医療ガバナンス学会 (2009年12月17日 08:00)
患者の身になってあらためて思うことは、患者の意見を代弁する者が中央社会保険医療協議会(中医協)にいないことです。
「中医協の意見書」が密室で決裂、問われる国民代表
ロハスメディカルNEWS(2009年12月10日 04:12)新井裕充
http://lohasmedical.jp/news/2009/12/10041237.php?page=1
公平のために診療側の主張の問題点から指摘させていただくなら、医療現場の厳しさを主張するだけでは、患者負担増を正当化することはできないという視点が欠けています。社会保障としての医療保険制度は、患者負担の軽減がその第一の存在理由です。モラルハザードによる医療サービスの過剰(コンビニ受診、医師誘発需要)が主張されており、それが多少なりとも存在することは事実であり、解決すべき大きな問題ではありますが、医療崩壊を食い止めようというような多額の医療費増額を主張するならば、患者負担の軽減がセットでなければそれが受け入れられることは決してありません。
支払い側の更なる医療費抑制の主張の根拠としては、経済状況の悪化と患者負担増が上げられています。
患者負担増は、自己負担割合を引き下げ、上限額を見直すという当然の選択肢を排除した上での話であり、本心からの主張とは、到底思えません。日本の患者自己負担は諸外国と比べて異常に高額であることはよく知られています。しかも、それはこの数年来のことに過ぎません。これによって実に効果的に患者と医療従事者の間に厳しい対立関係を持ち込むことに成功していますが、本心から患者のことを思うのであれば、やはりまずこれを引き下げることを主張するべきでしょう。
経済状況と財政状況が悪化していることも知っています。特に協会けんぽ(旧政管健保)や市町村国保、少なくない健康保険組合で今年は空前の赤字が予想できます。
ただし、他方で小泉政権下の好況期に欧州の小国の国家予算の数ヶ年分を賄って余りある内部留保の積み上がった大企業が少なくありません。官庁統計は存在しませんが、日本の経営者団体の指導的地位にある経営者が率いる大企業の設立している健康保険組合の料率は、たとえば日本経済断端連合会の会長・副会長を出している企業を調べてみると、デスクロージャーされている場合でも、本人事業主合わせて協会けんぽのそれよりも2%程度は低く設定されています。非公開としている場合、どれほど低くなっているのかは想像に難くありません。
事業主負担だけは協会けんぽ並としている良心的な健康保険組合もありますが、それで健康保険組合が赤字だと言われても、中小企業から協会けんぽに加入している事業主や従業員は納得できないでしょう。
しかも日本の企業では退職者は国民健康保険に移行するため、アメリカの自動車会社で問題になったような退職者給付(レガシーコスト)はほとんど存在しません。もちろん、後期高齢者医療制度への支援金負担がありますが、医療費総額がアメリカの半額ということもあり、比較すればさしたる金額ではありません。
支払い側は大企業や公務員の代表として選出されています。しかし、「医療崩壊とは、国民が必要とするときに適切な医療を受けられる状況が失われることである」1)とするなら、医療崩壊と疾病リスクに直面した国民の代表ではありません。
いまこそ、患者とその家族達が、特に大企業の健康保険組合をはじめとする保険料率の上昇という負担の増大と引き換えに、患者負担増大と医療崩壊の二つの回避に向けて声を上げるべきでしょう。
【参考文献】
1)本郷道夫;序にかえて、別冊・医学のあゆみ「地域医療崩壊と医療安全を巡って−医療版リスクマネジメント争論」、2009年5月