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臨時 vol 47 「「安心して生き続けたい!」CMLに特定疾患指定を」

医療ガバナンス学会 (2009年3月11日 14:25)


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野村英昭(血液疾患患者の会フェニックスクラブ・事務局)


本日、第一衆議院議員会館にて、慢性骨髄性白血病に関する勉強会が開かれま
す。主催は、がん治療の前進をめざす民主党議員懇談会(会長:仙谷由人議員、
事務局長:古川元久議員)。第一の議題として、「慢性骨髄性白血病の特例疾患
指定について」を取り上げていただくことになっています。

慢性骨髄性白血病(CML)患者の願いはシンプルです。

グリベックやインターフェロンで治療している慢性骨髄性白血病(CML)を、
『高額長期疾病(特定疾病)にかかる高額療養費の支給の特例』の対象としてく
ださい」

今回は、この件について活動を続けてきたCML患者の私から、その詳細と背景
等について皆様にご理解いただくべく、MRICの場をお借りしてご説明させていた
だきたいと思います。

【 高すぎる! グリベックの経済負担 】

CMLはかつて、いったん発病すると一定期間後に急性転化し、死に至るとされ
てきました。しかしインターフェロンの登場によって、少数ながら長期生存を維
持できる患者が現れ始め、さらに2001年12月の遺伝子標的治療薬「グリベック」
(商品名、一般名はイマニチブ)発売以降、長期の生存を期待できる患者が急増
しました。化学療法、しかも飲み薬である点も、注射や点滴とは異なり服用しや
すく、患者にとってのメリットとなっています。

しかしながら、問題が2つあります。

1、 費用が著しく高額です。

グリベックは、平均的な治療で1日1回4錠を服用します。1錠あたり3200円強。
単純計算すれば、自己負担3割としても、1日4000円弱、月に116000円程度の負担
です。長期の服用になりますから高額療養費の多数該当の適用を受けたとして、
それでも通常、毎月44,400円は負担しなければなりません。インターフェロンも
同じような負担です。限度額いっぱいの支払い(一般で年間53万円余)を10年も
20年も続けることが、一般の所得の国民にとって「耐えられる限度を超えている」
と思うのは、当然ではないでしょうか。

2、 著しく長期間の治療が必要です。

グリベックは日本では2001年12月に承認され、現在までに7年以上使われてき
ました。2006年6月にASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された5年生存率は約90%、
咋年12月にASH(米国血液学会)で発表された投与7年時点での全生存率は86%、
さらにCML関連死に限定すれば94%の生存率だったと聞いています。それ以前、
私が発症した1992年当時は、生き続けるためには骨髄移植しかなかった(しかし
そのチャンスは非常にかぎられていた)ことを考えれば、まさに画期的な結果で
す。

しかし「いつまで飲み続けたらいい」という判断はできません。中断によって
異常細胞が復活したケースが報告されています。つまり現在の段階では事実上、
多くの患者が「ほとんど一生の間」(死ぬまで)飲み続けなければならないので
す。これは一部の患者に効果のあるインターフェロンについても同様です。

以上の2点より、CML患者は長期にわたって(多くは一生)、年間50万円を超え
る自己負担を継続しつつ病気と闘っていかねばならないという実情が、お分かり
いただけるかと思います。

【 高額長期疾病(特例疾患)とは? 】

こうした一生続く経済負担の問題を解決するため、私たちが求めているのが、
高額療養費制度の特例である「高額長期疾患」としての指定です。厚生労働大臣
によりこの指定を受けると、自己負担の限度額が毎月10,000 円(ただし、下記
の人工透析について一部20,000 円)となります。

これについて社会保険庁のホームページには以前、「高額長期疾病(特定疾病)
にかかる高額療養費の支給の特例」について、以下のような解説が掲載されてい
ました(2007年当時。現在は概要のみが示され、以下の文章は撤去されてしまっ
たのか見つかりません)。

「疾病の中には、非常に高額な治療を長期間(ほとんど一生の間)にわたって
継続しなければならず、医療費負担が非常に高額に上るものがある。このような
疾病にかかった患者について、高額療養費の支給の特例を設けることにより、費
用負担の軽減を図ることとしたのが、高額長期疾病(特定疾病)にかかる高額療
養費の支給の特例である。

対象となる特定疾病については、治療と疾病名との両方を厚生労働大臣が定め
ることとされており、その要件は、

(1)費用が著しく高額な一定の治療として厚生労働大臣が定める治療を要し、
かつ、
(2)(1)の治療を著しく長期間にわたって継続しなければならない疾病
ということである。

この条件に基づいて、(ア)人工透析の腎不全 (イ)血友病 (ウ)エイズ
の三つが定められている。」

CMLは、上記の2つの理由に鑑みれば、厚労省が提示している要件に合致すると
考えます。つまり現在の3疾病に加えて、慢性骨髄性白血病(CML)を追加してい
ただきたいというわけです。

【 なぜ今、声が高まってきたのか 】

先述のとおり、グリベックが日本で承認され、販売が開始されたのは、今から
約7年前。インターフェロンはさらにさかのぼります。それがどうして今になっ
て、その経済負担について考慮を求める声が大きくなってきたのでしょうか。2
つの要因があります。ひとつは昨今の経済不況です。そうしてもう一つは、服用
することで皆さんが長期間にわたって生存可能となったためです。

私たちが発祥した頃は、まだグリベックもなく、助かるには骨髄移植しかない、
というような時代でした。私の場合はたまたまインターフェロンがあっていたか
ら運よく生き延びることができましたが、そうでない人は、骨髄移植以外に道が
なかった。それが今では、グリベックの登場で、なかなか死ななくなった。

命が助かるとなると、次に気になるのは、その経済負担です。何しろ飲むのを
やめると症状が悪化したというケースも報告されていますから、結局は死ぬまで
飲み続けなれければなりません。そうすると何十年という間にかかる薬代は膨大
な額になるのです。それまでは「生きるか死ぬかというときにカネの事なんか言っ
ちゃおられない」という感じでしたし、とにかくすぐに亡くなってしまっていた
ので、治療費が高くても先のことまで考える必要がなかったのです。

こうした状況は、CMLの治療史の中でも今までになかった、新しい事態なので
す。グリベッグの長期的な生存効果が実証され始め、治療が必ずしも「短期決戦」
ではなくなった今だからこそ、その高額な経済負担についての悩みや苦労がいっ
そう深刻となってきたというわけです。そこに昨今の経済不況が追い討ちをかけ
ているのもまた事実です。

【 フェニックスクラブについて 】

ここで、私が事務局を務めている血液疾患患者の会フェニックスクラブにつ
て紹介させていただきます。

私が発症した1992年当時(16年前)、まだインターネットはなく、情報収集の
ために図書館を始めいろいろなところを奔走しました。ちょうどその頃、CMLに
関する情報交換を目的とした「フェニックスクラブ」の創設についての記事が新
聞に掲載されました。私は早速、大阪で開催された結成の会に参加し、そこで呼
びかけ人のひとりである大谷貴子さんと初めて出会いました(大谷さんは本日の
勉強会でお話をされる予定です)。呼びかけ人の6名を含め、会員およそ10名の
スタートでした。

結成時にまずみんなで確認したのは、役員や会則といった、ややこしいことは
全て省こうということでした。グリベックのない当時、みんな日頃から「いつ死
ぬかわからない」と半ば覚悟をしながら生きていたからです。

フェニックスクラブは、積極的な勧誘をおこなっているわけではありませんが、
現在までに延べ800人ほどの方が会員になられました。そのなかの多くの方はす
でに亡くなっていますし、無事卒業された方もいらっしゃいます。一方、新しく
入ってくる方もいらっしゃいます。結果、現在の会員数はおよそ350名となって
います。患者さん自身のみでなく、親御さんが、情報を求めて入会されるケース
もあります。

定期的な活動としては、会員の方に郵送で毎月お届けしている通信の発行があ
ります。費用は年会費(2000円)で賄われています。交流会は年に6回程度開催
されていますが、やるやらない、働きかけはすべて個人の自由です。

【 「CMLの会」を立ち上げるも・・・ 】

さて、経済負担への懸念は、すでにご説明したような事情があるとはいえ、も
ちろん今日に始まったわけではありません。以前から、そして今も、会員一人ひ
とりの事情はさまざまです。いくつか例をご紹介いたします。

若い患者さんですと、ご自身や親御さんが、「結婚を希望しているが、夫ある
いは妻となる相手や相手の家に大きな経済的負担を押し付けることになる。負の
持参金をかかえているようなものだ」と心配されていたり、女性では、グリベッ
クを服用していると妊娠は禁じられていますから、その点に悩んでいらっしゃる
方もいます。

あるいは出産後のご夫婦の場合でも、子どもさんを複数抱え、将来の経済設計
に不安を覚えている方も知っています。「子どもの進学のために、しばらく休薬
して様子を見る」という話さえ聞こえてきました。実際、自営業の方から、景気
がよくないし症状が落ち着いているということでグリベックを休薬したら症状が
悪化した、という相談も寄せられました。

また、会社勤めの方は、在職中はさほど心配していなかったのが、定年後、年
金生活になって、その負担が重くのしかかってきているようです。
共通しているのは、皆、今日の負担と先々への不安を抱えて生きてきたということです。

そこで「これはなんとか行政に訴えかけなければ」ということになったのが、
まず2007年でした。ところが、そもそもフェニックスクラブは簡素を旨としてい
るため、対外的に正式なアクションを起こす体裁を備えていません。そこで私た
ちはフェニックスクラブとは別組織の「CMLの会」(会員約20名)を立ち上げ、
会則等の最低限の形を備えた上で、行政他への地道な働きかけを開始しました。

与党の方々にお願いに行ったこともありますし、厚労省へ高額長期疾病(特例
疾患)指定の要望書を提出して職員の方と話をさせていただいたこともあります。
しかし、そこから事態が好転したり発展したりすることはないまま、今日に至っ
ているというわけです。

【 医療費削減の方針に疑問 】

近年、厚労省は医療費削減の方針を掲げてきました。その枠で考えると、我々
の要求は逆行するものであり、飲むことは無理だということになるのでしょう。
しかし、そうした”先に枠ありき”の議論は、我々の問題に限らず、果たして医
療費を考える上での正しい方策なのでしょうか。

我々も、これまで自分たちでできる工夫は凝らしてきたつもりです。

そのひとつが、”3ヶ月処方”を医師にお願いすることです。慢性の疾病に関
して、症状の安定した患者にはまとめて3か月分の薬の処方が認められるもので
す。そうすれば、3ヶ月に1回、限度額の44,000円を支払うだけで済みます。ただ
し、医師がOKしてくれなければできません。病状や検査の結果によって薬の量の
調節が必要になってくる場合を考えて、やはり長期の処方には積極的でない医師
の先生もいらっしゃるようです。医師との関係が良好でないと言い出しづらいと
いうのも実際のところです。結局3ヶ月処方を受けられる人と受けられないひと
が出てきてしまうのです。また3ヶ月処方をしてもらったとしても、CMLの患者さ
んの多くは合併症があります。それについては毎月、別途費用がかかり、トータ
ルでかなりの負担を強いられているのが現状です。

その他、内部障害者として「障害年金」を受給したことについての経験交流等
も行ってはきましたが、個人の努力では限界にきています。

たしかに、先にご紹介した「高額長期疾病(特定疾病)にかかる高額療養費の
支給の特例」の解説には、適用は「極めて例外的」でむやみに枠を広げられない
旨の但書も併記されていました。今もこの但書の文言をなかなかクリアできない
でいるというわけですが、しかしそれも、厚労省の判断次第のはずなのです。もっ
といえば厚生労働大臣ひとりの指定があればよいのであって、国会での可決を要
する法律改正が必要なわけでもありません。

【 ぜひ患者の視点を! 】

最後に、皆様にお願いがあります。患者にとって長期にわたる毎月44,000円の
負担がどれだけのものか、ぜひ想像力を働かせて、そこに思いをめぐらせていた
だきたいのです。特に副作用等で苦しみ、働けない人にとっては、その負担は相
当なものです。厚労省の方々には、とくにご考慮いただきたいのです。

そして医療者の方々にもお願いです。医師の先生方の中には、患者の毎月の負
担額を全く知らない方もいらっしゃると聞きました。一方、3ヶ月処方について
私が伝える前から知っていた会員は皆、主治医の先生に提案してもらったといい
ます。これは、その先生方が患者の負担についてご理解ご配慮くださっているか
らこそです。薬とその処方に関する情報が昔よりは手に入りやすくなったとはい
え、やはり現場の先生にご協力いただけると実際ずいぶん違うのです。治療効果
という観点でお薬を選んで処方していただくのはもちろんなのですが、患者がそ
れによって毎月どれくらいの経済的負担を強いられているか、そこについても少
し知っておいていただきたいのです。そしてできれば、3ヶ月処方のような、何
らかのアイディアを提供していただければと思います。

グリベックの登場で、私たち患者の多くが長く生きられるチャンスをもらいま
した。けれども現在のままでは、安心して将来を考えることができません。私た
ちは必要以上に多くを望んでいるわけではありません。決して楽ではない治療の
日々にあっても、「明るく、楽しく、前向きに」というのが私たちフェニックス
クラブのモットーです。それにあともう少し、お力添えを頂きたいのです。
皆様、ぜひご理解とご協力をお願いいたします。

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