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Vol.009 医療・社会における自分の立ち位置を追求し続けた、1人の薬剤師(2)

医療ガバナンス学会 (2019年1月16日 15:00)


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仙台市医療センター仙台オープン病院
薬剤師 橋本貴尚

2019年1月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆薬剤師に論文は必要?
僕自身、取り組みを成果にしようとすればするほど、「お金がない」という事態に直面しました。特に論文化にかかるお金がかかります。世間からすれば、「薬剤師が何するの?」という風潮があると思いますので、医師には用意されているような待遇(英語論文執筆のための英語勉強の機会、投稿料・掲載料の補助など)は、現時点では期待できません(皆さんのご施設ではどのような条件になっていますでしょうか?)。
ですので、和文論文を1つ書くと約10万円(英文要旨添削代1万円、投稿料5千円、掲載料3万~10万円)、英語論文だととてつもない額(英文添削代5万円、投稿料は0円、掲載料0~50万円)がかかります。僕が一番こたえたのは、今年にacceptになった英文レターのOpen Access Feeが2500 USドル(日本円で約27万円)かかったことでした(Hashimoto T. J Pharm Pract Res. 2018)。辞退も考えましたが、この論文には色んな方と一緒に取り組んだ成果が盛り込まれており、思い入れが深かったので、結局貯金を崩して支払いました(家族から大目玉を食らいました)。しかし、今回に懲りて、次回以降、論文執筆活動をどうするか、思案中です。

論文を通じて世間に成果を発信する重要性を強く認識している薬剤師は、恐らく自腹であっても論文執筆を行っていると思います。しかしながら、多くの薬剤師にとって、論文執筆は苦痛以外のなにものでもありません。しかも、書く度に費用が発生する、書いても成果が認められない(分かりやすい成果としては、職場での待遇の向上や賞与などが考えられます)、となれば、書く薬剤師なんていないと思います。しかしながら、どんなに頑張って成果を見出しても、論文を書かなければ、世間的には成果はゼロに等しいです(学会発表は実績にはなりません)。ですので、業務の成果、とりわけ医薬品適正使用や副作用対策に関する調査をしっかりと論文化することで、最終的に社会に還元され医療の向上に資すると思います。
一例を挙げれば、平成26年度診療報酬で薬剤師が救急病棟に常駐することに加算がつきましたが、それは、薬剤師が救急病棟で医薬品関連インシデントが減少したとする論文報告(川田ら.日病薬誌.2012. 48(2), 181-184)が根拠の一つになっております。これによれば、とりわけ看護師が関わった医薬品関連インシデント(与薬忘れ、与薬間違いなど)の減少に薬剤師が寄与したとしております。その他にも、薬剤師ががん化学療法を施行中の患者さんに対し、医師の診察前に副作用評価とそれに対する処方提案を行い、医師の診察に繋ぐことでがん患者さんの治療満足度向上と副作用の予防・最小化に寄与しております(薬剤師外来)。
これについては複数論文が出ております。当院でも、ニボルマブの膨隆疹に対し初期から薬剤師が入ったことでステロイド外用剤が開始され治療継続に至った例(胃がん患者さん)と、それとは対照的に、ニボルマブで治療中の肺がん高齢患者さんにできた皮疹を主治医が「乾燥肌」と診断し保湿剤を処方し経過を見ていたところ、腕全体にミミズ腫れのような膨隆疹に至り、治療中止を余儀なくされた、というこの対極的な2症例を経験しました。こうした経験と、種々の先行論文を踏まえ、「言うべきことは言わなければならない」という考えの下、気付いたらその都度医師に積極的に連絡させていただいております。

今参考にしている論文は、2016年にJAMA (Journal of the American Medical Association, 米国医師会雑誌) という世界的に権威のある医学雑誌に掲載された、Shehab, N., et al. “US Emergency Department Visits for Outpatient Adverse Drug Events, 2013-2014.” JAMA. 2016, 316(20): 2115-2125.です。Shehab氏は米国の薬剤師(Pharm.D.)です。この方は、米国のデータベースを用い、救急受診の原因となった薬とその有害事象を調査しております。
これによれば、2013年から2014年のうちに薬の有害事象で救急を受診し入院に至った事例は4万2千件余り(年間1,000名に1名起きる計算)で、その内訳は、多いものから、抗凝固薬7,000件余り(うちワルファリンが約6,100件)、抗菌薬6,400件余り、糖尿病治療薬約6,000件(うち、インスリンが4,800件余り)、抗悪性腫瘍薬約2,000件、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(降圧薬)1,500件余り、NSAIDs(整形外科領域)1,200件と続きました。当院での事例を考えますと、内服抗がん剤の副作用に関する電話相談は良く受けますが、これは患者さんに渡した「治療日誌」を見て気になった事例が少なくないと思います。
次に、今でも心残りな事例を紹介します。術後の患者さん、塞栓症予防で抗凝固薬のリバーロキサバンが処方されましたが、倍量処方は通常3週間ですが、院外処方で100日分倍量での処方がなされました。当院では薬剤部は院外処方のチェックは行っておりません。また、院外の調剤薬局からの疑義照会もなく、発覚したのは、他院で肺がんの手術のために入院してきた際に持参薬を確認した知り合いの薬剤師からの電話でした。術前ですと、抗凝固薬は所定の休薬を経ますが、この方はどうなったのでしょうか?先方の病院に迷惑をかけまくり、とりわけ患者さんの不利益にしかならなかったと振り返ります。
しかし、薬剤師が執筆した論文がなければ、先述のような業務改善や医薬品適正使用推進を行いたくても根拠がないために成立しえないのです。だから、万難を排してでも、論文を書き続けるしかないのです。
ただ、大学の研究者ですら日々の研究費獲得に苦労をされているのに、外野(?)の我々が数少ない研究費の奪い合いに参加して良いものかどうか、悩みます。

◆大きな仕事は、小さな事からコツコツと
2010年に日本ACLS協会のBLSインストラクターを取得しました。当時、薬剤師の受講者はほとんどいませんでしたが、「心肺蘇生の技術は、確実に人の命を救いうる技術である」という確信を持ち、それを薬剤師に広めたい、という思いでおりました。その後、薬剤師会や大学からのお誘いで薬剤師対象の研修会を何度かやらせてもらいました。そこで聞いた薬剤師の意見は、「必要なのは分かっている。だけど、失敗したらどうしよう」。「医師や看護師ばかりだから、みんな上手だと思うから、自分がそういった講習会に行くのは躊躇してしまう」といったものでした。

しかし、日本全国にいる薬剤師の数は30万人、うち、街の薬局に努めるのは17万人あまりいます。皆さんも普段意識しないかもしれませんが、薬局は、いわゆるクリニックの前にある調剤薬局以外にも、スーパーやデパートなどの地域の身近なところに存在します。それらの薬剤師が、「地域のバイスタンダー」として急変者の初期対応にあたることができるようになれば、地域の救急医療に貢献できるのでは、という思いを持つに至りました。その考えの根拠は、自分の職場での経験にあります。
当院は仙台市の2次救急を受け持っており、心肺停止の患者さんを積極的に受け入れております。しかし、多くの場合で、発見から119番通報まで1時間以上かかり、20分以上かけて救急センターに到着した時にはすでに心静止かPEAです。そういう状況ですと、心停止後ケアの最大のアウトカムである「神経学的後遺症のない社会復帰」は全く達成できません。救急に携わる医療スタッフも、単に家族などからのDNAR (Do Not Attempt Resuscitation) を取得するまでの、つなぎとしての蘇生措置「もどき」をするのは、本当に情けない気持ちになるはずです。

月日が経ち、薬剤師がどんどん病棟に顔を出すようになると、急変患者に対し心肺蘇生を実際に行ったとする話を聞くようになりました。逆に、「病棟で看護師が一生懸命胸骨圧迫をやっているが、自分は怖くて一歩が踏み出せなかった。悔しかったので、心肺蘇生講習会を受講しました」という話を聞きました。また、在宅訪問を行っている薬剤師から「患者宅に伺ったら、患者さんが急変していて、家族から助けを求められた。何もできず無力感にうちひしがれ、心肺蘇生講習会を受講した」という話を聞きました。
「薬剤師のための救急蘇生講習を受ける機会が必要」という考えの下、NPO法人を立ち上げた薬剤師もおりました(NPO法人薬剤師緊急対応研修機構https://pert-web.com/、アクセス日:2018年12月12日)。僕の先述の講習会を受けてくれた薬剤師が、アメリカ心臓協会のBLS・ACLSコースを受講してくれたという話も聞きました。相談もちらほら受けます。

最近嬉しかった事例があります。2018年11月に、僕の病院の薬剤部の前でコードブルーが発生し、一番近いのが薬剤部!ということで、僕は一目散に駆け付けました。すると、その後ろを、薬剤部の部下(ACLSコース修了)も一緒に駆け付けてくれたことに驚きとうれしさを感じました。幸いその方は頻脈と立ちくらみということで命に別状はなく、当院の救急センターに搬送されました。コードブルー発令者は、道案内の職員(非医療従事者)でした。これより学んだのは、いつ何時、誰であっても急変患者に遭遇する可能性がある、ということでした。さらに、コードブルー発令、という誰であっても緊張する事態に、僕の後輩も一緒に駆けてくれたことに、一筋の光を感じました。
このように、最初は個人的興味で始めたことでも、粘り強く必要性を訴え続けていけば、徐々に環境が変わっていく、ということを経験しました。
この活動の概要は、英文レターとしてpublishされております(先述の高額論文です:Hashimoto T. J Pharm Pract Res. 2018)

(3)につづく

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