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Vol.248 「印象操作」で弱者を貶める朝日新聞と共同通信の記事

医療ガバナンス学会 (2017年12月4日 06:00)


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━ こんなことでは大手メディアの信頼がますます失墜する ━

仙台厚生病院・医学教育支援室長
遠藤希之

2017年12月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今年の11月10日金曜日、朝からまるで安否確認のように友人達からの連絡が続いた。みな口々に「お前の病院、パラダイス文書に関係と報道されてるぞ、大丈夫か?」と訊いてくる。

なんでも共同通信が配信した新聞と朝日新聞に記事があるという。そこで自分も見てみた。記事の見出しには「パラダイス文書」「租税回避地」「未公開株」「ストックオプション」といったスキャンダラスな単語が「仙台」や「仙台厚生病院」とともにちりばめられている。心配した友人達が連絡を寄越すのも道理だ。筆者も一瞬動転しかけたが、気をとり直し記事本文を読んだ。そのところ見出しこそセンセーショナルだが、当院に関してはなんら問題のない内容だった。

ところが同日、病院経営改革などで著名な公認会計士、長隆氏のツイートが聞こえてきた。曰く「仙台厚生病院(著名な循環器病院).治験でストックオプション 租税回避地で 売却利益。」という内容である(原文ママ)。朝日、共同両社の記事ともに、しっかり読み込めばわかることだが、まったくの事実誤認だ。恐らく見出しだけ眺め、誤ったストーリーをこしらえてしまったのであろう。

事実誤認の例として、上述の「目立つ単語」と記事中の事実との関連をかいつまんで記す。
まず「租税回避地」であるが、これは治験に用いた治療機器を開発したシンガポールのベンチャー会社の登記先が「租税回避地」にあっただけで、当院が何かしたわけではない。
「パラダイス文書」は、その会社の情報が文書中にあったということだ。
「ストックオプション」(株を、あらかじめ予定されていた価格で取得する権利)を、たまたま当院と当院に在籍していた医師が受け取っていた。「未公開株」は、当院に在籍していた医師が、その会社の技術が成就するか分からない段階で開発資金の提供を求められ、出資したというものだ。
また、長氏がツイートした「治験」だが、当該会社の機器に関するものは2003年に終了している。株の譲渡・売却は、記事によると2005年~2007年だ。つまり、この治験で良い結果が出たことによって、何年か経ってからストックオプションに価値が出たという順番であって、ストックオプションを与えられたから治験で便宜を図ったというような順番ではない。「治験終了後にストックオプションを与えるから手心を加えてくれ」などと会社側が言うはずないし、言われたとしても、そんなものを目当てにする馬鹿はいない。「治験でストックオプション」は、この時系列を勘違いしている。
「租税回避地で売却利益」にいたっては何をかいわんや、である。売買は日本国内だ。

しかし、筆者は心配になった。長氏のように見出しだけ眺めて誤解をする人々が実際には多数いるのではないか。友人達もどうやら「パラダイス文書」というキーワードに反応して連絡してきた節がある。しかも記事自体が、事実と一般論を混在させ、時系列も相前後させるなど、事実関係を掴みにくい文章に仕立てられている。さらに「治験」と「臨床研究」という全く異なる機器開発業務も(恐らく意図的に)混同し、記載しているのだ。

しかも、朝日新聞にいたってはご丁寧に「パラダイス文書・ICIJ/南ドイツ新聞提携」という鳥の羽をあしらったマークやら、「ストックオプション」の解説囲み記事まで載せているのだ。これでは「何とも怪しい事件が起こっているらしいぞ」との印象を抱かない方が不思議というものであろう。

ところで、この記事が発信された前日の夜までに、実に数週間にわたって朝日・共同の記者が当院に何度も取材に訪れていた。当院事務は関係書類を1997年まで遡り全て開示したという。

それらを閲覧、取材し、記者達は、未公開株譲渡(有償)について、治験との関連は(時系列的にも)ありえず、臨床実験(米国での動物実験)に対する謝礼にすぎないことを充分理解したそうだ(文末(注1参照)。また治験と臨床実験との法的規制の違いや、それに関する欧米と本邦の差も認識していた。さらに当院自体は一切租税回避地とは関わりも無い事を確認したのだ。

結果的に記事が出る前日の取材の最後ではこのようなやりとりがあった。

当院理事長:最後に、Kさん(取材記者)の所感と言うものを聞かせてほしいのですが、結局、我々の何が問題だったとして、この記事は成立するんですか?
K 記者:いえ、問題があったと言うわけではなくて、こういう事実があったと言う事を、淡々と、こう記事にするということです。(録音のママ)

驚いた。

この記者達の言語では「淡々と記事にする」ということは、スキャンダラスな見出しを並べ「印象操作」を目論む記事にする、ということなのか。彼らは恐らく「印象操作」など考えていなかった、と弁明するであろう。しかしこの記事を見て、公認会計士という知的な職業にありながらも「租税回避地で売買利益」などという、なんともおっちょこちょいなツイートをしてしまう御仁まで現れたのだ。これを巧妙な「印象操作」の結果と言わず、なんと言うのか。
そもそも共同通信は他人の揚げ足を取る前に、ワセダクロニクル「買われた記事(注2」でスクープされた製薬企業との不適切な金のやりとりについて、総括し自己批判する方が先ではないか。既に心ある医療人からは完全に信頼を失っているが、もしこのような「弱者を貶める」印象操作型の記事で失地を挽回しようとしているとしたら、逆効果というものだ。朝日新聞も、明らかに問題のある共同通信には知らぬ顔をして、当院だけ叩くのはダブルスタンダードではないか。

筆者はいわゆる週刊誌というものはほとんど手にしない。ただ、見出しにはしばしば「朝日新聞」とともに「誤報」「捏造記事」「印象操作」という単語が書かれているイメージがある。もちろん筆者の知り合いにも、硬骨漢のこれぞジャーナリストという朝日新聞記者がいる。しかし、こと今回のような印象操作記事を書く記者がいるとすれば、週刊誌の見出しのつけ方もむべなるかな、と思わざるを得ない。カビだらけのみかんが一個でも入っているみかん箱は、箱ごと捨てられる。

再度述べるが、今回の件に関して、当院には法的にも倫理的にもなんら問題がない。ところが「印象操作記事」のために、筆者の友人達は慌て、妙なツイートが流れ、そして今後、風評被害まで起きてくるかも知れないのだ。

マスメディアは「立法・行政・司法の三権を監視する使命がある」と言われる。しかし、権力も発言力もない個人や一民間病院に対し、根拠も無い報道記事を書く使命があるはずもない。正直、弱いもの虐めで発行部数やウェブサイトの閲覧数を稼ごうとするなど論外であろう。

底意地が悪いとしか思えない「印象操作記事」を「淡々と」こしらえた朝日新聞と共同通信には猛省を促したい。

注1)臨床研究と未公開株有償譲渡の経緯:1998年、米国ロスアンゼルスのシーダス・サイナイ・メディカルセンターがバイオ社から新しい医療機器の意臨床研究の依頼を受けた(研究費はシーダス・サイナイへ提供)。主に動物実験を用いた研究であった。この際3人の当院医師が動物へのカテーテル挿入、ステント留置などの手技を担当し、重要な助言を行った。帰国後に謝礼として未公開株有償譲渡を受けた。このうち一人の医師は、2005年当時、資金繰りに困窮していたバイオ社社長から相談を受け、実家からの借金もあわせて「つなぎ資金」として6千万円で株を支援購入、その後売却し一億円の差益を得た。
なお医師達は当院奨学金で留学し、実験には向学心と手弁当での協力だった。

注2)http://www.wasedachronicle.org/category/articles/buying-articles/

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