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Vol.232 現場からの医療改革推進協議会第十二回シンポジウム 抄録から(2)

医療ガバナンス学会 (2017年11月16日 06:00)


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*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

(参加申込宛先: genbasympo2017@gmail.com)

2017年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十二回シンポジウム

2017年12月2日

【session_02】福島 14:00-15:00

●福島から始まる「地域に根差した、新しい学び」の可能性
前川直哉

私が神戸の灘中・高教諭の職を辞し、福島市に転居して非営利団体「ふくしま学びのネットワーク」を設立し、活動を開始してから四年目になります。この四年間、県内外のたくさんの方々の力強いご支援のお蔭で、県内の中高生の学習をサポートする様々な活動を行うことができました。
そして現場で子どもたちと触れ合う中で、いまの福島ならではの「地域に根差した、新しい学び」の可能性が芽吹いてきていることを実感しています。
一点目は、福島の子どもたちの学びへのモチベーションの高さです。「右肩上がり」の日本を一度も経験していない今の子どもたちにとって、「いい学校に行けば、いい会社に入って、いい人生が送れる」「勉強は、将来の自分のため」といった言葉は、もはや説得力に欠けるものとなっています。
そんな中、福島の子どもたちの間には「支えられる側から、支える側へ」「今度は自分が誰かの力になるために、力をつける」といった、以前とは異なる学びのモチベーションが広がりつつあります。「なぜ学ぶのか」に対する一つの答えを、どこよりも早く見つけた福島の子どもたち、そしてそれを支える「カッコいい大人たち」についてご紹介します。
二点目は、県内各地で盛んになっている、高校生の社会活動です。
震災と津波、原発事故と風評被害、あるいは過疎など地域が抱える課題に対し、自分たち高校生に何ができるのかを考え、活動している高校生が福島県内にはたくさんいます。ふくしま学びのネットワークでは設立した2014年から毎年、こうした社会活動に取り組む高校生を顕彰する「ふくしま高校生社会活動コンテスト」を実施しています。地域の課題を発見し、その解決のため主体的に考え活動する高校生たちの姿は、まさに「課題解決型学習」の先進的なモデルケースでもあります。
今年度から県教委と共同主催となり「ふくしま高校生社会貢献活動コンテスト」とさらに発展したこの取り組みと、福島「カッコいい高校生」たちの姿をご紹介します。
●「はみ出し者」の六年半、そして未来へ
藤井健志

「はみ出し者」の六年半、そして未来へ予備校は「学校」なのか。予備校講師は「教師」「教育者」なのか。
私は「代ゼミのひと」なのか。私の福島での活動は「支援活動」なのか。
私は福島に「現代文」を指導しに行っているのか。私は福島での「剣道」指導のお手伝いをしているのか…
これらの問いに、私は明確に回答することができません。回答する気がないわけではなく、むしろ日々の活動によってその回答を創っている真最中。
いわば、私は今のところどこにいっても「青二才」であり、「はみ出し者」です。

そんな自分を面倒臭く思う反面、そんな自分だからこそできることもあると気づかせてくれたのは、ひとつには予備校でともに過ごす若者たち。定められた年限のなかで進路を決め、進学していく世界から一度はじき出された浪人生たちの「再チャレンジ」に寄り添う道程は、否が応でも「はみ出し者」の価値を実感させてくれます。
もうひとつには現代文という不思議な科目。自然言語をベースにしたコミュニケーションの中で、「最も適当なものを選べ」というかたちに象徴される試験の「正解」を、限られた時間の中で求めていくという理不尽さ、暴力性は、逆に「割り切れぬもの」の価値を浮き彫りにしてくれます。
そして、震災以降の多くの方々との出会いと経験。「文武不岐」の境界線あたりから始まったことが膨らんで、「名状しがたき」魅力あふれるものへと育ってきた過程を、この機会に無理を承知で言葉にしてみたいと思います。
●復興の光と影 ー福島の今を問うー
五阿弥宏安

福島には3つの顔がある。一般的に使われる漢字の「福島」、豊かで優しい古里を感じさせる平仮名の「ふくしま」、そして原発事故後に一気に広まった片仮名の「フクシマ」である。「フクシマ」には、危険に満ちた恐ろしい響きがある。
東日本大震災と原発事故の発生から6年9か月が過ぎようとしている。福島の復興再生は着実に進んではいるものの、「風評」と「風化」という2つの逆風との闘いは今なお続いている。「光」と「影」が交錯するまだら模様。それが今の福島の現状だと感じている。
「光」の面は、まず除染が進み、放射線値が大幅に減少していることだ。当然、避難地域も縮小し、最大時、県土の12%をしめた避難区域は、今は3%以下となった。それに伴い避難者も減少している。
「復興特需」で建設業や関連産業の業績は上向き、有効求人倍率も全国トップレベルとなっている。津波や原発事故で甚大な被害を被った浜通りを中心にロボットや宇宙航空などの新産業を担う「イノベーション・コースト構想」が動きだし、期待を集めている。「地元のために働きたい」という若者が増えていることも大きな希望といえよう。

一方、「影」の面としては、風評被害が根強いことだ。農作物については厳しい放射線検査が行われ、食の安全を守る取り組みは世界一だ。にもかかわらず、「福島産」とあると2割近い人が買うのをためらう現実がある。観光も厳しい状況が続いている。日本中がインバウンドで沸き返る中、福島で外国人客を見かけることは数少ない。いったん負の烙印を押されてしまうと、払拭は難しい。何とも悲しく、理不尽な話である。

事故を起こした原発の廃炉作業には膨大な時間と費用がかかる。「戻っても安心なのか」との疑念は消えない。避難区域は縮まったものの、帰還する人は少なく、風評被害もなかなか払拭できない。人口減少や産業の衰退は全国の地方に共通する課題だが、震災と原発事故がさらに拍車をかけている。

福島というと放射線のリスクばかりが注目されるが、実際には長引く避難生活のストレスや運動不足、将来への不安、生きがいの喪失といった要因が、健康状態の悪化をまねいている。福島では災害関連死が2000人を超え、地震・津波の犠牲者を上回った。子供たちの肥満傾向や運動能力の低下も気にかかる。
真のリスクが何かは明らかだろう。危険に満ちた「フクシマ」を「福島」へと変え、さらに豊かで優しい「ふくしま」を取り戻していく。それが私たち地元紙の使命だと考えている。
●避難区域の解除に伴う新たな地域社会の問題
及川友好

福島県東北部太平洋岸に位置する南相馬市は、東日本大震災による地震 、津波、福島第一原子力発電所の事故の被害を受け、人口の9割、約6万2千人が避難を経験した。原子力発電所事故による被曝の健康への影響はほとんどないと考えられるが、遠距離かつ長期間避難による健康被害は大きく、脳卒中、糖尿病、高脂血症などの有病率が増加し、老健施設での年間死亡率が増加した。

南相馬市の北2/3に位置する原町区、鹿島区は震災後6ヶ月目には居住制限が解除されたが、南1/3に位置する小高区(福島第一原子力発電所から半径20km圏内)は昨年7月やっと居住制限が解除された。

5年4ヶ月の居住制限を経て、地域住民は住み慣れた故郷に戻ることになったのである。現在、居住制限解除後1年4ヶ月が経過したが、帰還者は2200人あまり、帰還率は僅か17.2%である。
また、帰還者の多くは高齢者であり、高齢化率は54.5%、震災前高齢化率の2倍である。小高地域を見渡すと、電気、ガス、水道という基本的生活インフラは復旧したものの、生活を営む上での基盤となるとなる産業、商業、教育、老人の足となる交通環境は整っていない。

医療は地元医師による医療が少しずつ再開しているが、福祉に至っては、何もないに等しい。この様な老人にとって非常に生活しにくい環境を理解したうえで、人々が地元に戻っているのだろうか。5年という歳月を隔てた地元への帰還は第二の大規模避難に等しく、また十分なインフラが整わない故郷への帰還は、震災関連死へ続く死の回廊となるのではないかとの不安が払拭できない。医療と福祉だけでも整備しなければと痛切に感じる。
●福島県石川郡を中心とした医療と福祉の需要
二瓶正彦

私たちは石川郡のひらた中央病院を中心に医療機関3施設、川内村の特別養護老人ホームを含む介護施設・事業所16カ所を運営する医療法人です。福島県石川郡(人口4万人)を中心とする広域な範囲での地域医療に携わっています。

介護サービスに対するニーズの増加は、石川郡でも大きな問題です。福島県の65歳以上の高齢者人口は55.8万人と全体の29.6%を占め、そのうち要介護認定者は10.8万人と高齢者の19.5%。実に5人に1人が要介護認定者になっていますが、石川郡でも高齢者1.3万人のうち要介護認定者は2.2千人と高齢者の16.7%を占めています。

当法人では地域の需要に沿う介護サービスを展開していますが、その中で訪問リハの需要がここ数年増加しています。恐らくは2014年、2016年の診療報酬改定により、7:1入院基本料が厳格化され、早期退院を促したことが影響したと考えています。診療報酬改定前に比べ、自宅での生活ができない患者さんや、通所系の介護サービスを受けるまでには至らないが退院する患者さんに対して、訪問リハビリを必要とするケースが多くなりました。介護が必要になった高齢者に対して、どのようにして楽しい生活を送っていけるようサポートできるか。我々の取り組みを紹介したいと思います。

また東日本大震災以降、救急受け入れの状況も変化しました。そのため当院では救急の受け入れを強化しています。2014年の312件に対して、2016年は485件と173件増加しました。今年は500件を越える見込みです。

今後も石川郡・近隣市町村の地域医療、需要に沿った介護サービスを提供し、地域の皆さんが安心して生活できるよう環境を整備していきたいと思っています。
(福島県人口:平成29年5月現在 福島県HP参照。要介護認定者数:平成29年5月現在 独立行政法人福祉医療機構WAMNETHP参照)

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