最新記事一覧

臨時 vol 362 「医の中の蛙14」

医療ガバナンス学会 (2009年11月24日 06:39)


■ 関連タグ

▽ 日本の社会保障はどうすべきか? ▽

ナビタスクリニック立川 院長
東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門 客員研究員
久住 英二


低負担・低福祉の小さな政府を目指した自民党政権が終わり、民
主党政権が誕生しました。今後は、医療費を含む社会保障費が増額
され、社会保障が充実すると期待されます。かつては、なんでも効
率化、民間でできることは民間に、という風潮がありました。私
は、医療などの社会保障に関しては、民間に任せるべきではないと
考えています。なぜなら、民間に任せると、加入者の利益より企業
利益が優先されるからです。

医療に関しては、医療費の多寡と平均寿命との相関関係が示され
ており、自民党と財界が目指していた効率化(=費用削減)では医
療の質を低下させていたました。経済協力開発機構が2007年
に、医療費と平均寿命との相関関係を集計し、データ発表していま
す。先端医療のレベルが高いはずの米国は相関カーブのはるか下に
位置し、日本は飛び抜けて上にあります。これは、高い医療費をか
けている割に、米国では長生きできず、日本では費用の割に長寿で
あることを示しています。もちろん、伝統的生活様式の違いなど、
医療以外が寿命に寄与する部分も少なくないと思いますが、医療の
貢献は相当大きいです。日本は高齢化しているため、本来、医療費
は上位にあるべきなのですが、30カ国中21位です。異
常な医療費抑制政策のもと、現場の医療者の自己犠牲が医療を支え
てきたからです。米国では国民皆保険制度がなく、4700万人
あまりの無保険者がいます。所得の少ない年金生活者や障害者向け
には公的保険がありますが、薬代は実費負担です。労働者は民間の
医療保険会社と契約しますが、受けられる医療の範囲は、保険契約
の内容により異なります。また、保険の支払いが受けられる医療機
関も制限されます。日本とは大違いですね。

現在でも、国が何でもやると民間の活力が削がれ、国際競争力が
低下するとの主張が流布しています。では、国による社会保障が充
実しているスウェーデンやデンマーク、フィンランドなどの北欧諸
国の国際競争力は低いのでしょうか?世界経済フォーラム(福田元
首相が行ったダボス会議です)による競争力ランキングでは、これ
ら北欧諸国が4-6位を占めています。ちなみに、トップはスイ
スで、米国は2位、日本は8位です。社会保障が充実し
ているからこそ、老後や病気になったときに備えて貯金する必要が
なく、お金が市場に流通することで若い世代も所得が得やすくなっ
ているのでしょう。日本では、個人金融資産が1500兆円もあ
りながら、50歳以上が1200兆円を有し、若い世代は
ワーキングプアとなり、次世代の日本を担うべき子供すら産めない
状態となっています。

日本が持続的に成長し、国際競争力を維持するためには、今こそ
社会保障を充実させ、病気や老後の心配をせず、思い切り働ける社
会を実現させるべきではないでしょうか。

くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。

※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ