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臨時 vol 420 「予防接種部会傍聴記(1)」

医療ガバナンス学会 (2009年12月31日 11:00)


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細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会 事務局長
高畑紀一
2009年12月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp


【新設された大臣直轄の部会】
12月25日に開かれた「第1回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会」を傍聴した。
この予防接種部会は、厚生科学審議会感染症分科会に新設されたもの。従来の「予防接種に関する検討会」が結核感染症課のもとに設置されていたのに対し、大臣直轄の審議会に位置づけられている。我が国の予防接種は関連する部局が複数にまたがっており、従来の検討会の枠組みでは制度全体に議論を反映させることが難しい側面があった。過去にも、予防接種に関する検討会やワクチン産業ビジョン会議等、我が国の予防接種制度やワクチン・ギャップについて数々の議論が重ねられてきた。しかし、いずれの議論も予防接種行政に活かされてきたとは言い難く、「議論はしたけど、何も変わらない」に等しい状態が続いてきた。今回は部局の枠を超える位置づけとなっており、ようやく、予防接種制度全体を議論する場が設けられたこととなった。
ワクチン後進国からの脱却に踏み出せるのかどうか、関心を持って傍聴してきた。

【上田博三健康局長が「不退転の決意」】
第一回目の今回は、部会長の選任や今後議論すべき課題の提示等、部会運営に関する事柄の確認が中心であったが、注目すべきやりとりも交わされた。宮崎千明委員が今回の予防接種部会は従来の検討会等と異なり、制度を変えていく力を持ったものなのかどうかを問うたのに対し、上田博三健康局長が「不退転の決意で大改正に取り組む」と述べたのだ。
「『議論はしたけど、何も変わらない』従来の検討会等とは根本的に違うのか」、これが宮崎委員の発言の趣旨だが、実はこの思いは参加していた委員の殆ど全員、そして傍聴席に詰め掛けた人々が共通して抱いていたものであったろう。他の先進諸国がワクチンによる疾病予防を国家的施策として位置づけてきたのに対し、我が国は「何もしない」まま20年余りを過ごしてきた。上田博三局長は、自ら20年余りに渡りワクチン行政に携わってきたこと、その間、政策的に揺れてきたことを認めた上で「不退転の決意」を口にした。
私はこの発言をとても重要なものとして受け止めている。健康局長という局のトップに立つ人物が、大臣直轄の公的な会議の場で「不退転」との言葉を用いたのだ。過去の過ちを繰り返すことは許されない。

部会に提示された主要な論点については、特に目新しいものは皆無といっても良い。予防接種法の対象となる疾病・ワクチンのあり方、健康被害が生じた場合の対応のあり方、接種費用の負担のあり方、予防接種に関する評価・検討組織のあり方、ワクチンの確保のあり方が挙げられていたが、いずれも繰り返し議論されてきたものである。
今後、同部会で議論されるべきは、そもそも論ではなく、これらの課題を如何に実現していくのかという実行力ある具体策についてであろう。岡部委員が提起したサーベイランス体制の構築、廣田委員が提起したワクチンにかかる論文を読みこなし、研究を評価・分析できる専門家の育成など、その必要性の是非を論じる段階ではなく既に実践すべき段階にある。予防接種行政に不可欠なサーベイランス体制をどのように構築するのか、公衆衛生・疫学等の専門家を如何に育成していくのか、それらの具体策を議論し政策に反映させてこそ、新たな予防接種部会の存在意義があるといえよう。

【旧来の思考・議論の作法からの脱却を】
参加される委員には、旧来の枠組みを打ち破り新たな予防接種制度を構築する意
欲的な議論を強く望みたい。例えば今回、山口県健康副支部長の今村孝子委員が、一類疾病との関連においてHPVワクチンを例に挙げながら「個人の疾病予防」という考えとの整理が必要といった主旨の発言をされていた。
現在の二類を念頭に置いた発言であろうが、そもそも現在の二類というカテゴリーそのものが旧来のワクチン行政の不作為をごまかすために作られた屁理屈である。
一旦、定期接種の対象から外したインフルエンザを再び定期接種化するにあたり、過去の決定との整合性を優先し官僚の無謬神話を守るために定義したものである。
つまり、無反省を糊塗するために尤もらしく理由付けたのが「個人の疾病予防」というカテゴリーであって、新たな枠組みを考えようという今回の部会の方向性とは正反対の議論から生み出されたものなのだ。
そのような「過去のごまかし」を基礎におくような議論では、新たな制度設計な
どできるわけがない。今村委員の真意は定かではないが、是非、旧来の思考・議論の作法はきっぱり捨て去って議論に臨んでいただきたい。

ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化も論点として挙げられていた。細菌性髄膜炎から子どもたちを守るワクチンの早期定期接種化を求め活動してきた身としては、非常に感慨深いものを感じる。と同時に、一部で噂される「二類への位置づけ」という旧来の枠内での小手先の対応に強い危機感を抱いている。
同部会におけるヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化をめぐる議論が、この部会がワクチン・ギャップ解消に資するのか否かのベンチマークになるのではないか。
官僚の無謬神話を守るためにつくられた二類というカテゴリーに位置づけることを容認するようでは、旧来の枠組みを打破することは不可能といっていいだろう。ヒブワクチンの定期接種化を政策INDEX2009に明記した民主党政権下で新設された、大臣直轄の予防接種部会。そこで展開されるヒブワクチンの定期接種化をめぐる議論は、ワクチン・ギャップ解消とワクチン後進国脱却への未来を占う大きな意味を持つ。是非、多くの方々に注目して欲しい論点である。

ワクチン・ギャップ解消は医療従事者、とりわけ小児科医や感染症対策の専門家
から指摘され続けていた問題である。しかしその声が省みられ政策に反映されることはほぼ皆無であった。現在は、新型インフルエンザ騒動により国民のワクチン問題に対する関心が高まっている。
そして、部会の冒頭に20年のワクチン・ギャップ解消を目指すと挨拶をされた足立信也政務官のような政治家も登場してきた。予防接種行政を大きく変える要素がこれほどまでに揃ったことも、過去にそう例があることではないだろう。
であるからこそ、予防接種部会が旧来の枠組み内に留まってしまうのなら、ワクチン行政の大転換は今まで以上の遠のくことになってしまう。

「議論はしたけど、何も変わらない」を繰り返すことは許されない。上田博三健康局長の「不退転の決意」が反故にされることはあってはならない。そのような議論を予防接種部会に強く望み、今後も議論に注目していきたい。

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