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vol 19 自治体病院の職員定数の意味するもの

医療ガバナンス学会 (2010年1月22日 10:00)


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城西大学経営学部
准教授
伊関友伸
2010年1月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【著者プロフィール】
1987年埼玉県入庁、県民総務課、川越土木事務所、出納総務課、大利根町企画財政課長、計画調整課、県立病院課、社会福祉課、精神保健総合センターなどを経て、2004年現職に。研究テーマは、行政評価、自治体病院の経営、保健・医療・福祉のマネジメント。総務省公立病院に関する財政措置のあり方等検討会委員や夕張市病院経営アドバイザーなど、数多くの国・地方自治体の委員等をつとめる。著書に、「地域医療 再生への処方箋」(ぎょうせい)、「まちの病院がなくなる!?」(時事通信社)など。

【地方自治体の「常識」は、医療の世界の「非常識」】
毎年、この時期になると、自治体病院と病院を設置する自治体の人事担当の間で、時に厳しいやりとりが行われるのが病院の職員定数の問題である。行政には、職員定数の枠が存在し、医療スタッフを増やすには、職員定数条例を改正することが必要であるが、その変更は容易なことではない。
病院の場合、医療の高度・専門化により数多くの医療スタッフを必要とする。職員を雇用すれば、診療報酬の加算などもあり、収益が上がり、収益でさらなる投資が可能になる。しかし、自治体の人事担当者はこのことを理解せず、「職員数は少なければ少ないほど良い」という地方自治体の「常識」(医療の世界では「非常識」)にとらわれている。

【収益が上がっても定数増を認めない人事担当者】
例えば、2006年に7対1看護基準が導入されたとき、多くの自治体病院が看護師定数の変更がなかなかできず、他の経営形態の病院に比べ、看護師の雇用に遅れを取ってしまったのは自治体病院関係者では有名な話である。
実際の例でも、現在、沖縄県立6病院では、常勤の看護師定数が抑制されていることから十分な看護体制が組めず、県立中部病院で52床、県立南部医療センター・こども医療センターで59床の病床の休床に追い込まれている。看護師の不足分を臨任職員や嘱託職員で補おうとしているが、身分が不安定で待遇も悪く、なかなかなり手がいない状況である。
沖縄県立6病院の病院現場は、医療の質の向上と収益改善の観点から、職員定数を変更し、適正な医療スタッフの数が配置されることが必要と考えているが、定数の見直しは難航している。
また、私が関わったある県の自治体病院でも、病院現場が理学療法士1人の雇用をすると1500万円の収益が上がるという試算をしても、本庁の人事担当課は職員を採用することを認めなかった。

【過剰な人員配置の抑制は、かえって収益を悪化させ、地域医療を崩壊させる】
病院は施設産業であり、人件費以外の固定費も高い。看護師や医療技術者を雇用することで診療報酬の医療加算を取り、その上で、職員にやる気を持って損益分岐点以上に稼いでもらうことも病院収支の改善の大きな要因となる。そのための職員の雇用増は「必要」なことであり、「悪いこと」ではない。
過剰な人員配置の抑制は、結果として、医師や看護師の仕事の増大を生み、疲弊による大量退職を招きかねない。収益改善のために人を抑制することが、かえって収益を悪化させ、地域医療を崩壊させかねない危険性を持つことを地方自治体の人事担当者は理解していない。

【職員定数抑制の根拠-総務省通知】
多くの自治体病院で、このような理屈に合わない職員定数の抑制の根拠となっているのが、2005年3月に総務省が各自治体に通知した「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」の存在である。
通知では、各自治体に2005年度から2009年度までの行政改革の具体的な取組を明示した「集中改革プラン」を公表することを求め、「定員管理の適正化」に関しては2010年4月1日における定員目標を明示するなど厳格な管理を求めた。総務省の通知では、自治体病院も例外なく、一律の抑制を求めている。
総務省の行政改革指針がある以上、自治体の人事担当は、総務省の通知を錦の御旗にして、病院職員の定員増に対して反対することになる。実際の運用では、自治体病院の職員定数を改革集中プランの枠外から外している自治体もあるが、少数である。
総務省の通知どおり、職員定数を厳格に守ろうとする地方自治体の人事担当者は、自治体病院を非公務員型の地方独立行政法人にすれば、定数適正化計画の対象外になると主張する。しかし、自治体病院の収益が改善するのに、何ら医学的にも病院経営的にも根拠のない職員定数を厳守することは、問題である。

【自治体病院も自助努力が必要】
確かに、自治体病院の職員給料は、公的病院や民間病院に比べて高い傾向がある。自治体によっては、給与決定に際し係長級であっても課長補佐、課長級の職務級に格付けして高い給与を支給するいわゆる「わたり」制度が残っている。総務省の調査では、2009年4月1日時点で「わたり」制度ある地方公共団体は、全地方自治体の11.9%である219団体に及んでいる(注:調査は自治体全体を対象とし、自治体病院を対象としたものではない。ただし、自治体本体で「わたり」制度が導入されている場合、自治体病院にも導入されている可能性が高い)。
「わたり」制度は、地方自治法第24条第1項の「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。」という条文に違反するものであり、速やかに廃止されるべきである。他の公的病院や民間病院に比べ、理屈がなく高い基本給や手当類についても見直しが必要であろう。先に紹介した沖縄県立6病院については、2009年度から給料の調整額の見直しを行った上で、職員定数の見直しを求めており、病院現場の人員増の訴えは一理ある。

【総務省は「改革集中プラン」から自治体病院職員をはずすべき】
総務省は、各自治体に対して「公立病院改革ガイドライン」を示し、自治体病院に「経営の効率化」を求めている。経営の効率化は「人を減らす」ことだけではない。病院のマネジメントを抜本的に見直し、必要ならば投資を行い、質の高い医療と収益の向上を両立させることにある。
原口一博総務大臣は、直ちに現場を疲弊させ、地域医療を破壊しかねない、自治体病院への過剰な定数の縛りをやめるよう、「改革集中プラン」の職員定数の抑制の枠から自治体病院職員をはずすことを宣言すべきである。また、2010年度から新たな地方自治体職員数の抑制の方針を示す場合、自治体病院は対象とすべきでないことを明記すべきである。1日も早く、医療の世界の「常識」が自治体病院の「常識」となることを期待したい。

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