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Vol.257 今年度医学部入試はどうなるのか?

医療ガバナンス学会 (2018年12月10日 06:00)


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鳴門教育大学大学院学校教育研究科
黒田麻衣子

2018年12月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年8月に東京医科大学で入試得点を不正に操作していたことが発覚した。これをきっかけに、全国81医学部における大学入試合否結果に男女差がどのくらいあるのか、調査が行われた。その結果、多くの大学で男子受験生よりも女子受験生のほうが、合格率が低いことが明らかになった。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018090400819&g=soc

9月4日に出た上記の時事通信社記事によると、東京医科大学以外に女子受験生の得点を不正に操作していたと回答した大学はなかったとのことだった。ところが、のちに、昭和医科大学、順天堂大学などが得点操作を認め、12月8日には不正が疑われる大学として新たに福岡大学、岩手医科大学、金沢医科大学が文部科学省の指摘を受けている。

筆者含め、大学受験生を多く送り出してきた教育現場としては、医学部入試において男女の扱いに差がありそうだということは「常識」のようになっていた。もちろん、得点開示を求めても、不正の証拠はつかめない。それでも、毎年生徒を送り出している側の「手応え」として、男女に差があると確信していた。

複数の受験者を同じ医学部に送り出している高校であれば、「A男、B男が合格したのに、C子が不合格?あり得ない!」という体験を何度もしている。それが1年間だけ、1人だけであれば、「入試は水もの。そういうこともある」と考えるであろう。しかし、何年も、何人も同じことが繰り返されれば、疑いは確信に変わる。

医学部の入試には、面接が課されることが多い。同じ大学を同じ年に受験しても、男子と女子とでは質問内容がまったく違うことがある。女子には、ハラスメントにならないか?と疑うような質問をされることもある。そして、そういう大学は、得てして男子は合格し、女子は落とされる。たとえば、国立のある大学医学部の地域枠推薦入試で、同じ年に受験した男子の方は、志望理由書について突っ込んだ質問を受けたのに、女子の方は「女性だけれど、地域医療に従事して大丈夫なの?結婚や出産はどう考えているの?」とワークライフバランスの話ばかりをされて、医学への思いはほとんど語らせてもらえなかったという実話がある。

ありがたいことに、筆者の地元である徳島大学は、女子の合格率が高いほどで、先述の全国調査においても男子と女子の合格率に有意差は見られなかった。他県から徳島大学医学部に進学してきた女子学生にヒアリングすると、「医学部を受験するのであれば、女子が合格しやすい大学にしなさいと高校の先生からアドバイスを受けて、徳島大学を受験しました」と匿名を条件に答えてくれた。受験生を指導している側からすると、女子が不当な扱いを受ける疑いの強い大学を敬遠させたくなるのは当たり前だ。

私立大学のみならず、国立大学でも我々が得点不正を疑っている大学はある。現在、まだ

得点不正を公表していない大学にも、得点操作が疑われる大学はある。高校現場は、気づいているぞと警鐘を鳴らしておく。

大学によっては、現役男女の得点率に差が出やすい問題を出題することで、男女の合格率に差が出ている場合もある。大学の名誉のために、それは付け加えておく。高等学校で教えていると、数学の空間ベクトルや複素数平面、物理などで得点率に男女差が出ることも実感している。もちろん、女子の中にもこうした分野を得意とする生徒はいるけれど、他の分野と比べると男女の得点に差がでやすい分野ではある。よって、そういった分野を狙って出題されると、どうしても女子が負けやすくはなる。この場合は、大学側が「この分野の力は、医学部にとって必要な資質です」と言い切ってしまえば、結果的に合格率に男女差が出ても、文句は言えないと筆者も思う。

しかし、試験において、男女の採点に差があるのではないか、何らかの操作をしているのではないかと疑いの余地がある大学は、今公表している大学だけではない。とくに、面接試験において、女子受験生を不利に扱っている大学は、一校や二校ではないはずだ。

今年度入試が幕を開けた。今年度の入試結果が出そろったとき、文部科学省にはぜひ、今年度の全国81医学部の男女別合格率を出していただきたい。そして、今年度の分と見比べていただきたい。今年度と昨年度に大きな差異が見られた大学は、昨年度まで何らかの操作をしていた疑いが濃くなる。だからと言って、これだけ医学部入試が注目されている中で、今までのような女子受験生への面接を繰り返せば、たちまちSNSで叩かれることになるだろう。不正を、無かったことにしないでいただきたい。
ただ、医学部には医学部の事情があるのだろう。いきなり男女同様に扱うことは難しいという大学もあるのかもしれない。どうしても、合格者に男女差をつけたいのであれば、合格者の男女比をあらかじめ公表していただきたい。「女子大学」があるくらいだから、男女で人数比があらかじめ決まっていますと言われれば、それはそれで、納得はしないけれど、仕方のないことであると諦めもつく。秘密裏に操作したり、面接という曖昧な部分で女子受験生を不当に扱うのは昨年度限りにしていただきたい。

一連の医学部入試における不正得点操作について文部科学省は、年末までに最終的な調査報告結果を発表する方針を示しており、不正の疑われる大学名の公表も視野に入れているという。女子受験生や多浪生に対する得点操作や面接での不当な扱いを、まだ公表していない大学は、ぜひとも速やかに今のうちに公表して謝罪することをお勧めする。そして、今年度入試では、男女および多浪生を同等に扱っていただけるよう、高校現場の一人として強く望む。

○黒田麻衣子(くろだまいこ)
徳島県出身。1997年から徳島県で公立高校教諭として13年間勤務。退職後、徳島県に国語専門塾を開設、現在に至る。2017年より鳴門教育大学大学院学校教育研究科修士課程に在籍中。

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