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vol 42 平成の大本営 医系技官問題を考える(4)

医療ガバナンス学会 (2010年2月8日 08:00)


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厚生労働省医系技官
木村盛世
2010年2月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


いかに多くの罪悪が「国家のために」という美名の仮面のもとになされたことか。
―マクドナルド―

2010年における我が国の国連分担金は12.5%と、アメリカ合衆国の22%に次いで世界第2位である。分担金の割合は国連におけるその国の職員数に比例するのが当然であるが、日本はこれだけ多くの出資をしながら、自国の職員数がきわめて少ないのが現実である。
国連人事担当者によれば、少なくとも130人の日本人国際機関職員が必要だといわれている。ここでいう日本人職員とは、正規の試験を受けて合格した人の事である。試験を受けないで国連で働いている日本人もいるが、彼らたちは国連外の組織が身元引受人となって送り込まれたひも付き出向者である。出向であるから、給料は所属組織持ちである。
国連には様々な組織があるが、医療問題を担当するのがWHO(世界保健機関)である。WHOも他の国際機関の例にもれず、日本人職員が少ない。特にP(プロフェッショナル)-5という外交官特権を持つポスト以上の正規職員はほとんど見受けられない。P‐4とP-5という2つのレベルの間には大きな差がある。P-5は外交官特権が与えられるので、税金や待遇において格段に恵まれている。そして、高々1つのレベルの差とはいっても、正規職員が4から5へ出世するのはたやすいことではない。P-4の中でもまたレベルが分かれているからだ。
このような状況下で、難関といわれる試験も受けず、語学にも大いなるハンデキャップがあるにも関わらずP-5 以上のポストに座る日本人がいる。彼らたちは厚労省からの出向の医系技官だ。現在WHOには地域事務局を含めて4人の厚労省出向者がいるが、彼らたちのWHO内での評判は極めて悪い。
実際にWHOの外国人職員から聞いた話では、2年間の出向期間の毎週末、ヨーロッパの各都市を旅行し、秘書に2枚の報告書を書かせて帰って医系技官がいたそうである。帰国後、厚労省の幹部となり既に天下りをしている人物である。

この話だけでもかなりのショックだったのだが、それを上回るスキャンダラスな話が舞い込んだ。現職のWHO西太平洋地域事務局(WPRO)課長のK氏が、セクハラ・パワハラを繰り返し、他国のWHO職員から内部告発されたのである。WHO内で表ざたになっている事例としては、課内の会議で仕事のレベルを皆の前で罵倒され続ける、説明が下手で頭がよくない、履歴書の記載を偽っていると皆の前で繰り返し責められ続けるなどがある。あまりの酷さに精神科受診するものも出ている。女性への嫌がらせの他、自分や厚労省にとって有利な人物を着任させるために、厚労省外の機関からの出向者に対して執拗な嫌がらせを繰り返し、日本に帰国させた例もある。
K氏の所業はセクハラ・パワハラだけにとどまらない。2009年9月のマニラ台風被害に際して欧米諸国が援助を申し出たのを受けて、日本も災害援助に加わることが決まりかけていた。こともあろうにK氏は日本大使館を通じて横やりを入れ、日本の支援参加を帳消しとしたのだ。また、WHOラオス事務所が提案・準備していた、鳥インフルエンザ対策のための食品衛生・人類共通感染症プロジェクトを阻止しようとした。

何故K氏はこのような行動をとるのだろうか。セクハラ・パワハラに関しては自分の権威を知らしめたいという個人的な欲望とともに、厚労省の医系技官の存在の大きさを国際機関に知らしめようとした意図が感じられる。また、他の機関からの出向者を排除することにより、自分自身がより上級なポストをつかみたいと考えたのかもしれない。
実際、K氏の行動はひも付き元である厚生労働省からは高く評価されている。厚労省大臣官房国際課から任意拠出金としてWPROに提供される資金は年間約6億円である。このお金は30程のプログラムに振り分けられるが、この数年間、拠出金総額が変化していない中、K氏の割り当て分だけは、2008年の4800万円から、2010年は8800万円と急増しているのである。2010年には全拠出金の約6分の1がK氏の割り当てとなっている。

厚労省の意図とK氏の野望が一致した悪代官劇さながらの悪行ぶりの結果、どのような影響が生じるだろうか。
WHOは国際機関であるから様々な国籍の人たちが働いている。K氏に対する告発が、外国人職員から発せられた事実を考えると、医療分野での国際活動において我が国の信頼失墜という好ましくない状況を生むことになる。ただでさえ札びらで頬を叩くような金に任せた日本の国際支援が問題となっている中、K氏の事例は日本のイメージを更に悪くすることはあっても良くすることはない。
文頭にも述べたように、WHOには厚労省以外の職員もいる。正規の試験を受けてきた人たちは極めて優秀である。それにも関らずK氏のような事例が放置されることにより、厚労省と全く関係のない日本職員たちも色眼鏡で見られることになりかねない。また、今後国際機関を目指す日本人にとって、採用決定の際マイナスの要因になる事は否めない事実である。
厚労省からWHOへ出向する場合、国内の給料と共に海外手当てが支払われるが、すべて税金から拠出される。国際機関での日本職員の役割は、出向であるなしに関わらず、我が国の国際社会での位置づけを高めることにある。しかし、K氏だけでなく、今までの厚労省出向者の働きぶりはそれとは全くの逆効果をもたらし続けている。

日本人は秩序と和を尊ぶ国民性をもっている。ところが一たび海外に出ると、「旅の恥はかき捨て」よろしく、モラルを逸脱した行為に走ることがしばしば見受けられる。いくらK氏が英語能力に堪能だとしても、今までの動向をうかがう限り国際感覚ゼロとしか言えないだろう。
K氏の例は、きわめて悪質な破廉恥行為である。しかし、彼は特殊症例ではない。K氏のような国際感覚ゼロの医系技官が作り出したWHO内での風評によって、WHOのみならず他の国際機関においても同様の日本人職員イメージが形成されてしまうのだ。
国連の日本人職員は少ない。増やす必要がある。しかしその背後には、本来ならば積極的にWHOの日本人職員登用に資するべき医系技官が、己の利益を国策とすり替えて行動している現実が見える。健全な国連の日本人職員を増やすために、新政権は、日本から遠く離れた地で公然と行われている医系技官の利権のむさぼりを徹底的に検証し、排除するべきである。

(2010年2月4日 脱稿)

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