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Vol.167 猛威を振るう適時調査 -病院は適時調査に必要な備えを-

医療ガバナンス学会 (2018年8月20日 06:00)


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この原稿はMMJ8月15日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2018年月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 強化されつつある適時調査
厚生労働省が公表している「平成28年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」を見ると、ここ数年、保険診療の報酬請求に対する「個別指導」よりも、むしろ「適時調査」が強化されつつあることがわかる。厚労省は「個別指導」から「適時調査」へ、重点をシフトしてきていると評してもよい。
平成24年度から平成27年度を見ると、診療報酬の自主返還の金額が、「個別指導」においては年間合計30~40億円程度ずつであったのに比し、「適時調査」においてはその倍近い60~70億円ずつに達していた。平成28年度は、自主返還金額こそ40億円台に減少したものの、適時調査の実施件数はそれまで年間2300~2500件台であったものが、一気に3割以上も増加し、年間3000件台(実数は3363件)にまで至ってしまっている。
自主返還金額に重点を置くにせよ調査実施件数に重点を置くにせよ、いずれにしても、従来からの「個別指導」以上に「適時調査」が強化されつつあると言ってよい。厚労省はむしろ「適時調査」の方に重点を置いて、「適時調査」を著しく強化しようとしている。

2 適時調査マニュアルを整備・公表して強化
ところが、「適時調査」には、法律上、明文の根拠がない。法的根拠と言えるのは、せいぜい厚労省保険局医療課長発の平成30年3月5日付け「特掲診療料の施設基準及びその届出に関する手続きの取扱いについて」という文書くらいのものである。同文書の第3の2には、施設基準の「届出を受理した保険医療機関又は保険薬局については、適時調査を行い(原則として年1回、受理後6ヶ月以内を目途)」との定めがあり、1箇所だけ「適時調査」という用語が出てくる。(厚労省の前述の平成28年度の「実施状況」中にある「用語解説」によれば、「適時調査」とは、「施設基準を届け出ている保険医療機関等について、地方厚生(支)局が当該保険医療機関等に直接赴いて、届け出られている施設基準の充足状況を確認するために行う調査」を指す。)
しかし、その定めは、法律ではないし、具体的なものでもない。そこで、近時、厚労省保険局医療課は、その直接の担当セクションである医療指導監査室に対して、適時調査に関するマニュアルを整備させつつある。平成28年3月には初めて、「医療指導監査業務等実施要領」の一つとして「適時調査編」をまとめて独立させて定めた。さらに、平成30年3月には、他の指導・監査の「実施要領」からさらに一層、完全に独立させて独自の「適時調査実施要領」を定め直すに至っている。また、実務運用についてもそれまでの当日準備の取扱いを改め、調査当日の医療機関における準備書類についても、一般化した上で予め詳細にマニュアル風に、「当日準備していただく書類」という定めを置いた。そして、それらはいずれも厚労省のホームページに掲載して常に公表しているように改めていったのである。それは、適時調査を強化するために、整備・公表しているのであろう。

3 適時調査によって前倒しで圧力強化
厚労省は現在、医療費の適正化に向けた各種の取組みに躍起となっているらしい。レセプト1次審査やレセプト2次点検の強化もその代表例である。会計検査院も会計実地検査を強化してきているらしい。そして、それらはいずれも、個別指導や監査の前段階として位置付けられている。
今までは、いわば最終段階に位置付けられている個別指導や監査を中心として、いわゆる「医療費の適正化」が図られてきた。ところが、それらだけでは医療費適正化に不十分であるとして、前倒しによる強化が図られつつある。監査よりも個別指導へ、個別指導よりも集団的個別指導へ、指導よりも会計検査院会計実地検査を契機とした改善・自主返還へ、指導よりもレセプト2次点検やレセプト1次審査の強化へ、といった一連の事象は、同一方向のトレンドと評してよいであろう。
実は、適時調査の強化も、そのトレンドの一つなのである。適時調査を使った前倒しでの圧力強化と言ってよい。
当然、医療機関としては、前倒しでの圧力強化の一環である「適時調査」に備えておく必要があるのである。

4 調査は医療でなく医事・労務が中心
臨場による適時調査は、原則として地方厚生局都道府県事務所の事務官及び保険指導看護師だけがやって来るのであって、指導医療官・保険指導医といった医師は医療機関〔注・当分は、病院(医科)のみが対象〕に来ない。適時調査の対象は、医療行為よりも、医事(医療事務)や労務(労働事務)が中心となっているからである。そのため、個別指導や監査と異なり、都道府県医師会等の学識経験者の立会いがない。適時調査実施要領のⅡ4にも、「都道府県医師会等への対応」として、「学識経験者への立会依頼」については「実施に当たり、都道府県医師会等の立会依頼は不要である」と明示され、「年度・月次計画書等の事前通知」についても「年度・計画及び実施の事前通知は行わない」と定められている。
したがって、適時調査への対策としては.医療の専門家である院長らの医師達よりも、医療事務や労務管理に習熟した病院事務の職員達が重視されねばならない。熟練した事務長をはじめとした事務職員を採用することと共に、常日頃より事務職員達に医療事務や労務管理の研鑽を積んでもらうように心掛けておかねばならないのである。

5 調査への法務チェックも必須
他方、地方厚生局の法令系事務官とても、必ずしも全て適時調査の内容に習熟しているとは限らない。特に、事務官と保険指導看護師とが少人数でやって来て、その場の即断で調査結果を指摘するのが、実務運用の現実である。
時には、事務官の指摘にちょっとした間違いもあろう。場合により、医事問題や労務問題のどこかにあいまいな点も無いとは言えない。そのような時に、各種法令の解釈や当て嵌めといった即時の法律判断が必要となることも間々ある。固有の医事や労務のみでなく、一般的な法律知識が必要となることもあろう。つまり、適時調査への法務チェックも実は必須なのである。
この点は、個別指導や監査で積み重ねられて来た実務運用に準じて、臨場による調査への弁護士帯同、及び、病院職員達と弁護士とのチームによる法務チェックを普及させていくことが、適時調査への備えとして必要と考えられるところであろう。
〈別紙〉
適時調査の事務分野と役割分担

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_167.pdf

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