医療ガバナンス学会 (2017年3月16日 06:00)
食中毒というと生ものからの感染というイメージがあるようで、湿り気のある食べ物からの感染する思われるかもしれないが、乾物からも検出されるという報告が出ており{ Food Environ Virol. 2012 Sep:4(3):89-92 }、今回のように海苔から検出されることは、遅かれ早かれ、十分おこりえる事態だった。
通常、購入してきたきざみのりを自宅で加熱して食することはありえないので、ノロウイルスが製造過程で付着してしまっては給食センターや一般家庭では予防できなくなってしまう。業者が責任を問われてもしかたないだろう。
だが、誰かをバッシングしているだけでは、私たちはそこから何の教訓も学ぶことはできない。今回の事例は、ノロウイルスの流行時期における一般市民のノロウィルス感染予防への意識を問いなおすことになるのではないだろうか。
ノロウイルスは、乾燥や熱に強いうえ自然環境下でも長期生存する。感染力が強いため、少量のウイルスでも感染し発症しやすい。感染経路としてわかりやすいのは汚染された食べ物をたべて感染する「経口感染」だが、ヒトの手を介した「二次感染」も忘れてはいけない感染経路である。
感染者の吐いたものや便には大量のウイルスが存在する。そのため排便時や汚物の処理時に手にウイルスが付着し、その手から水道の蛇口や洗い場が汚染され、間接的に他の人への汚染が広がってしまう。そして手についたウイルスをきちんと洗い落とさないままにつくった料理を誰かが食べることによって、さらに感染が広がってしまう。この感染経路に無頓着な人が多いのではないだろうか。
そこで、手洗いの重要性をいま一度、問いたい。
手袋をして食品を扱ったとしても、手洗いが不十分で手指にノロウイルスがついた状態だと、やはり食品を汚染してしまうという報告がある( http://aem.asm.org/content/80/17/5403.long )。基本は手洗いなのだ。しかし、子どもの頃から、感染予防に手洗いとうがいと言われつつも、大人になってきちんとした手洗いができている人はどれくらいいるのだろう。
商業施設のトイレに入った時、他のお客さんの手洗いを見ながら、洗っている時間が短すぎてマズいんじゃないかと感じることはよくある。丁寧に洗っている人もいるけれど、一方で、手を濡らしただけで終わってしまう人も見かける。それではまったく洗ったうちに入らない。小ぎれいな格好した女性にもそういう洗い方をする人がいるのだから、人は見かけによらない。ちなみに男性のトイレは覗いたことがないので手洗いの状況はわからない。
ノロウイルスの集団発生後に施設内のふきとり検査をしたら、トイレのドアノブや手すりよりも、便座が一番ウイルス量が多かったという事例もある。商業施設では定期的に清掃が入っているとはいえ、洋式トイレが普及し、便座の利用率が高いのであるから、もう少していねいに手洗いすることを心がけてくれてもよいのではないだろうか。
世の中の手洗いに対する認識なんておそらくそんな程度なのかもしれない。
そういえば、総合病院勤務時代に、女医がろくに手洗いせずに医局の近くのトイレから出ていくのを見たことがある。病棟で見かけたときにはそれなりにきちんと手洗いしていたようだったが日常生活ではかなり大雑把な人だったようだ。私自身、手洗いを徹底しなければならない職業だったので手洗いという行為に意識を向けているが、そうでなければ、どのように洗っていたのだろう。
きざみのりの加工業者には食中毒をひきおこした責任はある。だが、私たちは、あの老人を”バッシング”できるのか。
きちんと手洗いのできているものだけが石を投げよ、っていう話だ。
そろそろノロウイルスの流行は下火になる。次の流行期が来る前に、適切な手洗い方法は世間一般に普及しているのだろうか。
※参考動画:ノロウイルス等の食中毒防止のための適切な手洗い(厚生労働省)