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臨時vol 4 高久通信「神経成長因子について」

医療ガバナンス学会 (2006年2月27日 00:10)


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2006年2月28日発行
題名は硬い、難しいように見えますが、是非、結論の
「常に新しい恋人を見つけることが・・・・・」までお読みくださいね!!

神経成長因子は、人を含めた神経細胞の成長を促進する因子として発見された
物質である。

細胞の増殖を促進する因子、すなわち成長因子には上皮細胞成長因子、繊維芽
細胞成長因子など、組織ごとに異なるいろいろなものがあるが、神経細胞成長因
子(nerve growth factor:NGF)はその発見が最も古く、1950年代の初めには既
にその存在が示唆されている。その後1970年代になって一次構造が決定され、さ
らに1980年代にはその遺伝子の決定が行われている。

当然のことながら、NGFの作用に関する研究が主に動物を対象にして行われ、
この成長因子が中枢神経、末梢神経の増殖、分化を促進することなどが明らかに
されている。

臨床的にはNGFが作用すると考えられるヒトの脳の部位と、アルツハイマー病
で顕著に脱落している脳の部位とが一致していることからアルツハイマー病の発
症にNGFが関与しているのではないか、さらにNGFをアルツハイマー病の治療に利
用できるのではないか、ということで注目されている。

事実、アメリカの研究者は8例の初期のアルツハイマー病の患者を対象にして、
患者の皮膚から採った繊維芽細胞を増殖させ、その繊維芽細胞にヒトのNGFの遺
伝子を導入した後に患者の前頭葉部に直接注入することを行っている※1。

治療後22ヵ月の経過を追ってみると、治療群では認知能の低下に対する改善傾
向が認められ、また、ペットを用いた検査でも治療群で脳の糖代謝の有意な上昇、
すなわち脳機能の亢進を認めている。

さらに死亡例の剖検での検索でも、NGFによると思われる神経細胞の増殖を認
めたと報告している。この遺伝子治療は極めて大胆な先端的医療であるが、アル
ツハイマー病に対する有効な治療法がない現状を考えると、今後より多くの患者
を対象にした研究が行われるべきであろう。

 
NGFに関する興味あるイタリアの研究者の報告として、新しい恋人を見つけた
58人のカップルの血中NGFレベルを測定したところ、恋人のいない人、長い間恋
愛関係にあるカップルに比べて明らかに高かったとのことである※2。

しかし、同じカップルを対象にした1年後の調査では、同じ相手が恋人である
場合には血中NGFレベルは既に恋人がいない人たちのレベルに下がっていたと報
告されている。

この報告が正しければ、恋の情熱は普通1年以上続かないことを客観的に示し
たデータであるといえよう。

常に新しい恋人を見つけることがアルツハイマー病の予防になるかもしれない。
※1 Tuszynski M.etal.:Nat.Med.11:551,2005
※2 Emanuele E. et al. : Psychoneuroendocrino-logyonline, 10 Nov. doi
: 10.1016/j.psyneuen. 2005.09.002

 

■著者紹介
高久 史麿(たかく ふみまろ)
自治医科大学内科教授、東京大学医学部第三内科教授、国立病院医療センター院
長、国立国際医療センター総長を歴任後、平成7年5月東京大学名誉教授、平成
8年4月から現職(自治医科大学 学長、日本医学会 会長)

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