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臨時 vol 393 「新型インフルエンザワクチン接種後の早期死亡事例を検証する」

医療ガバナンス学会 (2009年12月11日 06:00)


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東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門
客員准教授 上 昌広

※今回の記事は村上龍氏が主宰する Japan Mail MediaJMMで配信した文面を加筆
修正しました。

2009年12月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


今週発売の週刊朝日に「新型インフルエンザワクチン接種後26人死亡 「死にすぎ」の怪」という記事が掲載されました。岩田智博さんという記者が書いたもので、私も取材に協力しました。私の知る限り、マスメディアが、高齢者への新型インフルエンザワクチン接種の危険性を指摘したのは、これが初めてです。
実は、私自身に皆さんにお詫びしなければならないことがあります。私は、これまでの連載で、持病を持つ高齢者は、新型インフルエンザに罹ると致命率が高いため、ワクチンを打つべき、また、確実に免疫を獲得するために、1回よりも2回接種が好ましいと主張してきました。ところが、実態は、そんなに簡単ではなさそうなのです。

【新型インフルエンザワクチン予防接種後副反応検討会】
私が驚いたのは11月21日に厚労省で開催された「新型インフルエンザワクチン予防接種後副反応検討会」と薬事審医薬品安全対策部会安全対策調査会の合同部会の資料を読んだからです。
当初、この委員会に関する報道は、専門紙ですら「新型ワクチン「安全性は十分」」「死亡例「ワクチンとは明確な関連なし」(医事新報 11.28号)でした。マスメディアも同じような論調でしたから、多くの国民は、「国産の新型インフルエンザワクチンは安全だ」と考えたと思います。
ところが、委員会に提出された資料や、委員の発言を読む限り、どうもマスメディアの論調はおかしいのです。新型インフルエンザワクチンは、概して安全ですが、一部の人々には危険な可能性があります。
まず、この検討会ではワクチン接種後早期になくなった21例が報告されています。このうち、19例で調査結果が報告されています。注目すべきなのは、19人全員が何らかの基礎疾患をもち、17例が70歳代以上の高齢者であることです。また、14人がワクチン接種後2日以内、7人は接種後24時間以内に死亡しています。つまり、「持病を持つ高齢者には新型インフルエンザワクチンの接種は危険」な可能性があるのです。
余談ですが、今回の死亡報告が氷山の一角である可能性は否定できないものの、これまでの死亡例が「持病をもつ高齢者」に限定されていることは朗報です。すでにワクチン接種を受けた妊婦、持病をもつ若年者、幼児・小児では、致死的な副作用が起こる可能性は低いと推論できるからです。

【具体例】
では、具体的な事例をご紹介しましょう。
70歳代の男性です。肺気腫による慢性呼吸不全を患っていました。11月11日午後2時頃に新型インフルエンザワクチンを接種。接種後には特に変わった様子はありませんでしたが、翌日の午後7時半頃、家人が死亡しているのを発見しました。主治医と警察の検死により、急性呼吸不全による死亡と診断されています。解剖は行われていません。
委員会に出席した呼吸器内科の専門医は、「肺気腫の患者で、前日は元気で、翌日肺気腫の呼吸不全で突然死するような経過はほとんど経験がありません。一般に息苦しくなっても他の人に連絡する、救急車を呼ぶなどの余裕はあります。(中略)因果関係無しとしたいのですが、もう少し情報が欲しいところです。」と述べています。主治医と呼吸器専門医の見解に乖離がありますが、私は呼吸器専門医の見解のほうがしっくりときます。
ついで、90歳代の男性です。気管支ぜんそく、認知症を患っていました。11月19日午後3時半にワクチンを接種。当日、17時55分頃より、喘鳴が生じ、呼吸機能の急性増悪を認め、18時44分に死亡しました。委員会に出席した感染症専門医は、「喘息患者に対するワクチン接種後2時間23分後の死亡であり、因果関係を考慮すべきである」とコメントしています。これは、ワクチン接種が死因の可能性があるということです。
この例に限らず、全体を通して、委員たちは「司法解剖が望ましかった」「検視の結果が重要」と述べて、ワクチン接種と死亡の関係に関して、慎重な態度をとっています。また、「死亡とワクチン接種は関連なさそうだ」ということで、見解が一致したのは6例だけで、残りの13例は「評価不能」や「可能性は否定できない」となっています。つまり、委員の間でも見解が一致していません。

【持病をもつ高齢者には耐えられない副作用が出るかも知れない】
実は、私も委員たちの見解と全く同じです。死因がはっきりしない13人の方については、様々な可能性を考えるべきです。
一般論として、死期が差し迫っていると考えられる患者に対しては、主治医はワクチンを打ちませんから、全ての死亡が予想外だったと考えるべきです。つまり、患者の選択には、主治医によるセレクションがかかっており、非常に状態の悪い患者は除外されていると考えるのが普通です。「持病をもつ高齢者は、しばしば突然死するから、今回もそのせいだろう」と短絡的に結論すべきではありません。

【死因究明制度の充実を!】
今回の件に関して、最大の問題は、死因が特定されていないことです。持病をもつ高齢者ですから、様々な理由で亡くなります。例えば、心筋梗塞、脳出血は、よく知られた突然死の原因です。そして、今回の報告でも、担当医の多くは、除外診断として、この可能性を挙げています。限られたリソースを用いて診断を下さねばならない医師にとっては、当然の判断です。
ただ、これで終わりにしてしまうのは問題があります。もっと死因究明にウェイトを置くべきです。皆さんも、パロマ事件、連続保険金殺人事件など記憶に新しいところでしょう。何れの事件でも、診察した医師は心不全、脳出血と診断しました。後日、誤診であることが判明したのですが、死因究明制度が充実していれば、被害者はもっと少なくて済みました。
ちなみに、欧米先進国と比較して、日本の死因究明制度がお粗末なことは有名です。今回、検討された19例のうち、解剖結果について言及されているのは、わずか1例。大部分が突然死であることを考えれば、異様です。もし、犯罪や事故が隠れていても、見過ごすことになります。最近、医師で作家の海堂尊さんが、死因究明のためにCTを使うことを推奨していますが、まさに、そのような対応が必要です。
ちなみに、今回の委員会でも、これだけ死因不明例が出ているのに、法医学を専門とする人は呼ばれていません。

【新型インフルエンザワクチンは、高齢者では持病を悪化させるかも知れない】
次に、ワクチン接種は直接の死因ではないとしても、持病の悪化や合併症発症を促進した可能性があることを、もっと考慮すべきです。わかりやすく言えば、新型インフルエンザワクチンは健康な人には安全ですが、持病がある人では、ワクチンによって炎症が生じるため、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を起こして急死する可能性があるということです。つまり、ワクチンの品質ではなく、優先接種対象者の選択に、問題があったということです。
私は、この可能性は十分にあり得ると思っています。しかしながら、これを医学的に検証するのは困難です。大規模な疫学調査が必要で、これまでまとまったデータはありません。今後の調査研究が必要です。
ただし、「おそれがある」という現時点でもすぐに出来ることがあります。医師・患者に対して、十分にリスクをアナウンスすることです。そもそも、臨床現場では、入手可能な情報を用いて、患者と主治医で個別に判断するしかありません。十分な情報は、患者・医師にとって大きな武器です。

【持病をもつ高齢者には新型インフルエンザワクチンを薦めてもいいのか?】
4月にメキシコで新型インフルエンザが報告されて以降、世界各国で研究が進んでいます。最近の研究によれば、高齢者は新型インフルエンザに罹りにくいことがわかってきましたが、一旦罹患すれば致死率は高いことは変わりません。ワクチンは、依然として有力な予防手段ですが、今回のように致死的な副作用が出るのであれば、ジレンマに陥ります。
新型インフルエンザワクチンは万能ではありません。現に、ワクチンを打ったのに、新型インフルエンザで死亡した30代の看護師の事例が報道されています。もし、新型インフルエンザワクチンの効き目が、季節性インフルエンザワクチン並みなら、その有効性は50-60%程度といったところでしょうか。一方、高齢者は新型インフルエンザに罹りにくいのに、持病があれば、致死的になるかもしれません。このような患者に、新型インフルエンザワクチンを打つべきか?実に難しい問題です。
では、持病をもつ高齢者へのワクチン接種を中止すべきかというと、そうとも言い切れません。高齢者で持病を有する人に限っても、おそらくワクチンで救命できる人数は、副作用で亡くなる人数を上回るでしょう。だからと言って、このような疑いが出てきた現在、優先接種対象として、ワクチン接種を推奨し続けていいのでしょうか?

【新型インフルエンザワクチンは、あわや第二のエイズ事件か?】
ここで問題になるのが、患者の価値観、および自己決定権です。有効だが、重大な副作用のおそれがある治療を受けるか否かは、患者と主治医の判断に委ねられるべきです。
一般的に、多くの国民は、持病の進行による病死は納得しても、「薬の副作用による死亡」は出来るだけ避けたいと思います。つまり、同じ死亡といえども、副作用死と原病死では大違いです。特に、副作用が回避可能な場合、その傾向は強まります。実は、この状況は医師にとっても同じで、致命的な副作用は絶対に避けたいと考えています。
このように、医師と患者の願いは同じなのに、しばしば齟齬が生じます。エイズや肝炎事件が典型例です。このような事件では、副作用のおそれがある薬剤を漫然と使い続け、被害者が増えました。この背景には、医師の不勉強以外に、製薬企業との癒着や厚労省の情報開示が不徹底だったことが指摘されています。
私には、今回の件と過去の薬害事件がオーバーラップします。厚労省やメディアが繰り返す「国産ワクチンは安全だ」という主張を信じて、高齢者に対して、漫然とワクチン接種を続ければ、大型の薬害事件へと発展する可能性があります。

【もっと情報公開を!】
では、具体的にはどうすればいいでしょうか。
その答えは、徹底的な情報開示です。実は、厚労省も自らのHPで情報を開示し、高齢者へのワクチン接種の問題点を紹介しています。具体的には、「基礎疾患を有する高齢者の死亡について」というコーナーで、「ワクチン自体に安全性上の明確な問題があるとは考えにくい」、「しかしながら、重度の基礎疾患を有する患者においては、ワクチンの副反応が重篤な転帰に繋がる可能性も完全には否定できないことから、接種時及び接種後の処置等において留意する必要がある。」と説明しています(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/s1121-2.html)。
問題は、厚労省の情報に多くの国民がアクセスできないことです。それは、この記述がHPのトップの「新型インフルエンザに関する情報(http://www.mhlw.go.jp/)」にはなく、審議会のコーナーに埋もれているためです(http://www.mhlw.go.jp/shingi/yakuji.html#anzen2)。これは、厚労省が、この問題を重視していないことの反映でしょう。これでは、国民は勿論、多くの医療関係者が見ることは期待できません。
このような情報発信によって、厚労省は「説明責任を果たした」と主張するでしょうが、これは不適切です。皆さんも、上司への重大な連絡を、メール一本送るだけで済ませたりしないでしょう。必ず、上司が読んだか確認するはずです。厚労省に求められるのは、国民の理解を確認することです。
今回の場合、厚労省はもっとやるべきことがあります。例えば、1)HPのもっと目立つところに記載する、2)長妻厚労大臣が記者会見で説明する、3)誤解を与える新聞や雑誌報道に抗議する、4)お得意の記者クラブへのリークなどなどです。その気になれば、いくらでも対応可能です。
逆にやってはいけないことは、「国民に誤解を与えないために、因果関係がはっきりしたものだけを発表する」ことです。厚労省の役人と数人の専門家で幾ら議論しても結論など出ない問題で、もし、問題があった場合に発見を遅らせます。

【対照的なグラクソ・スミスクライン社の対応】
このような厚労省の対応と対照的なのが、グラクソ・スミスクライン(GSK)社の使用保留措置です。同社のワクチンは、我が国が輸入予定であり、また厚労省も視察団を派遣したため、ご存じの方も多いでしょう。我が国の報道でGSK社のワクチンのイメージは、かなり悪化しましたが、実態は逆です。
GSK社、およびカナダ政府は、ケベック工場で製造した新型インフルエンザワクチンの特定のロットで、アナフィラキシーショックが多発したことを理由に、使用保留措置を発表し、製品の品質、流通状態などを調査しています。約17万人に投与され、6人がアナフィラキシーを発症しています。いずれも軽症で自然に軽快しています。
真相究明は、今後の調査結果を待たねばなりませんが、GSK社の対応は、我が国とは対照的です。副作用が発覚した段階で、すぐにその情報を公開し、さらに膨大な費用をかけて製品を回収しました。これは、副作用を未然に防ごうとした努力と言えます。
一方、厚労省や国産ワクチンメーカーは、20人以上がワクチン接種後早期に死亡しても、大きな問題とは考えていません。現に、早期死亡した患者のロットや、ワクチンを接種した持病をもつ高齢者の数を公開していないため、GSK社と同じ事が起こっていたとしても、問題を把握することが原理的に不可能です。
これまでの連載でも指摘してきましたが、ワクチンの安全対策には費用がかかり、国内の中堅規模メーカーが担当出来るレベルを超えています。ワクチンが生物製剤であり、ロットのばらつきの可能性がある以上、日本政府も、ロットごとの安全性データを発表し、迅速な対応ができる体制を整えるべきです。政府・製薬企業の視点にたった「ワクチン国粋主義」を貫くのではなく、国民視点に立った医療政策が実施されることを切に望みます。

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