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臨時 vol 370 「新型インフルエンザ副作用への対応の彼我の違い」

医療ガバナンス学会 (2009年11月27日 08:24)


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細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長
高畑紀一

2009年11月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp

【GSKと厚生労働省は異なる学問で判断しているのか】
11月23日、グラクソ・スミスクライン社(GSK)がカナダで製造した新型インフル
エンザワクチンが、想定を超える副作用が報告され、GSKがカナダ政府に同磁器に製造
されたワクチンの使用中止を要請したことが報じられた。
通常10万人に1人の割合で生じるアナフィラキシーショックが、2万人に1人の割
合で生じたというもの。
「日本も輸入予定のワクチン」としてテレビのニュース等で報じられたのであるから、
報道を目にした多くの国民は「GSKのワクチンは危険」「輸入ワクチンは危険」といっ
た印象を持ったのではないだろうか。

一方、国内産ワクチンについては、21日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品
等安全対策部会安全対策調査会と新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会の合同
会議が開かれ、国内産新型インフルエンザワクチンの安全性について「季節性インフル
エンザワクチンと差は無く、現時点では重大な懸念は示されていない」と見解をまとめ
ている。
しかし、医療従事者約2万2千人を対象とした安全性調査で、入院を必要とした重篤
な副作用が6件(約0.03%)報告されており、一般の医療機関からの副作用報告では、
推定約450万人の接種に対し、重篤な副作用報告は68件(内死亡が13件)で約0.002%
となっている。
これらの報告数と季節性インフルエンザワクチンの副作用報告数を比較すると、季節
性インフルエンザワクチンの場合、2008年度は推定約4740万人の接種に対し、重篤な
副作用は121件で約0.0002%となっており、新型インフルエンザワクチンの重篤な副
作用発生頻度は、季節性インフルエンザワクチンの10倍となる(医療従事者を対象と
した安全性調査では100倍)。
もちろん、これらの報告件数を単純に比較することは適切ではないかもしれない。
事実、21日の合同会議では「報告の基準が異なり、単純に比較できない」との認識で
一致したと報じられている。

しかし、上記の2つのワクチン~GSKと国内産~の副作用情報への対応は、私はどう
にもすっきりしない。
前者は想定を上回る5倍の副作用情報に対し、当該ロットの使用中止を要請する
という迅速な対応をとっているのに対し、後者は10倍から100倍という副作用情報
について「単純に比較はできない」と「判断保留」とした上で、なぜか「季節性イ
ンフルエンザワクチンと差は無く、現時点では重大な懸念は示されていない」と結論
付けている。
前者と後者では、異なる学問の理論によって対応を導き出しているように感じられてし
まう。

文系学士の私ごときが述べるのもいささか僭越ではあるが、科学的な考え方からすれ
ば、国内産新型インフルエンザワクチンの安全性は、副作用情報が季節性ワクチンと単
純に比較できない以上、「季節性のものと差が無い」とは言えないし、「季節性のものよ
り危険である」とも言えない、というのが妥当なのではないだろうか。
少なくても、季節性インフルエンザワクチンとの比較という観点からは「何とも言えない」のである。

【国内産ワクチンありきの厚生労働省の二枚舌】
そもそも厚生労働省は今回の新型インフルエンザワクチンの有効性や安全性を適切
に評価しようと考えているのだろうか。
サーベイランスが適切に行なわれなければ、有効性も安全性も適切に評価できない。
今回、厚生労働省は国内産の新型インフルエンザワクチンについては治験求めていない。
簡単に言えば季節性インフルエンザワクチンと同様に製造するからというのがその理由だ。
にも拘らず、季節性インフルエンザワクチンと比較可能な副作用情報収集を行なって
いない(少なくても現時点で)。
GSKのワクチンがカナダで何本使用されたのか報道では定かではないが、出荷された
660万回分のワクチン全てが使用されたわけではないだろう。
それでもGSKはカナダ政府に同ロット17万回分の使用中止を要請し、かたや我が国
では約450万人の接種事例に基づく副作用情報を得ても、重篤な副作用を生じたワクチ
ンが特定のロットに集中しているのか否かすら明らかにしていない。
彼我の対応の違いの背景には「国内産ワクチンありき」に拘泥する厚生労働省の姿が
見えてくる。
そこには国民の命と安全を守る使命感も、科学者としてプライドも感じられない。

我が国のワクチン・ギャップの歴史は、過去の副作用によるワクチン禍への誤った対
応から始まっている。
ワクチンを接種する以上、絶対に避けられない副作用の実態を正確に把握し、被害者
の速やかな救済を実現し、原因を探り、対策を講じる。
そして、ワクチンの作用と副作用、ワクチンがもたらす恩恵と一定の頻度で生じる避
けられない被害の正確な情報を国民に伝達し、国民の理解を深め、社会的合意を形成し、
国家的施策としてワクチンによる疾病予防を進めていく。
このような欧米諸国が積み重ねて歴史から学ばず、ワクチンの作用・副作用の双方と
正面から向き合わずに小手先でその場しのぎの対応を重ねてきた結果が、ワクチン・ギ
ャップである。

現在、それでも予防接種法による定期接種が維持されているのは、関係してきた専門
家や医療従事者の努力の賜物であろう。
医学・医療のプロフェッショナルとして、科学者として、真摯な姿勢を貫いてきたか
らこそ、現在の予防接種が維持されてきたといっても過言ではない。
しかし、今回の新型インフルエンザワクチンの副作用情報に対する彼我の違いを見る
につけ、その先人達の努力をも無にせんばかりの「国内産ワクチンありき」の姿勢には
強い憤りを感じる。

厚生労働省が9月6日よりて募集したパブリックコメント、「新型インフルエンザワ
クチン(A/H1N1)の接種について(素案)」では、輸入ワクチンの危険性だけを煽る記
述を盛り込み、結果として相当数の「輸入ワクチンは怖い」と感じたコメントが寄せら
れる結果となった。
今回のGSKの副作用情報への対応も、報道を見ると「厚生労働省に入った情報」とニ
ュースソースを明記されており、厚生労働省からの情報によるものであることが明らか
である。
一方で、国内産ワクチンについては、単純に比較できないと認めるデータを根拠に、
安全性は季節性インフルエンザワクチンと差が無いと断言してしまう。
輸入ワクチンについては危険性を煽り、国内産ワクチンについては安全性を誇張する、
そんな二枚舌が使われている。
正しい情報が国民に伝達されなければ、ワクチン・ギャップ解消は進まない。それど
ころか誤った印象を植え付ける情報操作はワクチン・ギャップを拡大する危険性を孕ん
でいる。
「輸入ワクチンは危険」「国内産ワクチンは安全」という印象付けを意図した情報操作
により国民の判断を誤らせてでも国内産ワクチンだけで新型インフルエンザ対策を乗
り切ろうとする厚生労働省の目論見は何なのであろうか。

【首をかけられた国民の窮状】
11月22日、23日の連休期間中、私の次男が38度を超え発熱・嘔吐、呼吸困難を訴
えため近隣の医療機関を受診し、そこで地域の小児夜間休日診療所への受診を指示され
た(新型インフルエンザの可能性があるため)。
受診した地域の小児夜間休日診療所は野戦病院さながらの状況であった。
通常、医師1名のもと、看護師、薬剤師、医療事務等のチームで対応している当該診療
所であるが、当日は医師2名という倍の体制で対応していた。
しかし、12:00に診療受付した我が子の診察はなんと18:00、6時間待ちという状況
であった。
待合室や駐車場にあふれかえった患児たちはみなグッタリとした様子で、いわゆる
「コンビニ受診」という体の患児は見受けられなかった(あれだけ待つならコンビニ受
診なら帰ります)。
夕方17:00の時点で既に患児は300人を超え、それでも来院する患児は後を絶たな
い。次男とともに診察室に入った家内によれば「ほとんどはインフルエンザの患者」と
のことだったそうだ。
しかし、発熱、嘔吐、咳、頭痛といった症状だけでインフルエンザとは診断できない。
他の疾病との鑑別も必要となる。
300人を超える発熱児を診るのだから、細菌性髄膜炎といった疾病の可能性も十分に念
頭におかなければいけないであろう。
診察に当った医師、医療スタッフはとても大変であったろうし、診察を待ち診断を得る
までの保護者も不安にさいなまれたであろう。
そして何より、グッタリとした状態で何時間も待たなければならなかった子どもたちの
辛さを考えると、胸が締め付けられる思いがする。
新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会で岩田健太郎神戸大学教授が発言さ
れていたように、新型インフルエンザワクチンだけではなく、ヒブワクチンや小児用7
価肺炎球菌ワクチン等の接種がすすめられていれば、この状況も大きく異なっていたか
もしれない。
国内産ワクチンありきの姿勢に拘泥し、ワクチンギャップ解消と逆行し続ける厚生労働
省の幹部の方々には、ワクチンギャップの狭間で、ワクチンで防ぐことのできる疾病か
ら守られていない我が国の子どもたちと保護者たち、そしてその診療にあたる医療従事
者の現実の困難を直視してほしい。

現役の厚生労働省医系技官である木村盛世先生は、厚労省幹部を「自分の首をかけずに
国民の首をかけて仕事をしている」と喝破した。
新型インフルエンザワクチン副作用への対応の彼我の違いから私が感じることは、木村
先生のそれと全く同じである。

 

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