(モチベーション3.0)があり、活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろ活動そのものから生じる満足感と結びついている、と言っている。
つまり、ただ業務を遂行する、という正しさだけでは、もはや人はモチベーションが上がることはない。そして、いいケアというのは、いい介護技術があるから出来るわけではない。前提として、「安定した心持ち」「仕事への楽しさ」「価値」「意味」を感じられるからこそ、初めて提供できる。このような「内発的動機づけ」の意味を理解し、いかに組織内でそれを発動させる取り組みをするか。私はこれを「心のボーナス」と呼んでいるが、人の存在や成果を「認める」ことに着目し、より社会的な意義や金銭に代えられない経験・環境などいかに感じてもらえるか?

今あらゆる業種で人手不足が叫ばれているが、皆さん介護という仕事が好きで入職していることが多く、他業種への流出というよりは、やはり近隣の施設間での異動という傾向が強い。中でも特徴的なのは、新規立ち上げの施設への志向性が強いことだ。
とはいえ、前述したi-stepさんのように、今いる施設への愛着や帰属意識が強ければ、それは防げるはずだ。たとえキャリアアップ支援や何らかの手当てによって人が集められたとしても、肝心のその施設の考え方や運営が旧態依然であれば、辞めてしまうことは目に見えている。だからこそ、入職した初期の段階での定着化に向けた関わりが必要となる。
あちこちで経営者から、「どうしたら人が集まるんだろうか?」という話しを聞く。実はこの発想ではなく、まず「どうしたら定着するのだろうか?」の方が先なのだ。

このような承認感があふれた風土にするために、私も過去に実際、朝礼時にハイタッチをしてスタートする取り組みをしたり、前向きな思考を鍛える「GOOD&NEW」を取り入れたりした。また、日々の声かけ(ねぎらい、感謝)を意識したり、定期的に「○○○賞」を決め、表彰したりもした。トータルして「否定」ではなく、「肯定的」な姿勢を基調とし、スタッフのアイデアを積極的に登用した。リーダー向けのコーチング面談も行った。
実際にこのせいだけで、という訳ではないだろうが、震災の年には職員はほとんど辞めることなく業務を継続してくれた。

手法に正解はないが、あの手この手で“脳の報酬系”を刺激する取り組みをしていくこと。何もない運営というのが最も良くない。昇給やボーナスといった外的な動機づけは原資は限られているが、「心のボーナス」にはコストはかからないし、飽きることもない。しかも効果は抜群。非常にエコな仕組みだ。
また、元々その事業所が持っている地域的資源、職員特性、組織環境の強みを発掘、フル活用し、そこならではの特色を開花させることが大切だ。「〇〇ならあそこ!」と呼ばれ、そこに所属することがブランドとなる。それによって、周りからも、そこで勤めたい!と思われる存在になっていくであろう。
今後ますます高齢者は増える一方、労働人口は減り、介護離職の問題も言われる中でも、このような考えをもつ施設や事業所には必ず人は集まり、地域で中心的な存在となっていくはずだ。

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※地域でピカイチな介護事業所を増やしたい!~介護人材確保を目指す「心のボーナス」プロジェクト~無料動画セミナー(「ふくしま復興塾」修了事例)

http://www.medicaresolution.jp/service/magazine/page-972/

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元 介護老人保健施設小名浜ときわ苑施設長 東日本大震災の時に利用者・職員丸ごと千葉県鴨川市への避難するプロジェクトに関わる。
(2011年4月7日MRIC記事http://medg.jp/mt/?p=1312)

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