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vol 92 医師養成はトコロテン方式

医療ガバナンス学会 (2010年3月11日 08:00)


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医療制度研究会 中澤堅次

2010年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


■ 実働医師数が増えない理由
新人医師は毎年約7千人養成され、医師の総計は、引退する数を差し引き毎年4千人ずつ増えるといわれている。
実働医師数を考慮し医師数を計算すると、医師の養成はトコロテンを毎年一塊ずつ筒の中に入れて押し出すような形になっており、一塊ずつ補給された医師は毎年正確に一年ずつ筒の中を移動し、筒の長さの分だけは増加するが、最終的には順番に筒の端から押し出されるようになっている。
医師の養成数が一定とすると、高齢年齢層を除き、各年齢層では一年ごとに人が入れ替わるが人数は固定しており、たとえば50歳以下と年齢を区切って合計すれば、この層は何年経っても同じ医師数で組成も変化しないというショッキングな現象を確認した。
これに都会への集中と診療科の選択が加われば、地方の医師は減り続ける可能性があり、また首都周辺の医師不足は今後高齢化で加速すると考えると、深刻な事態が予想される。
緊急に医師を増やさなければならないが、医師が現場で活躍するためには8~10年かかり、援軍が駆けつけるころにはすでに高齢人口はピークを過ぎるところもでる。難しい判断だが事実は事実、しっかり検討して政策に反映しなければならない。

■ 医師需給の具体策を国内の水準で考える
医師の養成は何人必要か?具体策はまだ示されていない。
医師の充足度にスタンダードを決めるとすこし具体性が出る。
OECDの平均という水準があるが、各国の数値はばらばらで根拠が理解されにくい。
英国は不足で医師数をあわてて増やしたが、日本はなかなか医師数の増加に理解は得られない。
日本独自の水準を考えるとき地域格差に注目すると、一極集中で医師を集めている東京の水準が考えられる。
わが国としては最大限の見積もりになるが、それでもOECDの平均値には達しない。
もう一つの指標は全国平均で、地方格差を考えると急いで確保しなければならない最低水準と考えることが出来る。

■ 医師の充足率は高齢人口当りの医師数で推計できる
医師の充足率は一般的に人口千人当り医師数というように、全人口に対する比率で議論されるが、これでは、高齢になると病人が増加する医療の特性が消されてしまう。
実際に2004年以前15年間に、全人口の増加率は2,8%だったが、50歳以上の人口は40%増加した。
少なくとも医療の需要に関係する指標は高齢人口を無視すると間違える。
ちなみに2006年から高齢人口の伸びは緩やかになったが、増加傾向は2025年まで続きその後一方的な需要の減少が続くと予想される。
急性期医療の需要は50歳から84歳の人口の推移をもって推測するほうが実態に近い。

■ 医師数の将来推計はトコロテン方式で計算される
医師数はトコロテン方式で補給されることを考えると、実働医師は年齢を区切って考える必要がある。
勤務医の状況に合わせて、50歳以下か60歳以下の医師数を当てれば、先に示したように将来でも一定値を示すと考えられる。
将来予測は同じ数値で置き換えて推計が可能である。もちろん全医師数を用いる推計は実態を反映しない。

■ 医師の不足数の推計は都道府県単位で行う
地域格差はすでに顕在化しており、国全体の医師数を決めても意味が無い。
都道府県ごとの高齢人口(50~84歳)と、60歳未満の医師数を当て、全国平均の水準に達するに必要な医師数を計算することで、地域差を含めた需給を推計することが可能になる。
同じ手法で、都道府県別の高齢人口の将来推計と、トコロテン方式で固定される実働医師数から将来の需給も予測が可能である。
現在の段階で、全国平均に達していない都道府県の医師数を、全国平均並みに引上げるのに必要な医師数は、すでに達成している都道府県をゼロにして合計すると、2010年現在で約2万人となる。
2万人の医師を養成するには、10年間で毎年2千人、5年間に短縮すると、毎年4千人になる。
現在計画されている定員増は年間千人規模であり、最低限の需要を満たすのに十分な数とはいえないがかけ離れた数値ではない。ちなみに東京の水準に引き上げるに必要な医師数は約20万人である。

■ 地域間格差は地域枠で解消する
従来どおりの医師の配分では東京への一極集中が加速される。
水準に満たない道府県の医師を増やすためには、地方が将来の需要を見込んで養成する医師数を決め、奨学金を出し、学士入学で期間を短縮し、卒後は出資した地方での勤務を義務つける地方枠で医師を確保すべきである。
この方式はかつて医学部が無かった沖縄が本土の大学に地域枠を設けた歴史がある。
医師養成は地方格差を縮小するというはっきりした目的のもとに、全国規模で地方枠を確保するくらいの覚悟が必要だろう。

■ 医学部定員増は15年間で次の段階に。
医学部定員を増やす方式の効果が出るには10年かかる。
今は定員増が必要だが、わずか十数年間養成を続ければ、今度は削減を考えることになる。
15年間医師養成を続けた年に、入学する学生が、実働の医師になるのは今から25年後、その頃老年人口はすでに減少期に入り、急性期需要は減ってくる時代になっている。
すぐには過剰となるわけはないが、今度は定員削減が課題となる。何処を残すかまたどのように削減するのか、これにも高度な予測能力が必要となる。

■ 新設大学は役割を明確にする
新設大学を作るのであれば、地方間格差を是正する目的を鮮明にし、国策として地域枠と臨床重視の即戦力養成を図るべきである。
役割を終えたら他の目的に転用できるような柔軟性も必要である。
国は危機管理に国税を使用し、危機とは関係の無い分野を民間に任せるべきである。
危機の回避に民間を利用するやり方は、撤退戦では自由度を欠き、失敗すれば民間も危機に巻き込むことになる。そのくらい今の医師需給は逼迫していると思う。

■ 医師の増員の効果が出る前に看取りと介護の充実を
結論は元に戻るが、少なくとも今後10年間医師は充足することはない。
実働医師は大事に使わないとならないが、事業の内容を整理し、医師に頼らず、医師以外の職種が肩代わりできる体制を築くことしか方法が無いように思う。
医師中心に行われてきた診療内容、特に自然死に関する意識改革を進めること、つまり、病院に行く前の看取りや介護の体制を充実することが、雇用拡大の面でも、国民負担を減じる意味でも重要である。

■ 国の舵取りに関することは民間で無く国が行う。
40歳を超えると勤務医は開業する傾向がある。
この部分に制限が加えられれば勤務医の減少は避けられ、開業医も過剰になるのを避けられるかもしれない。
しかし、地方によっては開業医も少なく、勤務医も国家の意志だけで一生を左右することは出来ない。
少なくとも返還不要な奨学金と、ドイツのような老後も含めた保障も必要になろう。
ややもするとこの国は、本当に必要なことには費用がかかるという理屈で軽視する傾向がある。
国の舵取り、特に撤退戦に類することは国がやるべきであり、民間に任せて逃げていては氷山に衝突する危機を避けることは出来ない。

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