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vol 75 あるのに使えない承認薬

医療ガバナンス学会 (2010年2月28日 12:00)


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あるのに使えない承認薬―肺高血圧症治療薬「フローラン」  後発品も再び「使えない薬」?

 

特定非営利活動法人PAHの会

代表

村上紀子

2010年2月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【肺高血圧症とはどんな病気?】
肺高血圧症という病気は100万人に数名とも言われる希少難病で、心臓から肺へ血液を送る血管に何らかの原因で異常が起こり、心臓に負担がかかり、だんだん正常に機能しなくなる、命に拘る疾患で、わが国の患者の総数は約8000人程度と考えられております。
この疾患は男女の性別に関係なくあらゆる年代で発症しますが、特に20-60代の発症率が高い傾向にあります。医学書を開いてみても「発病から数年で命を落とす大変に予後の悪い病気」等と記載されていて、そのため、肺高血圧症と診断された患者は、腰を抜かし、絶望感に打ちひしがれることになりますが、正しくは「但し治療をしなければ」という言葉を付け加える必要があります。(※治療をしない場合の生命予後は、発病から5年で40-50%です)

【肺高血圧症治療薬―フローランとは?】
従来は原因も治療法も不明で、発病から数年で大多数の患者が命を落としていた希少難病の患者の生命予後を飛躍的に改善し、患者に生きる希望を与えたのが、1993年に英国で開発され、その後米国で1995年に承認、及び投与方法の改善がなされたフローラン(グラクソ・スミスクライン社開発・販売)という治療薬で、現在フローランを使用している国内の患者数は約300人おります。
患者の予後を大幅に改善した米国式フローランの投与方法とは、肺高血圧症血圧症の病態が進行性であることから、個々の患者の病態(肺血管抵抗値、肺動脈圧値など)によって、フローランの投与量を増量していく必要があります。つまり、通常患者が長く生きれば、それだけフローランの投与量は増え続けことになります。このことは、患者が長く生きる期間とフローランの投与量は一般的には比例することを意味します。
(※米国式フローラ治療法の先駆者であるコロンビア大学病院のRobyn Barst医師の投与例では、2ng/kg/分~8ng/kg/分で投与を開始して、1週間毎に4ng/kig/分の増量を継続し、4年目の患者の平均投与量は140ng/kg/分にもなります。)

【減額査定されるフローラン】
フローランはわが国でも1999年、「上限のない保険薬」として承認されましたが、承認当初の薬価は米国の10倍であったために(0.5mg 1瓶(溶解液付)米国$19.1、日本\21,735)(1.5mg 1瓶(溶解液付)米国$38.2、日本\37,994)保険財政を圧迫するとの理由で、全国各地で減額査定が繰り返され、患者はフローランがわが国で承認された恩恵を十分に受けられずに、命を繋いでいくために十分なフローランの増量ができないでおります。
では、なぜ国で正式に肺高血圧症治療薬として承認されているはずのフローランが、各地の支払い機関で減額査定されるという理不尽な事態が起こってしまっているのでしょうか。
「今日の治療薬2008」には、フローラン(エポプロステノール)の容量として以下のように書かれております。「専用溶解液に溶解し2ng/kg/分で持続静注開始。15分以上間隔をあけ1~2ng/kag/分ずつ増量、10ng/kg/分までの範囲で最適投与速度決定。継続投与期では、症状に応じて投与速度を調節。15分以上の間隔をおいて1~2/kg/分ずつ増減。」
この記述を読む限り、通常は10 ng/kg/分程度までの使用を想定していると考えられ、米国式の100 ng/kg/分以上を投与することを想定しているとは とても考えにくいと思います。

【フローランの米国式増量を嫌ったGSK社の意図と高薬価との関係】
では、なぜこのような低用量を想定した記述になっているのか、ということに関しては、わが国のフローランの承認の経緯に関して、同薬の開発を担当したグラクソ・スミスクライン社の辻本博史課長が、「フローランを少量使用して患者の症状が改善したら離脱して、当事日本で承認されていた経口薬に切り替えることを想定していた」と語っていたことと密接に関係があるように考えられますが、実際はわが国のフローランの臨床現場では米国式の投与方法が一般的に行われており、同社の意図したように「フローランから経口薬へ切り替える」との投与方法は殆どされてきてはおりません。
ところで、わが国のフローランの承認は1999年で、米国の承認(1995年)に遅れること4年の歳月が流れております。その年月の間に「フローランは大量の増量が必要」ということは、米国のフローラン治療の先駆者であるRobyn Barst 医師(コロンビア大学病院)等が盛んに医学誌(New England Journal of Medicineなど)に論文を発表しており、外資系の製薬企業の開発担当者であれば、当時発表されていたように、フローランの増量の効果を知らなかったはずはないと考えられるのですが、フローランをわが国に導入した申請時のGSK社の意図は、この当時最も効果的な投与方法と注目されていたような100ng/kg/分以上という米国式投与量に沿ったものではなく、「最大投与量を10ng/kg/分」という少量の投与法を目標とした申請になっていたようです。この同社の「短期間に少量使用」の申請のために、当時の厚生省関係者は米国の10倍の薬価を認めたのではないでしょうか?後にフローランの薬価が決定された経緯を問い合わせた私達患者側への回答として、厚生省(当時)からは、「同薬の薬価はほぼ申請者側の言い値で決めた」との回答がありました。
しかし、当初メーカーがどのような意図を持っていたにしろ、「患者の予後を改善するためには、フローランは簡単には離脱するべきではなく、増量が必要」との米国式使用法は、国内での承認を待ちきれずに米国に渡り、米国の医師の指導で既にフローラン治療を開始して帰国していた約10数名の患者により、1999年のフローラン承認以前より、各々のホームページ等で広く発信され、浸透していたために、同薬の承認後には米国式使用法が既にわが国のフローラン治療の主流であり、国内の学会でも認知されておりました。
以上のようにフローランは「ほんの少量使用して経口薬に切り替える」ことを意図したメーカーの開発意図と、「継続した大量投与法が最も治療効果を得られる」という臨床現場との食い違いが、同薬の「日米価格差」の矛盾を引き起こしている根源ではないでしょうか。

【患者の願い】
以上のようにわが国でも、フローランは「米国式に継続した大量増量投与が最も患者の予後を改善するために効果的」ということが広く浸透し、認知されている以上、患者は自らの生命を維持するために必要なフローランの使用量を減額査定などという理由で制限されることなく、最も効果的な投与を受け、「生き続けること」を切望しております。
加えて、高額なフローランは近年開始された包括医療制度(DPC)にも含まれてしまっており、同薬は減額査定、包括医療という2重の制限を受け、「患者の病状にあった同薬の大量投与」はますます難しい状況になってきております。
肺高血圧症は命に拘る疾患です。フローランは肺高血圧症治療薬として「上限のない保険薬」として、本来は患者の病状に合わせた増量が明記されている保険薬です。私達肺高血圧症患者は、フローランが医学的エビデンスに基づいた使用法をされ、薬価が高いとの理由で、患者の命を摘み取ることのないように祈っております。

【フローランの後発品も再び「使えない薬」?】
ところで、わが国ではフローランの発売開始より今年で10年目を迎え、特許切れを迎えます。先日、フローランの薬価が高すぎて、私達患者にとっては「承認されているのに使えない薬となっている」との産経新聞の記事を目にした富士製薬工業株式会社より、「同社が1月にジェネリック医薬品の承認を得て5月中旬に薬価収載予定であるが、同社のジェネリックが現在問題とされている健保組合の財政問題で貢献できるかもしれない」との連絡があり、私達患者会の長年の悲願であった「フローラン問題」解決の糸口が見つけられるかもしれないとの、大きな期待を持って、過日同社との面談に出向きました。
しかし、結果としては、肝心の薬価はフローランの70%を予定しているとのことで、全くの期待はずれでした。もしこのような薬価で後発品のフローランが販売されるのであれば、「減額査定」も「包括医療=DPC問題」も、何にも解決してくれず、再び私達患者にとってはGSK社販売のフローラン同様に、「承認されているのに使えない薬」になってしまうことは確実です。
肺高血圧症は命に拘る疾患です。1日も早く患者の命を救うための医薬行政を実行してください。

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