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vol 93 医者を守らない日本医師会

医療ガバナンス学会 (2010年3月12日 07:00)


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北海道大学大学院医学研究科
医療システム学分野
助教 中村利仁
2010年3月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


近年、刑事・民事分野で著名な医療訴訟のいくつかで、刑事無罪や原告(被害者側)請求の全面棄却の判決が見られました。新たな問題として、これら無実の罪を問われた医師達の名誉回復の議論がなされる必要が生じてきていると考えています。
しかし、この2月に日本医師会の出した報告書では、一方的にこれら無実の医師達が断罪されるばかりであるだけでなく。これを擁護しようとする医師によるインターネット言論の存在が、プロとしてあるべきでない存在として全面的に否定されています。

社会に対して専門職としての立場で提言するという、日本医師会のあるべき姿からは著しくかけ離れているのではないかと考えます。

平成22年2月
日本医師会 第 XI 次生命倫理懇談会
[PDF]「高度情報化社会における生命倫理」 についての報告

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20100204_1.pdf

全体としては非常に勉強になる報告書です。 しかしながら、「医師によるインターネット言論について」(P15~20)の項の記述だけは規範と現実等のバランスが取れて居らず、医療と医学研究の実際も無視したものであり、いただけません。
言うまでもなくインターネットは(一見)匿名利用可能な 空間です。それであるが故に、特に医師のコミュニティに限らず問題山積となっています。

このブログ(注・ロハスメディカルブログ)のコメント欄でも、ありとあらゆる嫌がらせがあり、「荒らし」もあり、うちいくつかは医育機関や医療機関内からの書き込みが強く疑われ ています。管理者の皆さんのご心労たるや大変なものですが、特に求めが無くとも、また相手が医者であろうがなかろうが、相手方管理者への報告や、削除等の 不適切コメントへの対処は行っています。これは医者の職業倫理の問題ではありません。医者でなくとも必ず従うべき、ネット上の一般的なエチケットというも のです。

匿名か実名かの議論(P17、19~20)もまた、医者に限った議論ではありません。そして、ネット上での実名主義は、その技術的基盤の問題から 却って「なりすまし」などの問題を生じ、深刻化してしまいますが、それについての語り尽くされた議論には全く触れられて居らず、バランスに著しく欠けてい ます。医者の実名を自称する者が実はそうでなかったとき、事態は非常に厄介です。取り返しのつかないこともあるからです。

インターネット言論については、充分な経験と見識を持った人々に議論に参加してもらうべきであったと思います。

ついでながら、「「虚偽情報・未確認情報の流布」は、それだけで名誉毀損罪等の成立要件を満たす。」(P18)という記述は、法文や判例に照らすと不正確であり、また、 インターネットに限らず、メディアリテラシー教育の基本として、全て情報は誰かにとって都合よく加工されていると考えるべきは当然です。

マスメディアもまたしばしば、医学的に間違っていたり、曖昧さの残る情報を流布 していますが、これに対して一定のコメントを寄せるのは、個人的にはむしろ専門職としての義務であると考えています。その道を封じることは、医者とマスメディアの双方にとって実害が大きいと考えます。

結果として誤った政策は批判され、その責任者は主としてマスメディアによって追求されるのが一般的です。しかしながら、専門職にしか評価ができない分野の問題については、その批判は見当違いなマスメディアに頼るわけにはいかず、これを行うことをも、専門職の社会的責任の一環と考えるべきでしょう。

しかしこれらもまた、「政策の立案・実施等に関わる行政関係者、医療に関連する記事を書いた報道機関の記者等に対するネット上の攻撃」(P18)として全面的に否定されています。やはりバランスに欠けるというべきでしょう。

また、最近のいくつかの医療を巡る訴訟では、あるいは単なる無罪判決だけでなく、公訴自体が不適当であることが明らかとなり、あるいはまた原告の請求が全面的に棄却されています。こ の場合、むしろ、日本医師会は専門職団体として「医療行為に関連した傷害、ないしその疑いがある傷害を受けた患者やその家族、彼らを支援する非医療者や医療者」に対して一言あって然るべきではないのでしょうか。医療従事者が守られるべき立場に置かれることもあるのであって、これを無視することは無責任で
あり、やはりバランスに欠けた記述であると考えます。

医学研究の現実を無視した記述としては、たとえば、「直接診療に関わっていない患者の診療記録を本人の許可なく閲覧する行為」(P16)があります。これは症例検討と呼ばれ、長い間、日本の医学会では普通に行われ、医学の進歩に大きく寄与してきました。

確かに強弁すれば、少なくとも観察研究は原則として「臨床研究の倫理指針」の対象外であり、死亡した患者の個人情報についても一般的には保護の対 象外ではあります。それに、漸く近年は可能な限り患者さんご本人の同意を頂戴して、学会発表を行うことが普通になりつつあるようです。

大学病院や研修病院であれば、学会での症例検討については暗黙の「許可」を頂戴しているのだと主張することも可能でしょう。しかし、医療機関で診療に関連した医師達が診療の目的のために相談するのとは異なります。

この記述を読む限り、死亡した患者さんの一例報告は、学会から姿を消すことが避けられません。一例報告では死亡が回避できず、あるいはまた病理解剖などを伴う教育的症例が多く、日本の医学の進歩を大きく阻害することが確実で、とても医師が筆を起こしたとは思えない記述になっています。

インターネット環境と学会発表の異なる点は、それを構成するのが医師だけであるのかどうかだけです。年齢と性別は医師にとっても重要な情報です が、氏名や詳細な住所地は興味の対象外です。その情報はほぼ全ての場合、マスメディアによる報道で広まっています。

医師は、マスメディアによる氏名報道・住所地報道に反対の声を上げるべきなのでしょうか。

この報告書の中で、この項目だけが極端に知識不足が目立ち、また思案に欠けている点が少なくありません。他は非常に高度で示唆的な内容に富むだけに、それがひどく惜しまれます。

*本稿はロハスメディカルブログ「医者にプライバシーはないのか?」(2010年03月07日 01:41)を一部改変の上、転載しました。

ロハスメディカルブログ
医者にプライバシーはないのか?
投稿者: 中村利仁 |投稿日時: 2010年03月07日 01:41

http://lohasmedical.jp/blog/2010/03/post_2277.php

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