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vol 38 予防接種部会傍聴記~3つの懸念で膨らんだ不安~

医療ガバナンス学会 (2010年2月5日 08:00)


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細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会
事務局長
高畑紀一
2010年2月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


昨年12月25日の第1回開催に続き、1月15日、27日にそれぞれ第2回、第3回の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会が開かれた。
上田博三健康局長が表明した「不退転の決意」に、「ワクチン・ギャップ解消」という積年の願いが叶うか否か、希望と不安の双方を抱きつつ傍聴しているのだが、早くも不安が大きくなりつつある。

【実質的な議論がほとんどされなかった第2回部会】
15日に開かれた第2回部会では、残念ながら本質的な議論はほとんど交わされなかった。
特措法で対応した今回の新型インフルエンザに係るワクチン接種を予防接種法に位置づけるための議論を優先したい事務局の意図が、議事にうまく反映されていなかったのが、その大きな理由なのだが、議事次第の一つ目の項目が「予防接種制度について」であり、配布資料の1が「予防接種に関する主要論点について(案)」であったのだから、「まずは新型インフルエンザを予防接種法に位置づけるというパッチを当てる作業」を優先したいという事務局の意図は、委員にとってはくみにくかったであろう。
第3回部会では事務局から議論の叩き台となる素案を提示することとなったが、新型インフルエンザ対策を入り口にして予防接種法全体のあり方を見直そうという部会の舞台設定の歪さが早くも露呈したといえよう。

【新型インフルを入り口に議論する歪さ】
先に書いてしまうが、私はこの「歪さ」に大きな不安を感じている。
この間、事務局が強調するのは、現在の予防接種法では対応できずに特措法で対応せざるを得なかった新型インフルエンザ対策を予防接種法に位置づけるという、「予防接種法の穴にパッチをあてる作業」を優先し、その後にヒブワクチンをはじめとするワクチンの予防接種法への位置づけや情報提供のあり方等の予防接種法全体の議論を行なうというスケジュールだ。
私は、現在の予防接種法は法も目的から改める必要があると考えている。法の目的はその法律の基礎となるものである。基礎があるべき姿では無い以上、その上にどのような制度を設計しても、その制度は健全に機能しないであろう。
現に1類、2類という馬鹿げた区分をもうけた「欠陥住宅」というべき法が形作られている。
その欠陥住宅にどんなに上手くパッチを当てようとしても、それは欠陥を覆う作業でしかなく、むしろ根本的な改善にはマイナスに作用しかねない。
新型インフルエンザ対策を予防接種法に組み入れるというパッチは、当面の応急措置ということなのだろうが、欠陥法と言えども法律は法律である。一旦、「改正予防接種法」として施行されてしまえば、それは国会での承認を与えられた正当な法律となる。
部会で「とりあえず」と言いながら、欠陥を抱えた基礎の上に何とか整合性を持った「パッチ」を当てるための議論を重ねることが、結果としてその欠陥を覆い隠すパッチの正当性を増強するのではないか、その正当性をその後に覆すことは、今以上に困難になるのではないか、そのような危惧を抱いているのである。

【第3回部会で抱いた3つの懸念】
27日の第3回部会では、早くもその懸念が現実のものとなりそうな雲行きであった。
私が抱いた懸念は、主に次の3点である。
1)新型インフルエンザを新設する「2類」の臨時接種とした上で、定期の2類に移行す
るようにする
2)製造販売業者・卸売販売業者への協力を求める仕組みを法律に盛り込む
3)接種方針の遵守を徹底し、医師会が現場の医師を取り締まる役割を果たす

前もって述べておくが、新型インフルエンザ対策を入り口にして予防接種法全般の議論に発展させていくという手法について、私は全面否定するつもりはない。
むしろ、過去の予防接種について積極的に議論することさえ憚れる状況を鑑みるにつけ、また、ワクチン・ギャップの一日も早い解消に向けた議論を一刻も早くスタートさせるためにも、政治的にこのような設定による議論を推し進めることは一つの判断として尊重もしている。
ただし、新型インフルエンザワクチンの予防接種を予防接種法に盛り込む必要最低限の改正を優先した上で、そのパッチも含めた「欠陥住宅」全体をゼロベースから議論するべきだという留保を付け加えた上で容認するのである。
ゼロベースで議論するためには、新型インフルエンザについては臨時接種を予防接種法に位置づける、ただそれだけの議論にとどめるべきである。
余計なものを加えていっては、その後の予防接種方全体の議論がゼロベースからではなくなっていってしまう。
そのような考え方に立っているからこそ、私は上記3点は、まさに「余計なもの」であると言わざるを得ない。

長文になることを避けるため、詳しくは言及しないが、1)については、新型インフルエンザを臨時接種に位置づければ済むのであり、2類による定期接種に位置づける緊急性は全く無い。2類は第2回の部会で黒岩祐治委員が1類、2類という区分けそのものに疑問を呈していたように、今後、あり方そのものについて議論すべきものである。

2)については、そもそも法に盛り込むべきものであるのだろうかという疑問を禁じえない。協力を求める先としては、少なくても製造販売業者については国内業者を想定しているのであろう。
今回の新型インフルエンザワクチン確保においても、政府は国内業者に対し様々な協力を求めている。
そして、その要請は法的に裏付けの無い、任意のものであった。このことが今回の対応において、大きな障壁となったのであろうか。部会において、法に盛り込む必要性は説明されていない。繰り返しになるが、新型インフルエンザの予防接種法への位置づけは、必要最小限にとどめるべきである。
必要性の説明が無いまま、大きな障害をもたらさなかった業者への協力依頼について、敢えて法に盛り込む必要は無いのではないか。

3)については、箸の上げ下ろしまで指示しようという愚策でしかない。ワクチンの確保が十分でない段階では、国が優先接種順位を示す必要があるであろう。だが、その優先順位は金科玉条の如く絶対に守らなければならないものではないはずだ。
10mlバイアルの使い勝手の悪さは多くの接種医から指摘されたことだが、それでも10mlバイアルによる出荷を断行したのは、10mlバイアルは瓶等への付着残留によるワクチンのムダを省き、一人でも多くの接種希望者にワクチンを行き渡らせるための手段であったはずだ。
その目的からしても、一瓶を使い切るにちょうどの優先接種対象者が同日に揃わなければ、次のカテゴリー、その次のカテゴリーと前倒しで希望者に接種するのは至極適切なことではないか。
たとえ、最終的に健康成人に接種することになったにせよ、無駄に破棄するよりはよほど良い。
最近も国産ワクチンがだぶつき輸入ワクチンの解約の可能性が喧伝される一方で、沖縄県が一人でも多くの接種希望者に接種しようと浪人生への接種方針を打ち出したところ、国が待ったをかけたという馬鹿げた事件が起こっている。
一定の指針は国が示す、だが最終的には現場が判断する、という考え方を医師の代表たる日本医師会代表は主張すべきではないのか。

【部会設置の精神を忘れるべからず】
ざっと駆け足で第2回、第3回の予防接種部会を傍聴した感想を書き連ねてきた。新型インフルエンザワクチンを議論の入り口とする以上、ある程度の「歪さ」を伴うことは致し方ないことなのかもしれない。
だが、第1回部会で上田博三健康局長が表明した「不退転の決意」による予防接種法の大改正を見据えた部会であるのだから、新型インフルを予防接種法に組み込む作業は必要最小限に留め、ゼロベースで予防接種法改正の議論に取り掛かるべきであろう。そのためには、第3回部会で抱いた3つの懸念のような余計な事柄は今回の法改正に盛り込むべきではない。
余計なものが盛り込まれれば盛り込まれるほど、それは予防接種法の大改正の障壁となり、「ワクチン・ギャップ解消」の道が遠のくことになる。それは予防接種部会を立ち上げた政治主導の精神に反することに他ならない。
第4回部会での軌道修正を強く望むものである。

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