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vol 25 被用者保険による高齢者医療費の支援の仕方

医療ガバナンス学会 (2010年1月28日 08:00)


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東京大学大学院経済学研究科教授
岩本康志

*今回のメールマガジンは、ブログhttp://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminarより、著者の許可を得て転載したものです。

2010年1月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


(2009年12月7日 午後10:55)
「被用者保険による高齢者医療費の支援の仕方」

4日の社会保障審議会医療保険部会では,協会けんぽの財政問題への対応策が議題にあがった。そのなかでの厚生労働省の提案が注目され,各所で報道されている。ネットで配信された記事の見出しは,

「協会けんぽに2500億円 厚労省が健保・共済負担案」(朝日新聞)
「協会けんぽの支援金負担 健保・共済が肩代わり 厚労省、22年度実施目指す」(産経新聞)
「健保連会長、協会けんぽ救済「肩代わりは断固反対」」(日本経済新聞)
「協会けんぽ:後期高齢者医療制度向け支援金の一部、健保・共済も負担--厚労省案」(毎日新聞)
「協会けんぽ穴埋め、組合健保などが負担へ」(読売新聞)

となっている。各紙が報道する内容は似通っていて,厚生労働省の提案は協会けんぽへの財政支援のために健康保険組合と共済組合の負担を増す内容であること,そのために現在は加入者数に比例して負担している75歳以上の高齢者の医療費への支援金を報酬に比例して負担する仕組みに変えること,負担が増える健保組合側が反対していることがのべられている。財政の悪化した協会けんぽのつけを健保組合に回すようなニュアンスが感じ取られて,厚生労働省の提案には好意的ではない。例えば,以下のような具合である。

「全国で約1500ある組合健保には協会けんぽと同じように赤字に苦しむところが多いため、協会けんぽのみ優遇する対応への反発は必至で、調整は難航しそうだ。」(読売新聞)
「厚労省は協会けんぽに比べ財政にゆとりのある健保組合と共済組合に肩代わりさせる意向だが、実現すれば健保加入者などの保険料は上がる可能性が高い。平井(健保連)会長は「健保組合もかつてない財政危機に直面している」と指摘し、救済案は協会けんぽを優遇していると非難した。」(日本経済新聞)

私は厚生労働省の提案に賛成する。
部会に提出された資料では,今年3月に高齢者医療制度に関する検討会がまとめた「高齢者医療制度の見直しに関する議論の整理」の以下の一節が紹介されている。

「一方、現役世代からの仕送りである支援金や前期高齢者の医療費を支える納付金については、現行制度では、それぞれの保険者の加入者数等に応じた費用負担としているため、財政力の弱い被用者保険の保険者の負担が過重になっている。このため、国保と被用者保険の間は加入者数で均等に分け、被用者保険の中では、財政力の強い保険者が財政力の弱い保険者を支援するものとなるよう、保険者の財政力に応じた応能負担による助け合い・連帯の仕組みにすべきであるという意見があった。」

この意見は,検討会の委員であった権丈善一先生(慶応大学)と私が発言した内容に相当する。検討会では,そもそも支援金の公平な負担のあり方とはどのようなものか,という観点からこのような意見が導き出された。加入者数に応じた負担では,加入者の所得が低い団体での負担能力が問題になってくる。被用者保険の世界では,ひとつの組合のなかでは報酬比例の負担が定着しているのだから,それを組合内だけでなく,被用者保険全体に広げることで,年々上昇する医療費を少しでも払える態勢にしてはどうか,というのが私の考えである。このことは,サラリーマンであれば,就職した会社の平均所得水準で保険料率に差がつかないようにすることを意味している。本来は,国保も合わせて負担能力に応じた負担にするのが最善であるが,所得捕捉の問題があり,すぐには実現できない。すぐに実現できる形として,当面は国保と被用者保険の間は現状通りとして,被用者保険のなかを改革すれば,上に引用されたような姿になる。
こうした方向への改革の障壁は,負担増となる健保連が反発することに加えて,メディアがなかなか好意的に報道してくれないことである。全国の健康保険組合に関しての保険料率をはじめとした情報が,健康保険組合連合会が毎年発行する『健康保険組合事業年報』に掲載されている。年報の最新版は2006年度の情報なので,少し古くなるが,以下は,東京の主要なテレビ局・新聞社・通信社の健保組合の保険料率(雇主負担を含む)と標準報酬月額である。

日本放送協会 5.6% 635,019円
読売 6.4% 597,992円
共同通信社 6.0% 839,593円
時事通信社 5.5% 641,838円
日本経済新聞社 5.39% 678,280円
東京放送 6.0% 705,006円
中央ラジオ・テレビ 6.4% 463,416円(フジテレビが加入する健保組合)
日本テレビ放送網 5.0% 888,940円
毎日新聞 6.6% 488,371円
産経 6.3% 457,068円
朝日新聞 6.3% 723,785円
テレビ朝日 5.6% 509,223円

同年度の政管健保(協会けんぽの前身)の保険料率は8.2%,平均標準報酬月額は283,218円であった。私が加入する文部科学省共済組合の保険料率は6.594%,平均標準報酬月額は467,843円であった。健保組合の保険料率は組合ごとに差があって,なかには政管健保よりも高いところもあるが,平均では政管健保よりも低い。上にあげた組合の保険料率は,健保組合のなかでも低い方に属する。所得が増えても医療費はそれに比例するほど増加しないから,大手メディア企業社員も公務員(国立大学教員は非公務員だが)も,所得が高い人が集まることによって,保険料率を低く抑えることができている。
要は,それでいいのか,という問題である。
厚生労働省の提案が実現すると私の保険料は上がることになるが,私はこの提案に賛成する。それが,より公平で合理的な負担の仕方だと思うからである。これを提案した厚生労働省の役人の保険料も上がる。大手メディア企業の社員の保険料も上がることになるが,それに賛成する人が増えてほしいと思う。

(注1)
12月4日の医療保険部会の資料はまだ厚生労働省のサイトに掲載されていない。一般国民は,メディアを通じてしか部会の様子を把握できない状態にあるのは,厚生労働省にとっても損なことだと思う。

(注2)
協会けんぽの保険料は労使折半だが,健保組合では雇主負担の割合が大きいことが多い。このため,労働者負担の保険料率の差はより大きくなる。しかし,経済学的には労使合計の保険料負担がより妥当な概念なので,それで比較することにする。

(関係する過去記事)
「財政調整・一元化に対する健保連の考え方」に対する私の考え方

http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/25698803.html

(参考)
「高齢者医療制度に関する検討会」議論の整理について(2009年3月)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0324-13.html

健康保険組合事業年報

http://www.kenporen.com/book/book04.html

国家公務員共済組合事業年報

http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/nenpou/nenpou.htm

社会保障統計年報(平成20年版)

http://www.ipss.go.jp/s-toukei/j/20_s_toukei/nenpo20.asp

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