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臨時 vol 369 「日出る国の昇らぬ産業  「再生医療ビジネスの暗い未来」 (3)」

医療ガバナンス学会 (2009年11月27日 06:22)


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(事業化を失敗した元経営者の繰言)

株式会社ビーシーエス
元代表取締役
稲見雅晴
2009年11月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

http://medg.jp


8: 企業のEXIT

事業は永続的に続けることが重要と考えているという意味では、企業、証券取
引所は共通した認識があるが、一方の当事者である投資家保護が過剰なのではな
いか。(NASDAQのように門戸を拡げ、新しい産業になる可能性を持つ企業にチャ
ンスを与える方が日本のためだと思うが。だめなら退場させればよい。株式投資
はあくまで自己責任で行うものではないのか。)

クライテリアは証券取引所の都合で度々変更されます。NASDAQのように上場条
件を明確で普遍的な条件で運営されると良いのですが。EXITのクライテリアが頻
繁に変わるのではVCも投資がしにくいと思います。

機関投資家がバイオ、再生医療に関心を示さない事がこれらベンチャー企業の
信頼度を下げていると思います。バイオ、再生医療を将来の基幹産業と位置付け
るなら国家政策として機関投資家が投資の一部を担う制度を作るべきです。産業
化を叫びながらEXITの展望がないのでは起業する人はいなくなるでしょう。

9: 報道姿勢

マスコミは全く異なるビジネスモデルであるバイオ(創薬)ビジネスと再生医
療ビジネスを同一しています。如何に実務を知らないかの証左ですがこれが新技
術の正確な判断をできにくくしています。

例えば、再生医療は予め適用疾患や望まれる性能をリサーチし目標を定めて開
発します。ですから対象患者数も比較的精度高く推定できますし、それを基にマー
ケットサイズも推定できます。一方、バイオ(創薬)はほとんどがP-2段階で製
薬企業等に成果を売却するビジネスモデルが主流です。再生医療は化学式のどこ
かを変えて異なる成果を期待するビジネスモデルとは明らかに異なります。

TV番組が新技術をセンセーショナルに報じることも大きな問題だと思います。
バイオや再生医療でろくに検証も出来ていない実験的な治療法でたまたまうまく
いったような症例でも明日からでも使えるような報道が多数あります。

今の再生医療のレベルは、臨床応用に近づいたといわれている自家培養皮膚、
培養軟骨、そして上皮培養角膜でもやっと従来治療法の代替ができる程度です。
代替できるようになったことは喜ぶべき事であり、この後どのような経緯をたどっ
てブラシュアップしていくかが重要です。スタートラインにあるとはいえ、培養
軟骨や上皮培養角膜が現在の治療法にすぐに取って代わるほどの成績は望めない
と思います。唯一、自家培養皮膚(培養表皮ではない)だけは物理的に欠損した
皮膚を再被覆する手段が自家皮膚移植しかありませんから従来治療法よりも優れ
ている可能性があります。これさえも十分な臨床データの蓄積はありません。

臨床治療は経験や実績を積んだいわば枯れた技術が導入されます。再生医療の
場合、自家培養表皮がそれにあたります。20年以上使われ、論文や学会発表等の
実績も十分にあります。薬事承認の条件が厳しすぎると言う意見もありますが、
現実問題として重症熱傷治療に使用した場合の使用限界もはっきりしています。
わが国では少ない同種皮膚との併用もハードルを高くしています。このようにド
ナーが少なく適用症例が制限される事はこれまでの経験上正しい判断といえると
思います。知見の少ない自家培養皮膚はこれからも苦労は付きまとうのではと懸
念しています。

私は再生医療を否定するのではありません。どのような新しい治療法でも臨床
使用のスタートは従来治療法と同等になった時だと思っているからです。重要な
のはその時点での再生医療技術を正当に評価してどのように育てていくかが問題
だと思うのです。

ES細胞、iPS細胞が将来発展するにしても、細胞培養技術やスキャホールド研
究と同様に現在の再生医療技術の成果物を正当に評価しておかないとES細胞、
iPS細胞のような新しい成果を正当に評価できません。今ある技術の評価は非常
に重要です。どういう訳かこの国ではこの種の議論は嫌われます。日本中オース
トリッチシンドロームのようです。

バイオ・再生医療の報道機関が日経バイオくらいしか無いのも大きな問題です。
作為的とは言いませんがとんでもないミスリードをしても普通の人には検証する
手立てがありません。このような報道は多々あります。

10: 提 言

【真の国家プロジェクトに(司令塔は誰?)】

私は、コンピュータによる医療データ解析に長年従事してきましが、そこで痛
感したのはわが国から世界に通じる成果は出にくいと言う事です。答えは簡単で、
日本語環境で開発している限り、世界に通用しないからです。ある程度国内マー
ケットが期待できるわが国の宿命ともいえますが、輸出が最優先の台湾や韓国の
ように最初から英語で開発する国には敵いません。その代わりに我が国はハード
ウエアやテクノロジーがありました。しかし、最近は製造業の全体的な衰退によ
りITもテクノロジー面で大幅に遅れをとっています。製造業の衰えはここ数年で
上場を果たした製造業が上場企業の10%に満たない惨憺たる状況で良く判ります。
再生医療はまさに将来の基幹となる製造業です。これまでの自動車産業やコンピュー
タ産業のように大きな産業の裾野は期待できませんが、これまで蓄積してきた技
術やタブーであったパーツの供給が行われれば相当規模の産業を創出できると思
います。再生医療はこれまでの基幹産業とは異なりますがこれを育てなくて将来
はありません。

厚労省、経産省、文科省だけでなく、内閣府(金融庁)も含め、総力を上げて
支援すべきです。誰が司令塔になるかが最大のキーでもあります。

【研究助成等の支援事業】

3省5カ年計画も相変わらず入口(基礎研究支援等)だけに集中しています。研
究費配分システム(論文博士中心)が変わらないなら出てくる成果も変わりませ
ん。研究支援は、基礎だけでなく、検査技術、データ処理、臨床応用そして産業
化支援も行うべきです。

研究成果の評価は厳格に行なうべきです。これは予算がどのように使われたか
という会計上の評価や検査ではなく研究成果の評価です。過去の実績やボスへの
配分システムが変わらない限りいくら予算をつけても成果は上がりません。

レートステージに支援するのは個々の企業を助ける事になるという人がいるそ
うだが、産業化により優れた医療機器を患者に届ける事が悪い事であるとは思わ
ない。例えば、底支えをするようなバイオ・再生医療ベンチャー向けファンドの
創設(200億円以上、運用は既存のVCには絶対にはやらせない事が重要)や低利
のローン(1億円以上)制度を創設し、確認申請終了時、臨床治験開始時、製造
承認申請時をエビデンスとしてレートステージにあるベンチャー企業に貸し出す
制度の創設を望みます。このステージに達していれば上場確度も上がっているの
で返済が滞る恐れも少ないと思いますし、何より産業化がなされれば税収が増え
ます。

【研究開発パートナについて】

これは、企業が技術評価、市場性等の検討をしてパートナを探すしか方法は無
いと思います。

【審査制度】

バイオ・再生医療は進歩が早く、起きた事象を判断しているのでは追いつきま
せん。法の抜本的見直しが必要です。

審査は一本化し、1官庁で帰結するようなシステムにすべきと思います。(FDAの
ように)

何が審査対象かは明確に示して欲しい。

目的(疾患)別に許可を出すなら、「リスク&ベネフィット」を明確にし、運
用すべきです。例えば、何より救命を最優先にするなら、健常人と同様の審査内
容はオーバースペックになります。

少しは申請者サービスをしてもらいたい。FDAのように審査進捗状況を知らせ
てもらえるようにすれば、大多数のベンチャー企業は説明責任を果たす事ができ
るようになり、ファイナンスも今よりは容易になると思います。

時間は金と同じ、いやそれ以上の価値を持つという概念が官庁には全くありま
せん。早急に絶対に改善していただきたいと思います。

【最後に】

以下は全くの私見ですが、医療機器、医薬品産業は自由に行うことはできませ
ん。薬事法があるからです。その意味で、コンシューマ産業と同一には考える事
はできません。モチベーションのような感情的要素が強いという事です。

医療機器の許認可に厚生省時代から長い間お付き合いしてきました。その経験
の中で思うことは、お役人の意識の違いです。昔は、共通の認識として患者に良
い医療機器を早く届けようという、言わずもがなの共通認識がありました。審査
者、申請者お互い立場の違いがありますから、己が立場からの意見のぶつかり合
いもありました。これらはほとんど建設的だったと記憶しています。最近は、相
談や打合せの場に患者の姿が見えません。すべてメーカはいい加減で金儲けしか
考えていないという姿勢に見えてしようがありません。

メーカは営利企業ですから金儲けは第一の業務目的です。しかし、薬事法とい
う法律の管理下でのビジネスであることを忘れている企業人はいないと思います。
審査側の過剰な意識(自己防衛)は、審査の遅れ(遅延かサボタージュか)等に
現れます。これについて申請者は面と向かって抗議はできません。それは審査が
ブラックボックス状態で内実を窺い知れないからです。このように頑なな姿勢に
変わってしまった原因は何かを解明し、解決する事も重要と思います。(ほとん
どの関係者は判っています)今のままでは、メーカも審査当局も不幸です。最も
不幸なのは患者であると思います。

再生医療は、厚労省、PMDAの二人のT氏が牽引してきたと言って過言ではあり
ません。お二人とも再生医療産業化にかける思いの強さは企業人を凌ぐものがあ
りました。しかし、一人のT氏(田中克平生物系審査部長当時)は昨年他界され、
もう一人のT氏も本年7月に他部署に転出されました。この先、再生医療を引っ張っ
てくれる人が早く出てくれることを祈るばかりです。

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