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vol 80 「ワクチン手当」創設私案―ワクチン・ラグの漸進的な解消を目指してー

医療ガバナンス学会 (2010年3月2日 11:00)


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弁護士
井上清成
2010年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【予防接種法制の抜本的改正】
新型インフルエンザ騒動を通じて、前政権までの間に積み重ねられたワクチン・ラグが、国民一般に露呈した。そこで、昨年末に特別措置法が制定されたが、抜本的な予防接種法の大改正はまだ年月を要するであろう。ただ、ワクチン・ラグの全面的な解消のためにも、時間をかけてでも本質的な議論を積み重ねる必要がある。
予防接種行政は、規制行政ではなく給付行政であると言ってよい。もちろん、権力的な行政でなく非権力的な行政である。この給付行政で、かつ、非権力的な行政であるという本質に即して、ワクチンの給付体制を整えるための予防接種法の抜本的改正がなされることを期待したい。

【ワクチン・ラグの漸進的な解消】
ところで、ワクチンには、子宮頸がんワクチンやヒブワクチンといった国民が目前で大きな期待を抱いているものもある。当然、公費助成をして国民の間に広めることが要請されよう。ところが、なかなか公費助成の施策が進んでいないらしい。理由は、予防接種法の改正待ち、ならびに、財源難などというところにある模様である。
確かに劇的な改善は難しいかもしれない。しかし、現に目の前で国民が大きな期待を抱いている以上、漸進的にでも施策を進めることが要請されよう。少なくともワクチン・ラグは、できるところから徐々にでも改善していくべきである。そのためにも、何とかして公費助成を早めることが望まれよう。

【「手当」方式による公費助成】
予防接種法抜本改正による目標は、予防接種の完全無償化である。予防接種を受ける国民の自己負担ゼロと考えてよい。そのための法定接種化への抜本改正である。
しかし、その道のりは必ずしも近くはない。そこで、抜本改正時に切り換えしやすく、かつ、それまで漸進的にでも進めやすい暫定的な方式を講じるべきであろう。
政権交代後の施策の方式を見ると、国民への直接給付方式を多用している。民主党の看板は、「子ども手当」であり、公立高校授業料実質無償化であるとも言えよう。代理受領という法形式を使ったりもするが、本質は、国民への直接の現金給付の方式である。その時限りの現金給付ならば一時金と言い、年額の支払いならば年金と言い、月払いを代表例とするある程度の継続的支払いならば「手当」と言う。中学までを「子ども手当」と言うならば、高校授業料の年払いならば「子ども年金」とでも言えようか。遡って、出産時のものは「出産育児一時金」としているので、それは差し詰め「子ども一時金」であろう。
そうすると、いわば「手当」方式によって、必要なワクチンの公費助成をしたらよい。

【「ワクチン手当」制度の創設を】
ワクチンには至急のもの、期待の大きいもの、費用のかかるものなど、諸々ありうるところである。給付行政の施策によって、その種類や範囲を徐々に拡大していくことになろう。徐々にワクチンの種類を増やし、範囲を広げていくと、その積み重ねはあたかも継続した給付の形になるので、法的には「手当」という名称がふさわしい。「できるところから必要な人にワクチンを!」と言ったニュアンスである。
「ワクチン手当」の給付方式は、ワクチンを接種する国民への直接の現金給付方式が望ましい。代理受領の形の公費助成だと政策効果が薄いと思う。これは、現在のデフレ不況下の経済政策という別の考慮もある。直接の現金給付は経済効果(特に乗数効果)が小さいという机上の反論はあろう。しかし、偉大な経済学者であるケインズやピグーも言っているように、経済政策で忘れてはならないのは、国民の「心理」である。「心理」面の明るさ、活気、希望、安心といった心理効果こそが鍵であると言ってよい。「手当」方式は、この心理面に直接に働きかけるものであるから、特にデフレ不況下の刺激策として優れている。財源面の制約は免れないが、人の命に関わる真に必要とされるワクチンを拡大する際も、「手当」方式ならば政策的緩急・強弱のコントロールもしやすい。もちろん、全額助成に限らず、一部助成も可能であるし容易である。

【「ワクチン手当」の政策的検討を】
予防接種法の抜本的改正中でありながらワクチン・ラグが大きく、かつ、デフレ不況下である現在において、「ワクチン手当」制度の創設は適切なように思う(もちろん、「ワクチン手当」は単に私案にすぎない)。いずれにしても、漸進的であってもよいので、急ぎワクチン・ラグの解消を目指した具体的な動きが望まれよう。

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