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Vol.028 「緊急避妊薬」の話を受けて思ったこと ― 薬局・薬剤師の役割とは?

医療ガバナンス学会 (2019年2月13日 06:00)


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(公財)仙台市医療センター仙台オープン病院
薬剤師 橋本貴尚

2019年2月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

宮城県仙台市にあります仙台オープン病院の橋本です。山本佳奈先生の「MRIC Vol.016 医師として女性として「緊急避妊薬」について考えること(2019年1月25日配信)」の記事を拝読させて頂き、僕なりに思うことがありましたので、寄稿させて頂いた次第です。

「ピルや緊急避妊薬を薬局に買えるようすることは重要」と山本先生はおっしゃっておられました。これを達成するための、僕なりに調べた限りの「現状の薬局機能」や、「薬局・薬剤師が向かおうとしている方向性」について情報提供させて頂き、読者の皆様が考えるきっかけを提供できれば幸いに存じます。

仮にピルや緊急避妊薬を薬局で買えるとした場合、この薬の区分は「第1類医薬品」になると思います。現状として第1類医薬品が薬局(ドラッグストア)でどのように対応されているかについては、厚生労働省医薬・生活衛生局から発行されている「平成29年度医薬品販売制度実態把握調査結果について(概要)」を参考に、記載させて頂きます。
この調査は、覆面調査員が全国5,000件余りの薬局・ドラッグストアを訪問調査した結果になります。
これによれば、「薬局に入った時、薬剤師等の存在が区別できた」の割合が80%、「使用状況について聞かれた」が91%、「文書等を用いて情報提供してくれた」が72%という結果でした。そして、「第1類医薬品販売時に情報提供した者は薬剤師でなかった」割合が4.7%に認められました。
市販薬の中には、乱用の恐れのある薬が販売されています。海外で小児の死亡例が起きたコデイン含有製剤や、ドーピング検査やトライエージDOA検査で鑑別が問題となるエフェドリン製剤、自殺目的で過量服用するブロムワレリル尿素などが挙げられます。これらについて、「販売方法が適切であった」割合は61%でした。「適切」の具体例としては、「1つしか購入できなかった」、「理由を尋ねられた」、「受診勧告」などを挙げております。

山本先生の記事にあった、「『緊急避妊薬のOTC化』に関するパブリックコメントが、賛成が大多数にもかかわらず見送られた」という結果は、上記に対する懸念が存在するのだろうと思います。力不足で大変申し訳ございません。

しかし、同じ薬剤師だから、という訳ではございませんが、僕はあきらめてはいません!一つ思い出深い事例を紹介します。

宮城県内の薬剤師の研究発表会にて、ある50代くらいの薬局薬剤師の講演がありました。その薬剤師の方は「改めて薬局がOTCを取り扱うことの意味を考える必要がある」と訴えておりましたが、ちょっとびっくりしたのは、発表の冒頭に「私はこのような舞台で話す機会がほとんどないので、スライドの作り方を知りません。ですので、原稿を読み上げさせて頂きます」と話したことでした。
MRICメールマガジン寄稿者並びにこの配信を受けていらっしゃる方々は、自分の意見を発信することに長けた方ばかりだと思います。この薬剤師は「パワーポイントを触ったことがない」という点で、光る原石を発見したような気持ちになりました。
この薬剤師は、宮城県の一地域で長く薬局を経営され、処方せん調剤やOTC薬販売、生活雑貨の販売、来店者の健康相談などを行う、いわゆる「昔ながらの薬局」です。
この薬剤師は3つの目的を掲げておられました。それは「(1)身近な問題を発見する」、「(2)OTC薬を買いに来た方に対する日々の気づきを大切にする」、そして「(3)地域に住む方の安らかな人生の終わり方を考える」です。
(1)については、例えば喘息で吸入薬を使用中の方がいれば、口腔内の状況を確認し、口腔カンジダの状況を評価するという取り組みを挙げていました。(2)については、購入時の日常会話を通じて「市販薬で良いのか、受診が必要なのか」を考え、必要時には知り合いの医師に電話をかける、という取り組みを行っておりました。(3)については、在宅療養をされている方やその家族の方などの変化に注意を払っておりました。例えば「風邪」であれば、病気の始まりと終わりが明確です。一方、在宅医療・終末期医療については「治る」ことはなく、あらゆる事態について境界線が明確でありません。そうした状況だからこそ、「状況が悪くなる前」に手をさしのべ、結果的に患者さんの安らかな人生の終わり方に寄与したい、という考えを述べておられました。

このような薬剤師が全国津々浦々にいるような時代になれば、「緊急避妊薬」のOTC化も夢ではないですかね!

次に紹介する話ですが、宮城県で小児科を開業する医師(うちの3歳の息子のかかりつけ!)が、昨年に小児科医としての40年間を振り返る書籍を発行され、それを読みました。ちなみにこの小児科医師は、母校の大学にNICUを創設して小児救急医療に尽力されたり、東北初のこども病院の開院に奔走されたり、という、東北の小児医療にとって必要不可欠な方の1人です。
その冒頭には、「某病院に就職した当初、上司より「頑張っても給料は変わらないから、気張らずに働きなさい」と言われた」と書かれておりました。しかしその後、大学の先輩の小児科医師がその病院に就職されましたが、その方は「この病院を日本一の小児科にしたい」という野望を持ち、日々技術の習得に努めておられました。その方との出会いが自分にとって大きな影響を与えた、と書かれております。
このような高名な先生方と比べるのは大変恐縮なのですが、現在の薬剤師の状況は、先述の「40年前の医師の状態」と似ているな、と思いました。以前の記事でも記載させて頂きましたが、少なくない数の薬剤師が「日々与えられた業務だけをしていれば良い」と考えている様子です。一方で「医療に、薬物療法に、最後まで責任を持つ」というスタンスで活動を行っている薬剤師も増えてきており、この動きが目立ってきたのはここ数年かな、と思います。
僕としては40年も待っていられないので、その半分くらいで仕上げたい、と思っておりますが(その時は55歳なので、ちょうど良いですね)、将来、「宮城県を始めとする東北地方については、薬についてはどこに聞いても安心」という基盤を築きたい、という思いを持っております。

「緊急避妊薬」の話に戻りますが、以前、僕は、妻と「息子が中学生くらいになったら、相手の女性の悲しませないように、そして、自分の人生を台無しにしないように、性の話をしないとね」と話しました。現状の日本においては、性教育は各自の努力に委ねられている部分が多いのが大変残念なことでありますが、自分が薬剤師として思うことは、薬局・ドラッグストア、そして、薬剤師全体が最も根本的な責務である「地域の人の健康を守る」を認識し、その一環として「性の駆け込み寺」としての一端を担うことを望んでいる次第です。そして、「その原石は全国各地にある」ということも併せて強調させて頂きたいと思います。

まだまだ卵ではありますが、温かく見守って頂ければ大変幸いに存じます。

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