医療ガバナンス学会 (2009年11月28日 06:00)
国民的な観点から、国の予算、制度その他国の行政全般の在り方を刷新すると謳う行
政刷新会議には、国民の大きな期待が集まりました。事業仕分けは、業界トップの意を
汲んだ族議員が、担当官僚と非公開で協議し予算要請するこれまでのものと異なり、透
明性の点で優れていました。また、仕分け作業によって、補助金の中に、天下り機関の
維持を目的としたものがあること、事業本来の目的に使われていない無駄な部分がある
ことなどが判明しました。
しかし、行政刷新会議の実態は準備不足が目立っており、政治主導ではなく、財務省
主導とも言うべき内容となっています。
1 国家ビジョンとの整合性のなさ
刷新会議による事業仕分けは、新政権が日本経済の成長戦略として謳った、「内需主
導への転換、科学技術の促進、医療介護を雇用創出産業に育成する」といった国家ビジ
ョンから離れ、コストと投資の区別が出来ず、本来の事業仕分けとは異なる削減目的の
パフォーマンスに陥っています。
2 対象事業選定における政治の責任
事業仕分けの対象事業は、全事業の15%に過ぎず、その対象には、財務省の一般会計
と所管の四つの特別会計の事業の多くが除外されるなど、刷新会議には対象事業選択を
行ううえでのリーダーシップが欠けています。
3 仕分け人選任の無計画
仕分け人(評価者)の選任に際して、本来の目的に沿った人選がなされておらず、国
民新党が指摘するように市場原理主義を推進した有識者が選ばれています。また、仕分
け人同士の間でお互いの専門分野が理解されておらず協調関係が構築できていません。
4 財務省主計局による主導
財務省主計局による論点シートは、恣意的で問題のある資料を用いていました。仕分
け作業は、実質上、この査定シナリオに沿って論議され、評決されるまでの間、刷新会
議側議員は独自の文書を準備せず、司会進行役にとどまっていました。
全国医師連盟は医療領域に関わる事業仕分けの作業を見守ってきました。医療現場に
過重労働が横行することが医療安全上の重大な問題となっていますが、仕分け人はこの
認識に欠けていました。また、財務省の行った論点説明には、医療費抑制政策を実施し
た前政権下の財政制度審議会での資料が引用されていました。仕分け人は、財務省主計
局による一方的な統計資料を信頼し、短時間の論議で評決しており、この点でも評価の
正当性を欠くものとなっています。
財務省主計局によると、診療所と特定診療科への診療報酬配分の減額による財源を捻
出することで、病院勤務医対策を補填すれば、新たな医療費財源を増やさずに医療崩壊
を食い止めることが出来るとの主張を展開しています。こうした医療費抑制政策の維持
は、民主党のマニフェストに逆行するものです。
医療費には無駄があるどころか、現在の医療は勤務医の異常な長時間労働によって漸
く支えられ、また莫大な勤務医への不払い賃金があることを、私達は指摘しています。
(参考文献、全医連提言、ユニオン声明)
また、開業医の診療報酬を削減することには多くの問題があります。前回までの診療
報酬削減により、多くの診療所が疲弊しています。個人開業医の事業収支差は、零細企
業である診療所の事業所の所得であり、従業員のボーナス積立金や退職給与引当金、土
地建物・設備投資の為の借入金の元本返済等を含んでおり、これを院長の給与として勤
務医と比較することは非科学的です。全国医師連盟は開業医の報酬を削って勤務医に廻
すことには反対します。
全国医師連盟は、増加する一方の医療需要を支えるためには、現在の予算、人員では
限界があることを主張してきました。、医療レベルを維持したいのであれば、政権公約
通り、医療費の大幅な増加に転じることを現政権は明らかにすべきでしょう。政府は、
これ以上の財源が出せないのであれば、医療サービスの低下を国民が受け入れるよう説
得すべきでしょう。
事業仕分けは、本来、削減ありきの作業ではないはずです。評価に際して、日本医療
の国際的到達点(最高レベルの医療を先進国中最低の医療費と過酷な労働環境で達成し
ている)や医療福祉予算の経済的波及効果、雇用創出効果など前提となる重要な認識を
欠いた議論が展開されたことは誠に遺憾です。
財務省は、19日、平成22年度予算編成に際して、他領域に先んじて医療予算に対す
る方針をまとめ、「医療費全体の増額をせずに、医療崩壊を食い止めるべき」と発表い
たしました。民主党政策集INDEX2009には、「累次の診療報酬マイナス改定が地域医療
の崩壊に拍車をかけました。総医療費対GDP(国内総生産)比を経済協力開発機構(O
ECD)加盟国平均まで今後引き上げていきます。」と明示しており、このままでは明
確な公約違反となります。
私達は、26日に100人超の民主党の衆参両議員で結成した「適切な医療費を考える
議員連盟」の動きを歓迎いたします。
鳩山政権は、政治主導でなく財務省主計局主導で行った事業仕分けのとりまとめ結果
を【見直し】、リーダーシップに欠く行政刷新会議を【刷新】するべきです。また、民
主党の公約違反となる医療予算方針を表明する財務省幹部に対して直ちに修正を促す
事を求めます。
参考文献
臨時 vol 365 「事業仕分けへの疑問」
医療ガバナンス学会 (2009年11月25日 06:15)
http://medg.jp/mt/2009/11/-vol-365.html#more
中医協炎上、「激しく、時には優しく」と長妻厚労相
(2009年11月14日 09:27) |
http://lohasmedical.jp/news/2009/11/14092716.php
持続可能な医療体制を実現するための全国医師連盟の五つの緊急提言
http://www.doctor2007.com/teigen090806.html
新政権への医療現場からの要望
http://www.doctor2007.com/teigen090914.html
全医連と全国医師ユニオンは、11/22に共同記者会見を行い、【医療機関における36協定全国調査結果】を発表致しました。
http://www.doctor2007.com/unikyou.html
「医療機関における全国的な労働基準法違反および勤務医への賃金不払いに抗議する」 全国医師ユニオン声明
http://homepage3.nifty.com/zeniren-news01/union.htm