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Vol.221 望まない妊娠と緊急避妊薬 海外で「知らせないのは罪」とまで言われる理由とは?

医療ガバナンス学会 (2018年11月2日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(6月20日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2018061900031.html?page=1

山本佳奈

2018年11月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、望まない妊娠を回避するための「緊急避妊薬」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

*  *  *
2015年に行われた厚生労働省「第15回出生動向基本調査」によると、不妊症の検査や治療を過去受けた、または現在受けている夫婦は52.1%だそうです。その一方で、この世に生を受ける前に、尊い命が失われている現状もあります。人工妊娠中絶です。

人工妊娠中絶とは、「胎児が、母体外において、生命を保続することができない時期に、人工的に、胎児およびその付属物(胎盤、卵膜、臍帯、羊水)を母体外に排出することをいう」と、母体保護法第2条第2項に規定されています。年々、減少傾向にありますが、2016年度には16万8千件の人工妊娠中絶が行われました。

厚生労働省による2016年の死因順位別死亡数の推計数によると、1位は悪性新生物、つまり、がんの37万4千件、2位は心疾患の19万3千件、3位は肺炎の11万4千件。人工妊娠中絶によって失われている命がいかに多いのか、わかっていただけるかと思います。ちなみに、年齢階級別にみた人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)では、20~24歳が12.9%と最多です。

そもそも人工妊娠中絶とは、週数によって大きく2つに分けられています。妊娠12週未満の場合、子宮内容物除去術を、また、妊娠12週から22週未満であれば、人工的に陣痛を起こし流産させる方法を取ります。どちらも、身体的にも精神的にも負担になると言わざるを得ません。

妊娠を望まないなら、必ず避妊をすることが大切です。男性はコンドームを正しく着用し、女性は経口避妊薬を毎日内服することで、高い避妊効果を得られます。コンドームを使用せずに性交渉することは、たとえ排卵日を避け、膣外で射精していても、避妊していることにはなりません。

コンドームをちゃんとつけていても「終わったら破れていた」「行為の最中に破れてしまった」なんて避妊に失敗した経験がある人も多いのではないかと思います。無防備な性交渉や避妊に失敗した性交渉の後に、妊娠する確率を下げる緊急的な手段として用いられる内服薬が、緊急避妊薬です。事後避妊薬、モーニングアフターピル、アフターピル、Emergency Contraception、Plan Bなどとも呼ばれています。性交渉の際にコンドームが破れてしまった、コンドームに穴が空いてしまった、コンドームが途中で外れてしまった、そもそも避妊をしていなかった、などの理由で、妊娠を望んでいない場合に、緊急的な手段として翌朝に服用されることが多いからです。

日本で緊急避妊を効能効果とする医薬品として唯一承認されている薬剤に、「ノルレボ錠」(一般名:レボノルゲストレル錠)があります。「ノルレボ」は、2011年2月に日本で承認され、同年5月にあすか製薬より発売されました。レボノルゲストレルという黄体ホルモンが主な成分であり、以下の2点の効果により、性交渉後72時間以内に一回1錠(1.5mg製剤)内服すれば妊娠を防ぐことができると言われています。

1点目は、子宮内膜の増殖を防ぐこと。これにより、受精卵が着床しにくくなり、避妊効果を得られます。2点目は、妊娠している状態に近づけること。排卵の抑制や遅延させることができるため、妊娠を防ぐ効果を得られるという仕組みです。

内服するタイミングが早ければ早いほど効果的であると言われています。ただし、飲めば絶対に妊娠しないというわけではありません。国内の臨床試験の結果によると、妊娠率は1.59%だったといいます。保険適応外であるため、自己負担額は1万3千~1万6千円と高額です。

ノルレボ錠が承認されるまで、日本において最も一般的だった緊急避妊法は、ヤッペ法です。エチニルエストラジオールとノルゲストレルを含む中用量ピル(錠数を調節して他の用量のピルで代用されることもある)を72時間以内に2錠、さらにその12時間後に2錠内服します。排卵前であれば排卵を抑制し、排卵後であれば黄体期の短縮や着床を阻害することによって、妊娠する確率を下げるため避妊効果を得られます。保険収載されているピルも使用可能ではありますが、緊急避妊の目的で処方される場合はノルレボ錠同様、保険適用にはならず。4千~8千円ほどで提供されています。ノルレボ錠より安価ですが、一度に服用するホルモン量が多いために、悪心や嘔吐といった副作用の出現する頻度が高いことが特徴です。

「知らないのは愚か、知らせないのは罪」。緊急避妊薬のことを、欧米などの先進国ではこのように評価しています。

欧米諸国では、2000年前後に緊急避妊薬として承認されており、06年10月末時点で、国連加盟国の192カ国中114カ国で承認されていましたが、当時日本は未承認でした。なんと、未承認の国のイランやアフガニスタン、北朝鮮などごく少数の国々に名を連ねていたのです。

欧米の承認から10年ほど遅れて、日本でもようやく承認され発売されるに至りました。ですが、日本では、緊急避妊薬は医師の処方箋なしでは手にはいりません。「欧米より性教育が進んでいない」という理由から、薬局販売が先送りされています。一方で、多くの先進国ではすでに市販薬として販売されているため、薬局やドラッグストアなどで簡単に購入することが可能です。ジェネリック薬品も出回っており、米国では10ドル前後と比較的安価で手に入ります。

日本におけるノルレボの処方数は、2012年の約5万4千から2016年の約11万4千と増加しているものの、欧米に比べると使用量が少ないのが現状です。理由の一つに、諸外国と同じように市販薬としてではなく、医療機関の受診が必要であることが挙げられます。日本でも、2017年に厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で「ノルレボ錠」について、薬局で薬剤師の指導のうえ購入できるOTC化への転用が議論されましたが、残念ながら転用は見送られているのが現状です。

無防備な性交渉や避妊に失敗した性交渉の後に、緊急的な手段として用いられる緊急避妊薬。避妊が成功しても、ああよかったと安心してはいけません。コンドームを使用していない性交渉は、性感染症のリスクを増加させます。そのため、自分の身体を守るためには、HIV、クラミジア、梅毒、淋菌などの性感染症の検査も大切なのです。

パートナーを信頼しているから私にはそんな検査は必要ないわ、とか、症状も特にないから感染なんかしていないわ、と思っている女性も多いかと思います。残念なことに、性感染症は症状を自覚しにくいことが知られています。また、クラミジアや淋菌は不妊症を引き起こすこともわかっています。妊娠したいと思って検査をしてみたら性感染症が陽性だと診断されました、なんていうケースは珍しくありません。

緊急避妊薬は、あくまでも緊急的な手段として用いられる内服薬です。妊娠を望まないなら、必ず避妊をすることが大切です。万一、避妊に失敗してしまったとしても、一人で悩まずなるべく早く病院を受診してくださいね。

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