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vol 85 2009年の「御前会議」:新型インフルエンザ専門家諮問委員会

医療ガバナンス学会 (2010年3月4日 11:00)


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山形大学医学部附属病院検査部
森兼啓太
2010年3月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2009年春に発生した新型インフルエンザの流行は、1年弱の経過を経て終息に向かっている。このウイルスはヒトに適応しており、次の流行がいつかはやってくるはずである。その規模、変異の程度、病原性など、不確定要素は多い。一方で、この1年弱にたどってきた我々の道筋を検証する時期がようやく来たと言える。

厚生労働省の足立政務官は2010年2月19日の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において、「内閣官房に置いている対策本部で、今年度中に総括に着手することが決まっている。それから厚生労働省の対策本部でも今年度中に総括に着手することは決まっている。」と述べている1]。遅くとも来月末には今回の新型インフルエンザ流行とそれに伴って実施した対策に関する総括を開始するという風に解釈できる。

これ自体は悪いことではない。しかし、実施した対策を総括するならば、何がうまくいって、何がまずかったのか、その反省と今後に生かす教訓を明らかにしなければ、意味がない。対策を実施し指示をした当事者である対策本部では、単に「まとめ」を作成するだけの作業しかできないであろう。検証を行うための第三者組織が必須である。

さらに困ったことに、内閣官房に置かれた対策本部で決定され実施された対策の指南役を担った「新型インフルエンザ専門家諮問委員会(委員長・尾身茂氏)」の10回にわたる会合の議事録が残されていないことが判明した2]。筆者が直接事実確認したわけではないが、m3.comの記事2]には「内閣官房・官房副長官補室・新型インフルエンザ等対策室の三好英文氏は、m3.comの電話取材に対し、この報道内容が事実であることを認めた。」と記されているので、三好氏およびm3.comの取材に誤りがなければ、議事録は残されていないのである。

筆者は、新型インフルエンザ流行当初の国の施策に関して、少なくとも二つの誤りがあったと考える。一点目は、国内の季節はずれのインフルエンザ様疾患の流行に対し、海外渡航歴にこだわって新型インフルエンザの遺伝子診断を行わせず、結果的に兵庫県と大阪府での集団発生の形で国内流行が始まったこと。二点目は、国内症例が百数十名と多数に達しているにもかかわらず、事前に定めた第二段階に拘泥し、患者の入院隔離や接触者調査を強行し、さらには有症状者発見のための機内でのサーモグラフィーによるスクリーニングを継続したことである。これらの施策が日本じゅうを混乱に陥れたことは記憶に新しい。

他にも様々な誤りはあるが、このうちには、あとになって振り返って不適切であると判明したが、その時は適切と思われたものもある。しかし、前段落の二つに関してはその当時から不適切と指摘されていた対策を改めない、または強行していたものである。
後者については、2009年5月18日の舛添前厚労大臣と筆者ら数名の懇談の場において、我々の「季節性インフルエンザに準じた対応に一刻も早く切り替えるべき」という意見が多数のメディアで報道されている。にもかかわらず我々の意見をしばらく容れず、機内検疫も数日間は続行され、すでに病原性が低く大多数の患者の医学的入院がないことがわかっていながら入院措置が続いた。

これらの施策は、形式上は内閣官房の新型インフルエンザ対策本部で決定されたことになっているが、実質的には諮問委員会が決定している。内閣官房には新型インフルエンザ対策の専門家はいないからだ。このような、国の重要な施策を決定する会議を、議事録も残さずに行っていたことは、驚きを通り越してあきれ果てるしかない。非公開で議事録も残さない現代の「御前会議」において重要な決定を行なった5名の委員、そして委員会の運営にあたった事務局は、その下した決定に対する責任や議事録を残す責務を全く感じていないということだろうか。これはこの国の保健福祉行政の象徴と言える。

1] http://lohasmedical.jp/news/2010/02/21140600.php?page=10
2] http://www.m3.com/iryoIshin/article/116484/

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