医療ガバナンス学会 (2018年11月28日 06:00)
この原稿はAERA.dot(10月3日配信)からの転載いです。
https://dot.asahi.com/dot/2018100100020.html
森田麻里子
2018年11月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
前回お話したように、葉酸の必要量は妊娠中期以降減り、それ以降は鉄分が一番大切になってきます。しかし実際には、サプリメントは葉酸だけという方が多いのではないでしょうか。実を言うと私も妊娠中はその重要性を知らず、貧血もなかったため、鉄分のサプリメントは摂っていませんでした。今回は、そんな鉄分の摂り方についてお話したいと思います。
鉄分は血液をつくることだけでなく、赤ちゃんの脳や体の発達にも大切だということがわかっています。
鉄不足でよく起きるのは貧血、つまり血液中のヘモグロビンの量が少ないということですが、貧血がなくても鉄分が十分足りていない場合もあります。その指標になるのが、血液中のフェリチンというタンパク質の量です。フェリチンは、体の中で鉄分とくっついて、鉄を保存する働きをしています。貧血がなくても、血液中のフェリチンの値が少なければ、鉄が不足している可能性があるということです。
例えば、1992年にニュージャージー医科歯科大学から発表された論文では、826人の妊婦さんの貧血と、赤ちゃんが産まれた時の状態を調査しています。その結果、お母さんが鉄欠乏性貧血の場合、赤ちゃんの出生体重が低くなるリスクがオッズ比にして3.1倍、早産になるリスクが2.7倍になっていたことがわかりました。出生体重が低かったり、早産だったりすると、NICU(新生児集中治療室)に入って治療を受けることが必要になったり、体に障害が出てしまう可能性もあります。鉄分を十分に摂ることは、プレママ時代から大事なのです。
それでは、どのくらいの量の鉄分をとればいいでしょうか?
1998年のアメリカ疾病予防管理センターのガイドラインでは、1日30ミリグラムの鉄サプリメントの摂取が推奨されています。厚生労働省も、妊娠初期は2.5ミリグラム、中期・後期は15ミリグラムを、妊娠していない時の摂取量に加えて摂取することを勧めています。
食品から鉄分を摂取する場合、おすすめなのは、あさりの缶詰です。水煮缶ですと100グラムあたり29.7ミリグラムで、調理もしやすいため、私も妊娠中よく使っていました。一方で、鉄分が多い食品としてよく紹介されるのはレバーです。例えば鶏レバーなら100グラムあたり9ミリグラムの鉄分が含まれています。しかし、レバー類はビタミンAの多い食品で、100グラムの鶏レバーのビタミンA量は、1日あたりの上限の5倍以上にあたります。時々食べるのは良いと思いますが、レバニラや焼き鳥のレバーを毎日食べるのは摂りすぎです。
他の食品は、牛もも肉なら100グラムあたり2.5ミリグラム、豚もも肉だと0.5ミリグラムといったように鉄分はあまり多くなく、食品からたくさんの鉄分を摂取するのは難しいです。特に妊娠中期以降は、10~20ミリグラムの鉄分のサプリメントや鉄分を付加した食品を摂取するのがおすすめです。
サプリメントの種類としては、最近は、通常の鉄サプリメントだけでなく、ヘム鉄のものも売られています。鉄分はヘム鉄と非ヘム鉄の2つに分かれます。ヘム鉄は肉や魚類に含まれている鉄分で、吸収率が優れています。しかし植物に含まれる鉄分のほとんど、そして肉や魚類に含まれる鉄分でも60%は非ヘム鉄と呼ばれるもので、ヘム鉄と比べると吸収率が悪いです。非ヘム鉄を効率的に摂取するためには、ビタミンCや動物性のタンパク質と一緒に摂るのがポイントです。逆に、お茶やコーヒーなどタンニンを含む食物や、乳製品などカルシウムを多く含む食品と一緒に摂取すると、吸収率はさらに低下してしまいます。吸収率の面からは、ヘム鉄が優れていると言えるでしょう。
日本では、妊娠中の鉄サプリメントについてはまだ一般的ではないかもしれません。食事から十分摂取するのが難しいと思う場合は、妊娠中期からの鉄分のサプリメントも、ぜひ検討してみてください。
【お詫びと訂正】
※記事初出し時に、「厚生労働省も、妊娠初期は2.5ミリグラム、中期は12.9ミリグラム、後期は17.5ミリグラムを、妊娠していない時の摂取量に加えて摂取することを勧めています」となっていましたが、中期と後期については「15ミリグラム」の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。