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vol 55 厚生労働省の怠慢と暴走、誰が止められるのか?

医療ガバナンス学会 (2010年2月18日 10:00)


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わだ内科クリニック
院長
和田眞紀夫
2010年2月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【厚労省の怠慢】
まずは厚生労働省の怠慢の話から。元小樽市保健所長を勤められていた外岡立人先生のサイトから新型インフルエンザの予防接種に関する記載(2月12日付)を引用させていただく(以下)。

「これまでの接種者数はどの程度いるのだろうか?国は何も発表していないが、米国で23%、カナダで50%弱、欧州は北欧を除くと10%以下、中には数%も。こうした情報は国内ではいつも公表されない。調査しているかも分からないが。出荷した本数に現場からの声を加味すると、1000万人も接種してないのではという情報もある。10%以下。」

http://nxc.jp/tarunai/index.php?action=pages_view_main&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=3080multidatabase

国はどうしてちゃんと調査して発表しないのだろうか。外国でできていることが、なぜできないのだろうか。国立感染症研究所のスタッフをはじめ、いわゆる側近ブレーンもいるはずなのに、みんながみんななぜ静観しているのだろうか。そして関連学会や日本医師会も新型インフルエンザの流行が沈静化してしまったらもう無関心なのだろうか。

そもそも新型インフルエンザにどのぐらいの国民が感染したかについても、しっかりした統計を採っていなし、とろうともしていなかった。いわゆる定点医療機関といわれる国内5,000医療施設からの報告が唯一の足がかりだったのだが、その内訳は小児科が3,000施設で、内科が2,000施設。きちんと補正をしないで概算しているとしたら、小児の感染者数が多く計上されていてしまうという不正確さだ。
厚労省傘下の研究班にしてもこのような事務方の統計資料をもとにして類推しているだけだから出発点の時点で誤りを含んでいる。諸外国のデータに比べて日本では15歳以下の感染者数がやたら多かったことになっているのも、このようなところに起因しているのかもしれない。モデル地区を設定してその地区だけは全数把握を継続すべきであったが、そのような対策も採らなかった(一部の地域では試験的にオンライン報告で全数把握に努めていたことは特筆すべきことだが、全国統計には生かされていない)。

きちんとした統計を採ってこそ、初めて適切な対応も取れることを理解して欲しい。この章の最後に一つだけ。成文化してしまうことのデメリット。東京都は未だに新型インフルエンザワクチンの供給(配給といったほうがいいかもしれない)を制限し続けていることをご存知だろうか。ワクチンの在庫が有り余って破棄せざるを得ない状況に追い込まれている今になってもである。東京都の配給は月に2回だけ。今すぐに申し込んでも届くのは3月上旬なのである。頻度の少ない定期供給システムを一向にやめようとしないからである。3月に第10回、第11回の配給を行いそれで終了するとの通達が来た。厚労省が怠慢にも新型インフルエンザの流行がどうなっているのかという報道発表すらしないものだから、国民は全くわからないまま、いまだにワクチンを打って欲しいという患者さんがぽつぽつと現れる。当院では在庫はすっかり使い切っているから、「今注文をしても3月上旬にならなければ入らない。」といって他院をあたってもらっている。季節性のインフルエンザワクチンならば問屋さんに注文すればその日のうちに届けくれることを考えれば、新型の流通がいかに制限されているかがお分かりいただけるだろう。

どうしてこんなことが起こるのか。一旦決定された通達事項が壊れた機械のよう回り続けているからである。そしてその壊れた機械を誰も止めないのである。こんなことで余剰在庫を破棄しても仕方がないで済まされるものか?ワクチンを打つべきだという啓蒙もまったく行わず、3600円も自己負担させる任意の接種にしておいて、全国民がワクチンを打つと思うか?その結果として何%の国民がワクチンを実際打ったのか?全国民分のワクチンを用意して予想は間違ってなかったといってそれで済むものだろうか?厚労省のやってきたことはずさんと怠慢に満ち溢れており、それを誰も弾劾できないでいる今の状況も異様といえるほどほどおかしい。誰がこの暴走を止められるのか。保健所とこれに関わる地方自治体部署の機構改革も絶対必要だ。保健所は機能していない。厚労省の通達以外に彼らを教育し動かすものは何もない(個々の職員は板ばさみで奮闘努力されておられるだろうことは想像に難くないことは付記しておきたいが)。

【厚労省の暴走】
新型インフルエンザの予防接種にあたっては厚労省が優先順位を決めてそれを厳格に遵守させる方針にうってでた。
多くの方はもうお忘れかもしれないがこの任意予防接種を実施するに当たって、医療機関と厚生労働大臣との間で優先順位を守るべしという契約書(誓約書と言い換えてもいいもの)を取り交わさせられたのだ。厳しく統制しようとする厚労省役人の強い意志を感じる通告だった。
そして国民に予防接種を実施するためには否が応でもこの契約書にサインせざるを得なかった。医療行為を行うのになぜこのような異例の契約書を強制させられなければならないのか、強い憤りを感じたとともに、日本医師会や他の誰もが文句一つ言わなかったことも全く信じられなかった。
ちなみにその契約書は一方的にサインさせられただけで未だに厚労省大臣のサインは我々の手元に届けられていない。法律的にもこのような契約行為があっていいものだろうか(弁護士の方、是非教えてください)。そして今、厚労省は、この契約書に代わるものとして法律を新たに制定して間違った医療行政を現場に強要しようとしている。

新型インフルエンザ予防接種の優先順位のことについて話を戻そう。これははっきりいって憲法違反といってもいい重罪だ。すべての国民が平等であるべき接種権利を侵害したからだ。しかも予防接種を打てるか打てないかはひとの命がかかっていたのだ。亡くなられた方は幸い少なかったとはいえ、その方が予防接種を受けていたら亡くならなくても済んだかもしれない。その権利を強制的に剥奪した罪は大きい。

さらに言えばこの優先順位。医学的なエビデンスに基づいているものでないことが決定的におかしい。一つ例を挙げよう。糖尿病の患者さんでインシュリン注射をしているひとと経口血糖降下剤を服用しているひととの優先順位に差をつけた。全く医学的な根拠はない。このような細かい優先順位規定が延々20ページにも及ぶ文書で通達されてきた。それぞれの疾患について関連学会の意見を求めて決定したという経緯があるのだが、このことによって責任を完全に学会に押し付けていることに各学会は気づかないのか。そして医学的なエビデンスもないままに順位決定の意見を厚労省に提出させられたのが実態だ。そもそも新たに開発されたワクチンの効果についてのエビデンスなど存在するはずがない。であれば、この優先順位をそこまでして厳守させなければいけなかった根拠は何か?何もない。

医学的な根拠もないことをかってに設定してそれを遵守するように医師に契約書を交わさせ、そして今度はそれを法律にしてさらに堅固なものにして強要しようとしている。これを暴走といわずして何だろうか。そしてこの憲法違反の最悪の暴走を誰が止められるのか?私は日本医師会が憲法違反だとして厚労省を訴えてもいいとさえ思っている。アメリカでは政権党が交代すると官庁のトップも総入れ替えになるという。時代が移り変わろうとも官庁のトップが同じポストに永年居座るという官僚構造自体が諸悪の根源であって、自民党時代からの古い厚労省幹部はすぐにでも総退陣させて新しい風を吹き込むべきだ。

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