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臨時 vol 402 「医の中の蛙15」

医療ガバナンス学会 (2009年12月18日 08:00)


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無過失補償の拡充と免責制度の導入が望まれるワクチン接種の現場

ナビタスクリニック立川 院長
東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門 客員研究員
久住 英二

2009年12月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp


新型インフルエンザワクチンが始まりました。任意接種で費用は 自己負担です。厚労省は定期接種化を見送り、接種の責任を自らが負うことを回避しました。薄型テレビを購入するとエコポイントがもらえる一方、国民の命を守る施策に税金が投入されない、ばかげた世の中です。また、今回は無過失補償制度の拡充と免責制度の導入は見送られましたので、医療現場が負うリスクは増える一方です。

ワクチンは誰かのミスがなくとも、一定の確率で健康被害が起こります。まれな反応が起きた場合、その責任を製薬企業や医療者に負わせても、最終的には国民に不利益が生じます。なぜなら、製薬会社はワクチン開発から手を引き、医療者は接種しなくなるからです。海外では、無過失補償による迅速かつ十分な被害者救済と、免責(訴訟をおこしたら補償は受けられない。補償を受けたら訴訟は起こせない。)がセットになって制度化されています。米国では、無過失補償+免責制度を1988年に導入して以来、ワクチン価格、供給とも安定化し、新たなワクチンの開発が進みました。

日本では、任意接種ワクチンにより健康被害が生じた場合は、医薬品副作用救済制度により救済されます。しかし、補償は障害年金として年間300万円未満であり、不十分です。そもそもワクチンは、国民全体を感染症の脅威から守るために必要なのです。ですから、その被害は国民全体が負担して救済すべきです。先進諸外国では、ワクチン価格に上乗せしてお金を集めたり、政府が税金で基金を創って補償の原資にしており、十分な額の補償が受けられます。この制度を導入している米国やフランスでは、ほとんどの人が訴訟より無過失補償を選択するそうです。日本も新たな補償の仕組みを作るべきだと思います。

ワクチンは、現代医学が開発した、感染症予防に最も有効な対策のひとつです。日本のワクチン行政は先進諸国に10年以上遅れていると言われており、現状では日本国民はその恩恵に十分に浴していません。例えば、ポリオは、生ワクチンに含まれるウイルスがポリオを発症させる可能性があり、米国では1997年から不活化ワクチンを導入し、ワクチンによるポリオ発症をゼロにしました。日本では、いまだに生ワクチンによるワクチン接種後ポリオが発生しています。不活化ワクチン導入は予定すらありません。日本でもワクチン開発を進めるため、免責制度の導入と、無過失補償制度の拡充を同時に進める必要があります。

くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。

※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。

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