医療ガバナンス学会 (2010年1月12日 08:00)
私が働く神経内科も約半数が女性医師だ。若い男性医師の半数も共働きなので、少なからず家事や育児に参加している。限られた時間のうち睡眠や勉強時間を削っても、保育園の開園時間の都合で朝の会議に出られないこともある。しかし、患者さんがどんな医者に診て欲しいかを考えると、治療の最中に主治医が「家のご飯番なので帰ります」などといってはやるせない。現状下では社会的要請や役割といったものも果たさざるを得ないし、数が増えても責任は薄くならない。今は無理や矛盾を家庭や職場で処理しようともがいている。病児保育・延長保育を含む保育の充実と家事代行は必要なのだ。
他業種も状況は同じだ。厚労省による「平成21年度版労働経済の分析」では、30~39歳の女性が離職理由を「育児のため」とする率の高いことが示され、出産や育児が勤労女性にとって普遍の壁であることを物語っている。
一方、30代後半~40代前半では「自分の都合のよい時間に働ける」から、40~49歳では「家計を補うため」に正社員以外の職に就く女性が多い。30代の女性にとって「自分の都合」とはすなわち「育児の都合」であり、40代の女性が「家計を補う」のは育児が一段落し、あいた時間で住宅ローン返済に貢献しようというのだろう。女性の持つ潜在的労働力は実に大きく、勤労に対する動機や意識は高い。
仕事を複数の社員や職員で分け合うワーキングシェアは、不景気を乗り切るための雇用対策として使われるが、働きたい時に働きたいだけ働けるシステムは女性にとって重要だ。このシステムの定着には正規雇用の保証が欠かせない。
それには家庭労働に対する意識も変えていかなければならない。家事や育児を得意とする人が得意分野で力を発揮し、社会全体で健全な分業体制を取ることだ。それを提供する力は育児を一段落した女性に潜在している。
女性医師が働き続けることは日本の医療にとって重要であるだけでなく、家事の代行、補完といった面での雇用を増やし、所得も内需も拡大する。さらには女性全体が働きやすくなる起爆剤となろう。現実は簡単には動かないかもしれないが、今取りかからなければ我々は、ひずみを抱えたまま走り続けることになる。限られた時間、あるいはフルで、働きたいだけ働ける世の中が早く来ることを望んでやまない。