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Vol.034 15年後でも過労死レベルの医師の働き方改革案 ~それでもパンドラの箱は開いた!~(2)

医療ガバナンス学会 (2019年2月21日 15:00)


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つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2019年2月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆オンコールという名の拘束も医師を疲弊させる
もう一つ大きな問題が残っている。オンコールである。勤務時間外でもオンコールという名のもと、大抵の勤務医は呼ばれたらいつでも駆けつけられるように臨戦態勢を強いられる。これは勤務時間にはカウントされていないが、お酒を飲んでリラックスすることも遠出することもできない。たまの休みに家族で出かけてもいとも簡単に家族の団欒は壊される。オンコールの日は、寝るときも緊張しており、睡眠の質が悪い。病院に行かずに電話で済んだとしても睡眠が途切れていることに変わりはなくボディーブローのように疲労が蓄積していく。数年前の医師のアンケートで、とにかく完全なオフ日が欲しい、という極めてささやかな要望が出ていたが、こんなことさえいまだに望めない医療現場と医師の家庭がたくさんあるのである。

◆検討会には現場の声が必要
なぜいつもこれほど現場と医療システムを構築する側に乖離があるのだろうか。
今回の厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」のメンバーは24名、うち多忙な医療現場を代表する現役医師はたった一人しかいなかった。その医師は救急現場で働く後期研修医で、この検討会ではなく「上手な医療のかかり方」と言う懇談会に呼ばれ実態を話し話題になった。https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/jouzunakakarikata-2
医療現場の忙しさは、今まで美談として報道されがちで、それが医療安全の低下につながり、医師の心身の健康を脅かし、医師の家庭を犠牲にしているということを感覚的にわかってもらうのは大変難しい。やはり現場の生の声を伝えるのが最も効果的なのである。厚労省の多くの検討会ではそれが圧倒的に足りない。医療界の代表としては団体のトップを呼ぶ。いわゆる「労働者の代表」としての医師は大抵呼ばれない。忙しい現場の医師を検討会に呼ぶにはデレビ会議での参加が必須であるが、そのような当たり前の努力がほとんどされていない。今後、このような検討会には必ず一定数の現場の代表を入れていただきたい。いつぞや日本医師会の幹部に、今のようなやり方では現場の声が届かないと申し上げたら、各種検討会には、必ず医療団体の代表が入っているから、その団体が現場の声を拾っているはずだと言われた。「勤務医は労働者である」との認識がないからこのような発言になるのであろう。

◆厚労省は行政からの書類を早急に改善させよ
働き方改革にはタスクシフトも必須である。医師の仕事で皆が最も負担と感じているものの一つが書類(医師多忙の理由、「書類作成」トップhttps://www.m3.com/news/iryoishin/638667 )である。メディカルクラークを雇って代行させるよう推奨しているが、この点についても一言釘を刺しておきたい。厚労省の担当者には人ごとらしいが、最も手間のかかるのが行政の求める書類である。クリニックでは特定健診の書類など紙ベースで対処せざるを得ない書類も多く行政の書類は際立って効率が悪い。生活保護や障害者認定、 難病関連の書類、介護保険に関連する主治医意見書、公安提出書類のなんと手間のかかることか。民間の書類に比べ、何年も項目の見直しがなく、判定にはもはや使われていない無駄な記載も多く、医師にとってストレスである。項目を見直し、提出時期や頻度が適正か検討し、どの医療機関でも厚労省のHPからダインロードして電子カルテ上で書き込めるよう早急に改善してほしい。これだけでも現場の負担は大幅に減る。

◆応召義務の整備も国の仕事
今回、医師について働き方改革を5年間先延ばしした理由を「医師については、時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である」(「働き方改革実行計画」)とされたが、これは応召義務を改革先延ばしの言い訳に使ったにすぎない。実臨床では応召義務があるから延長して働いている局面などほとんどない。救急の場面で患者を放り出して帰ってしまうような状況は現実には考えられない。もちろん法的に「応召義務は組織としての緊急対応に限る」ようきちっと整理していただきたいが、医師は患者に必要な医療を提供するために多忙になるのは大して苦にならないのである。むしろ「応召義務」を根拠として、時間外に緊急性のない患者対応を求められるのであれば現場はさらに疲弊する。
「応召義務」を長時間労働の言い訳にせず、医師が安心して診療に打ち込めるよう法的な整備をするのは国の仕事である。そのしわ寄せが5年もの先延ばしとは恐れ入る。

◆開業医も疲弊
今回は勤務医の働き方改革が主眼であるが、実は開業医も疲弊している。周囲にも、病に倒れたり、鬱になったり、突然死したりと、過労が原因と思われる病で倒れた医師は枚挙にいとまがない。開業医の平均年齢は勤務医より10歳上で、勤務医を経て開業するから、当然病気になる率も上がる。労務関連の法律に無知な医師も、開業するとなると知らないでは済まされない。予想外の慣れない労務管理が待っている。座りっきりの生活は寿命が短いこともわかっている。開業医1代目は借金返済の人生である。最近は診療報酬が薄利多売型となっており、長時間労働に拍車がかかっているものと思われる。神奈川県保険医協会の調査では( https://www.bengo4.com/iryou/n_9127/  )開業医の4人に1人が過労死レベルで働いているという。女性開業医が産前産後の必要な休暇さえ満足に取れていない実態も報告されている。かかりつけ医として24時間対応を求める機運が高まっているが、開業医は地域差も大きく、実態をきちんと調べてからにしていただかないと、こちらも死屍累々となる。

◆医師の働き方を医師不足の現状に合わせる必要はない
医師不足で地域医療がもたないから長時間労働は仕方がない、というロジックは今後通用しない。現状に医師を無理矢理合わせさせることはもう許されない。
今までの不作為を謝罪し、この先長時間労働が解消されるまでの具体的なロードマップを示し、きちんと時間外手当も支払って協力を求めて欲しい。
こんな当たり前のことに15年もかけるなら、勤務医は自分の健康と家族を守るために戦わなくてはいけない。「過労死基準を超えて医療安全は守れない」のだから患者のためでもある。それこそ三方よしである。ジョーカーは勤務医が持っている。
勤務先の病院のいくつかは潰れていくだろう。長時間労働が仕方かないのではなく、世界一の病床数を持つ日本の現状では病院が潰れるのは仕方がないのである。
パンドラの箱は開いてしまったのだから。

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