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Vol.222 若手医師を勧誘する「医師会の保険」の実態

医療ガバナンス学会 (2018年11月5日 06:00)


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認定登録 医業経営コンサルタント
高月清司

2018年11月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

この4月より日本医師会は勤務医、特に研修医を中心とした若手医師の年会費を無料または大幅に引下げて、全国の公的病院(旧国立病院、旧国立大学病院など)を中心に会員増加を図っている。しかし、私共に寄せられた相談によると、保険そのものの説明が不足していたり、先輩医師による「断りにくい」勧誘があったりと、比較的若い勤務医、特に研修医にとっては対応に注意が必要なケースも多い。そこで、医師会の医師賠償責任保険(以下、日医医賠責保険)の特徴について解説したい。

日医医賠責保険には不透明な部分が多く、また支部によっても細部の対応が異なるケースもあるが、おおむね次の3点が特徴として挙げられる。

1:免責100万円がある
免責とは保険会社が「責任を免れる」という意味で、英語では deductionとなるので実態がより分かりやすい。つまり、保険会社は保険金から100万円を差し引いて支払うため保険料を安く設定できるが、肝心の賠償額の内100万円までは医師が自腹を切ることになる。また、明らかに賠償額が100万円以下と思われる事案は「最初から相談にものってもらえない」というのが大方の評判だ。

2:保険加入を証明する資料が発行されていない
保険に加入すると通常は保険会社から発行される保険証券や加入者票といった「保険加入とその内容を証明する書類」が加入者各人に配布されるが、医師会の場合は年会費に含まれるということなのか、配布されていない。そのため「保険に加入していること」自体を知らない会員も多く、同窓会や任意団体など他団体が斡旋する勤務医師向けの保険とダブルで加入してしまうなど、トラブルの要因にもなっている。

3:初期対応に遅れを生じやすく、保険会社の切替えもしにくい
日本で販売されている医師向けの賠償責任保険の多くは「事故発見日ベース」といわれ、医師や医療機関自らが「もしかして事故?」と認識・発見された時点から保険が起動する。初期消火に優れ事故の発展炎上を防止する効果がある。

しかし、日医医賠責保険の多くはこのタイプではなく「賠償請求日ベース」といわれるもので、患者側から実際に「賠償が請求された日」から保険が起動するため、発見日ベースの保険に比べ初期消火に遅れを生じやすく、炎が燃え上がってから消防車を呼ぶのに似ている。

また、詳しい内容は省くが、一旦この賠償請求日ベースの保険に加入してしまうと、あとから学会や同窓会、任意団体などで多く採用されている発見日ベースの保険に切替えようとしても条件によっては切替えが容易でないケースも出てくるので、加入する際に特に注意が必要だ。

次は保険料がどうなっているかを見てみよう。
医師会が公表している資料(日医ニュース等)によると、「組織率強化を掲げ(中略)、若手勤務医・研修医の加入を促進させる取組みが急務であり、保険料の大幅な引下げを行った」としている。勤務医の入会を促進したい医師会の本音が垣間見える。

では、本当に保険料が安くなったのだろうか? 同じ資料によると、「保険会社と交渉の末、保険料を大幅に引き下げた」とあるが、その後段には「保険料の一部を医師会が負担し(中略)大幅な引き下げとなった」とも述べている。私が専門機関に確認したところ保険料自体の引下げは行われていない様子であり、実際は「一定の期間のみ、医師会による保険料負担が行われて安く見えている」というのが実態のようだ。

さらに、実際に保険料負担が行われ年会費が安いのは前期研修医である2年間だけで、その期間が終わった時点と30歳になった時点の2回、保険料がアップする(通常の保険料に戻る)仕組みになっている。従い、「安さ」だけにひかれて加入してしまうと、いずれ年会費という名目で通常の保険料を支払うことになるため、前述した3つの特徴から考えると果たして「安い」といえるだろうか。「値上げになったら(医師会を)脱会すればよい」とも考えがちだが、医師会からの脱会は先輩医師からの引留めもあってなかなか容易ではないことも、よく知られている。

それでも「やはり医師会には入っておきたい」と思う勤務医には、「保険抜き」で会員になれる会員資格(B、C会員)も用意されている。これについての説明はどこでも積極的には行われていない様子だが、こちらは保険料が含まれていないため年会費が無料または安く設定されている。先輩医師から勧誘されて「断りづらい」場合には、「医師会には保険なしで加入する」という選択肢もあるので、詳しくは地元の医師会に直接問合せするとよい。

医師賠償責任保険は自動車の運転と同じように医療を行う以上は必ず加入しておきたいものだが、目に見えない商品でもあるので事故時の対応などで余計な苦労をしないよう、加入する際は他の賠償責任保険とよく比較・検討し、信頼できる先輩や専門家に問合せするなどして自身の描く医師キャリアに見合った保険に加入することが肝要だ。

以上

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