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Vol.006 いつものことと思って、慢性鼻炎を無視していませんか?

医療ガバナンス学会 (2018年1月11日 06:00)


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この原稿はハフィントン・ポスト(2017年12月13日配信)からの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/tamae-hamaki/catch-a-cold_a_23305750/

鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長
濱木珠恵

2018年1月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

10月以降、だんだん寒くなるにしたがって風邪症状で受診する患者さんが増えてきました。季節の変わり目で体調をくずしたり、風邪を繰り返しひいたりする方もたくさんいらっしゃいます。

そんななかで、こんな患者さんにお会いすることがよくあります。

「喉が痛いです。朝はものすごく痛いです。鼻水や咳はまだありません。熱もまだ出ていません。のどが弱いので、風邪をひくと最初にのどが痛くなって悪化します。いつも抗菌剤をもらって治しています。」

本当に”のど”だけの症状なのでしょうか。

もちろん、本当に喉だけが悪くなっていて、咽頭がものすごく赤く腫れていたり、扁桃炎になったりしている方もいます。ただ、案外と「鼻水は出ていない」と話しながらハナをすすっている患者さんや、「いや元々鼻炎持ちなので鼻水や鼻づまりは気にしてない」とおっしゃる患者さんもいます。自分が一番ツライと思っている症状は”のど”だけだから、と。

そうですか。”のど”がつらいのですね。ところで、朝にのどが痛くなっているようですが、夜中に口呼吸になってしまっていませんか?

「はい、口があいているので、乾燥しないようにマスクをして寝ているのですが、やっぱりのどが痛くなります」

ですよね。口が開いてしまう原因は、鼻で呼吸がしづらいからかもしれません。気にしていないだけで実は鼻炎はあるようです。

鼻の粘膜が腫れて鼻腔が狭くなっていても、日中は口を閉じていることができるのですが、寝ている最中には口呼吸をしてしまいがちです。このため口の中が乾燥してしまい、朝になってのどが痛くなっているのでしょう。また鼻水が前方に流れ出ていなくても、すすってのみこんでしまえば、鼻水で喉の粘膜が刺激されます。全員とはいいませんが、鼻炎のせいで喉が痛くなったり息苦しくなったりしている方は、少なくありません。それでも、そう説明しても、なんとも腑に落ちないという表情をされることはよくあります。鼻炎に対して、あまり日常的には意識がむいていないのかもしれません。

鼻炎というと、春のスギ花粉症のイメージが強いかもしれません。しかし花粉症は鼻炎のほんの一分類にすぎません。

鼻炎を原因で分類すると、なにかに対するアレルギーからくるアレルギー性鼻炎と、そうではない非アレルギー性鼻炎にわかれます。日本での有病率は、通年性アレルギー性鼻炎で10〜20%、季節性アレルギー性鼻炎では30%近いとされています。典型的な特徴はくしゃみ、鼻水、鼻づまりです。そこに、痒みや目の症状などが加わることがあります。これらのアレルギー性鼻炎が複数くみあわさると、慢性鼻炎として一年中鼻炎が続きます。

アレルギー性鼻炎は、季節ごとの花粉などによる季節性アレルギー性鼻炎=花粉症と、ハウスダストやダニ、動物の毛など一年中存在している通年性アレルギー性鼻炎とに分けられます。花粉症は、春のスギ・ヒノキ花粉以外にも、夏から秋にかけてイネ科のハルガヤやカモガヤなどの花粉症があり、北海道ではシラカバ花粉やポプラ花粉による花粉症もおこります。これらが組み合わさると一年中、鼻炎が続くことになります。ハウスダストやダニなどが原因の通年性アレルギー性鼻炎も、アレルゲンが増えると症状が強くなるので、時期によって軽快したり悪化したりします。

一方、これといったアレルギーをもっていなくても鼻炎症状はおこります。アレルギー性鼻炎と同様、鼻水や鼻づまりがおこりますが、目の痒みや、くしゃみなどはあまり出てきません。

たとえば、ラーメン屋でやたらと鼻をかんでいるお客さんを見かけたことはありませんか。実は私もそのうちの一人なのですが、食べ物の温度や味覚刺激によって、鼻炎をおこしてしまうのです。これは血管運動性鼻炎といい、気候や気温の変化、刺激性の匂い、香辛料やアルコールなどの刺激で、鼻粘膜の局所反応がおこって鼻水や鼻づまりが出るものです。急に寒い場所に出たり、逆に暖かい部屋の中に入ったりしたときの鼻炎も同様です。

あるいは薬剤が原因になって起こる鼻炎もあります。避妊用ピルや一部の降圧剤などで鼻炎症状が出る人がいるほか、目薬や鼻炎用の点鼻薬で鼻炎が悪化する人もいます。ここで気をつけていただきたいことなのですが、鼻づまり用の血管収縮薬入り点鼻スプレーを長期間連用していると薬剤刺激性鼻炎を発症してかえって鼻炎が悪くなるという悪循環におちいることが知られています。しかし慢性の鼻炎持ちだけれど病院に通院していないという患者さんのなかには、市販の点鼻薬でやり過ごしている、という方が大勢おられます。血管収縮薬入りの点鼻スプレーは即効性はあるので急に悪化したときなどに使用するのはオススメなのですが、漫然と長期間使うのは避けたほうがよいということになります。

これ以外にも、風邪などの感染症による鼻炎をはじめ、いろいろな原因で鼻炎はおこります。

風邪やスギ花粉症の鼻炎は、一時的ですが症状がひどくなりやすいので積極的に治療をする方は多いでしょう。しかし、慢性鼻炎は放置している方も多いように感じます。日常的に支障がなければ気にならないのかもしれませんが、ひどい鼻炎では、呼吸状態がしにくくなるため集中力が落ちたり、睡眠の質が落ちたりすることがあります。また副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)がずっと続く熱の原因になったり、鼻水が鼻からのどのほうに落ちて行って、のどを刺激して咳が出続ける原因になったりもします。鼻炎を放置するのは、あまりメリットは無いように思います。

これからの季節、自分がいつも”のど”から風邪をひいていると感じている方や寝るときにマスクをしないとのどが枯れるという方は、鼻水や鼻づまりが悪くなっていないか、慢性鼻炎がないかということを、ちょっと気にしてみるのもいいかもしれません。

鼻水がひどいわけではないけれど鼻炎気味かもしれないと思ったら、市販の鼻炎薬などを試してみるのも悪くはないでしょう。市販されているもののなかでは、アレグラやアレジオンといった薬は、眠気も弱く使いやすい薬です。花粉症のときに使う薬と思われがちですが、鼻水を止める作用は同じなので、花粉症でも慢性鼻炎でも、どちらでも使えます。鼻水よりは鼻づまりがひどかったり、蓄膿気味かなという感じであれば、市販の漢方薬などにも効果のある薬がありますので、薬局の薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

注意していただきたいのは、先に述べた血管収縮薬入りの薬です。この薬は効果は高いですが、繰り返し使い続けてはいけません。症状のひどいときのレスキュー薬と考えていたほうがいいでしょう。

身体の不調に慣れてしまうと「いつもこの程度だから」と、ついつい見過ごしてしまいがちです。鼻炎はとても身近な病気であり、意外と、全身のコンディションに影響をあたえる症状でもあります。のどや咳の調子がちょっと悪いなと感じたとき、慢性鼻炎がないかどうか、気にしてみてもいいかもしれません。

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