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Vol.096 地方に行きたい医師を拒む”ブラック組織”の罪 厚労省の最新調査で明らかになった日本の問題点

医療ガバナンス学会 (2017年5月5日 06:00)


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この原稿はJBPRESS(4月20日配信)からの転載です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49774?page=2

相馬中央病院内科医
森田知宏

2017年5月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

4月6日、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の結果が発表された*1。これは、医師の勤務時間に加えて、勤務地の希望などを詳細に聞いたもので、全国の医師10万人を対象に配布し、1.6万件の回答があった。
その結果、医師の約半数が地方での勤務意志があることが明らかになった。特に50代以下では、51% (5449/10650)が地方での勤務意志ありと回答した。
この「地方」の定義は、「東京都23区及び政令指定都市、県庁所在地等の都市部以外」であり、日本の人口の約6割を占める。
大規模な設備が必要な先端医療や希少疾患の医療は都市部でしか成立しないことを考慮すると、基本的な医療が日本中で提供できることを目標にするならば、十分な数の医師が地方での勤務を希望としていると言える。
●医師の流動性を阻害する医局人事

つまり、医師が希望どおりに勤務地を選ぶことができるならば、地方の医師不足は緩和される可能性がある。では、何がその希望を阻むのか。
今回の調査では、地方勤務を希望しなかった医師に対して、その理由を聞いている。それによると、全世代を通じて仕事内容、労働環境という回答が多い。加えて、20代の3位、30・40代で5位となった理由が「医局の人事等のためキャリア選択や居住地選択の余地がないため」であった。
私が注目したいのはここだ。地方の医師不足解消には、医師の流動性を高めることが解決策になる。しかし、医局がその流動性を妨げている可能性がある。

医局とは、大学の教授を頂点とするピラミッド型の組織である。もともとは、医局は関連病院に医師を派遣するため、一定の流動性を保つ役割を果たしていた。これを根拠に、医局関係者は「医局が地域医療を支えてきた」と主張する。
しかし実際には、溜め込んだ医師の運用は非効率で、ダブつかせることが多い。その象徴が、医局の本丸たる大学病院だ。このことは、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」座長の渋谷健司先生の投稿*2にも描かれている。
「大学付属病院での臨床実習に参加した時、私は衝撃的な光景を見た。それは、60代の医者が慣れないオペをし、その横で30代半ばの油が乗った医者が、人工心肺を冷やすために、ただひたすら氷を割る作業をしていたことだ」

*1=http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000160954.html

*2=http://www.huffingtonpost.jp/kenji-shibuya/doctor_work_life_balance_b_15857308.html

このような、若手医師がする臨床業務と無関係の作業は、患者の車椅子を押す、入院した患者の常用薬のリストを作る、など現在でも枚挙にいとまがない。その原因は、医師が多すぎるからだ。
医局は、医学生を在学中から勧誘できる。だから、人件費を抑えても大学病院には医師が入ってくる。とはいえ、医師が増えても患者が増えるわけではないから、臨床業務に関係ないような仕事を割り振ることになる。

民間病院ではこうはいかない。特に昨今は医師・看護師の調達コストが上がっているため、これらの業務を他の医療職で分担するのが普通だ。
例えば宮城県の仙台厚生病院では医療クラーク(医療事務作業補助者)の活用を進め、千葉県の亀田総合病院では臨床検査技師や薬剤師など、ほかの医療職を柔軟に運用して病棟業務で活用する、などの工夫を行っている。
●効率経営と医師の成長を促す地方病院

極端な話、外科医ならメスを、内科医ならカテーテルや内視鏡を、いかに長い時間持たせることが、医師の生産性を挙げることにつながり、ひいては病院の経営上も必須の命題である。

近年、このような傾向は変わりつつあった。上記のような事実が知られるにつれ、効率よく臨床経験を積みやすい医局を選ぶ医師や、医局に入らずに研鑽を積むような医師が増加したからだ。

2008年の初期臨床研修制度必修化を契機に、民間病院が積極的に情報発信を行うようになったこともあり、民間病院の中には症例数が多く若手医師でも豊富な研修を積める施設があることが知られるようになった。
若手医師のキャリアが多様化したため、自大学の卒業生をただ取り込んでいた医局は、いまや「選ばれる存在」だ。魅力的な研修先を集める医局には今でも医師が集まるし、そうでないところは閑古鳥が鳴く。この時代の変化に気づかない医局はブラック化している。

例えば、九州の某大学では、在学中に医局へ入ることを在学生に「強制」する診療科がある。そんな取り決めに意味はないし、そんな不自然なルールの押しつけがある時点でブラック臭がするが、社会経験のない学生は従ってしまう。
そのうえで、年に1度の納会では医局から抜け出た医師の名前を挙げて吊るし上げる。辞めた当人は当然欠席しているし、痛くも痒くもないのだが、その場にいる若手医師、学生への恫喝には十分だろう。
「うちの医局を辞めて○○地方で勤務できると思うな」という言葉を言われた研修医もいる。こうなると、やっていることは反社会勢力と変わらない。

それに輪をかけたのが専門医制度改訂だ。
制度改訂によって、専門研修を行える病院の要件項目が増加し、地方の中核病院でも専門研修施設の資格を満たさなくなった。その中には、症例数も豊富で、臨床成績も高く、専門研修の場として若手医師のリクルートに成功していたような病院もある。
●時代に逆行する専門医制度改定

いわば、独自の販路を開拓して利益を上げている農家を、政府に圧力をかけて販路を潰そうとするようなものだ。

日本専門医機構の吉村博邦理事長は、「地域医療への配慮を分かりやすく示す」と主張している。しかし今回の調査では、多くの医師、特に専門医制度で影響を受ける若手の医師が地方での勤務ができない理由に「医局」を挙げている。

つまり、医局は地域医療を支える屋台骨ではなく、医師の地方流出を阻む組織である。必要なのは、配慮ではなく、医師の束縛をやめることだ。医局以外の多様な研修先こそが、現場医師の希望をかなえ、さらには地方での医師不足緩和につながる。

専門医制度は現在、変更へ向けて突き進んでいる。全国市長会、全国自治体病院協議会、さらには署名活動も行われて、反対への声明が出されている。
日本専門医機構は少し意固地になっているようだが、それは大人げない。今回の調査結果が、新しい専門医制度へどのように反映されるのか、または現場医師の意見など無視して突き進むのか、興味深く見守りたい。

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