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Vol.251 母乳の味はお母さんの食事で変わる?

医療ガバナンス学会 (2017年12月7日 06:00)


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森田麻里子

2017年12月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ネットを検索していると、お母さんが脂っこい食事を食べると母乳が「まずく」なるとか、「おいしい」母乳にするためには白米が一番、という説をよく目にします。一方で、お母さんの食事と母乳は関係ありません、ときっぱり断言するドクターもいます。一体何を信じたら良いのでしょうか?

おいしさにはいくつもの構成要素がありますが、味覚だけでなく香りが非常に重要です。今回は母乳の匂いについて調べてみました。

モネル化学感覚研究所のMennella博士は、母乳の匂いに関する研究結果を1991年に『Pediatrics』誌に発表しています(1)。8人のお母さんが、1.5gのにんにくエキスが入ったカプセルまたはプラセボのカプセルを飲み、前後数時間の母乳を採取してその匂いを調べるとともに、赤ちゃんの母乳の飲み具合を検証しました。匂いの判定は11人の成人の判定人によって行われました。その結果、プラセボカプセルを飲んだ前後では匂いに変化はなかった一方で、にんにくカプセルを飲んだ2〜3時間後の母乳はにんにくのような匂い、または強い匂いがすることがわかりました。また、にんにくカプセルを飲んだ時の方が、赤ちゃんがおっぱいに吸い付いている時間は有意に長く、吸う回数も多かったのです。

一般的なイメージとは違い、にんにくの匂いだから飲まないのではなく、逆に良く飲んだということのようです。

では、赤ちゃんはどんな匂いを好むのでしょうか?

赤ちゃんはお母さんのお腹の中でかいでいた羊水の匂いを好むことがわかっています。1998年の『Child Development』誌にMarlier博士が発表した論文(2)によると、生後数日の赤ちゃんの近くに、お母さんの羊水または水を染み込ませたガーゼパッドを置いたところ、赤ちゃんは有意にお母さんの羊水のパッドの方向をよく向きました。また、お母さんの羊水と他の女性の羊水で比べると、有意にお母さんの羊水のパッドの方向を向くこともわかりました。

そして羊水の匂いにも、お母さんの食事が影響するという研究があります。
1985年には、カレーを食べたお母さんの羊水からスパイスの匂いがしたケースや、本来無色透明の羊水に黄色い色がついていたというケースの報告があります(3)。
また、前述のMennella博士は、本当に食べたものの匂いが羊水からするのか、実験を行い1995年に結果を発表しています(4)。10人の妊婦さんを2グループに分け、にんにくエキスの入ったカプセルまたはプラセボのカプセルを飲んでもらい、約45分後に羊水検査を行いました。13人の判定人がにおいの判定を行ったところ、5人中4人の妊婦さんの羊水が有意ににんにくの匂いがするという結果になったのです。

それでは、赤ちゃんが羊水や母乳を通してお母さんが食べた食べ物の匂いを感じ、結果として特定の食べ物を好きになるということはあり得るのでしょうか?

Mennella博士が2001年に再び『Pediatrics』誌に発表した論文をご紹介しましょう(5)。
47人の妊婦さんを3グループに分け、1つのグループでは妊娠後期に3週間にわたって週4日300mlの人参ジュースを飲み、もう1つのグループでは産まれてから生後2か月まで週4日300mlの人参ジュースを飲み、残りのグループでは水を飲んでもらうことにしました。赤ちゃんの離乳食が始まって1か月ほど経ったところで、プレーンのシリアルと人参ジュース入りシリアルを赤ちゃんに食べさせてその様子を比較したところ、お母さんが人参ジュースを飲んでいたグループの方が、赤ちゃんが人参シリアルを食べた時に嫌な顔をする回数が少なく、食べた量も多かったのです。また、その傾向は特に妊娠後期に人参ジュースを飲んでいたグループで強く見られました。

これらの論文を参考にすると、お母さんの食事の匂いが羊水や母乳を通じて赤ちゃんに伝わるのはどうやら事実のようです。しかし、だからといって洋食や脂っこい食事を摂ると「悪い」「おいしくない」母乳になる、というわけではなさそうです。確かに普段の食卓では肉や乳製品が多くなりやすいので、野菜や魚を積極的に食べるようにするのは良いかもしれませんが、大事なのはバランスです。妊娠中や授乳中のお母さんが、ストレスにならない程度に色々な物をバランス良く食べると、赤ちゃんにも様々な風味の経験をさせてあげることができるかもしれません。

1.Mennella JA, Beauchamp GK. Maternal diet alters the sensory qualities of human milk and the nursling’s behavior. Pediatrics. 1991;88(4):737-44.
2.Marlier L, Schaal B, Soussignan R. Neonatal responsiveness to the odor of amniotic and lacteal fluids: a test of perinatal chemosensory continuity. Child Dev. 1998;69(3):611-23.
3.Hauser GJ, Chitayat D, Berns L, Braver D, Muhlbauer B. Peculiar odours in newborns and maternal prenatal ingestion of spicy food. Eur J Pediatr. 1985;144(4):403.
4.Mennella JA, Johnson A, Beauchamp GK. Garlic Ingestion by Pregnant Women Alters the Odor of Amniotic Fluid. Chemical Senses. 1995;20(2):207-9.
5.Mennella JA, Jagnow CP, Beauchamp GK. Prenatal and postnatal flavor learning by human infants. Pediatrics. 2001;107(6):E88.

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