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Vol.064 東大病院、新聞・テレビに「ご理解」求める 1万字に及ぶ回答書で ーー 検証東大病院 封印した死(7)

医療ガバナンス学会 (2019年4月10日 06:00)


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http://wasedachronicle.org/articles/university-hospital/h7/

この原稿はワセダクロニクル(20019年2月6日配信)からの転載です。

2019年4月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

41歳の男性患者に危険なカテーテル治療を行って死亡させた東大病院カテーテル死「隠蔽」事件。対外的な説明を一切拒んできた東大病院が、2019年1月、新聞社やテレビなどマスコミ各社には文書による説明に踏み切り「回答書」をメールで送付した。
私たちが手に入れた回答書には、患者の死亡は「残念なもの」だったが、カテーテル治療は「患者を救う唯一の手段として妥当であった」ので「ご理解をいただきたい」と書かれていた。
しかし東大病院の「ご理解をいただきたい」との意向はマスコミに無視された。新聞やテレビは、回答書の内容を反映しないまま事件を一斉に報道した。

http://expres.umin.jp/mric/toudai7-1.pdf

◆マスコミ各社への「切なる願い」
東大病院はこれまで、ワセダクロニクルに対しては繰り返しこう回答してきた。
「質問書に記載されている方が、当院で診療をお受けになったことがあるか否かを含めお答えはできません」
それに対し、事件を取材し始めたテレビや新聞などに対しては、2019年1月17日付の回答書をメールで送付した。ワセダクロニクルには送られてこなかったが、私たちはその日のうちに入手できた。それは1万字弱もあった。
回答書は7項目に分かれていた。
・当該患者の治療に至る背景
・適応について
・強心薬(カテコラミン)依存患者ではないという点
・当該患者本人およびご家族への説明について
・MitraClip治療およびその後の経過について
・治療に関する院内外での手続き
・最後に
この「最後に」には、東大病院のマスコミへの訴えがつづられていた。
「当該患者に関する一部のメディアによる報道については、当院も認識しております。今回の文書でも述べたように当該患者の経過を正しく理解するには極めて高度な医学的知見と経験を要します。そのため、断片的な情報にもとづく一連の報道においては、当該患者の背景もふくめて診療経過が誤って理解され、結果として事実と大きくかけはなれた、偏った内容が多いことを憂慮しておりました。」
文中の「一部のメディア」とはワセダクロニクルと月刊誌の『選択』のことだ。回答書が作成された時点で、事件について報道していたのはワセクロと『選択』だけだったからだ。
「最後に」は、男性患者の死亡は「残念」だったが、患者を救う手段としてマイトラクリップというカテーテル治療は「唯一の手段」だったと強調する。
「当院は、重症心不全に対する心臓移植のみならず、『心臓病治療 最後の砦』として、治療の難しい重症のあらゆる心臓病症例に対して、最大限の治療を提供することを目指して常に努力しております。当該患者の転帰は残念なものでしたが、上記のような信念に基づいて、当該患者を救う唯一の手段としてMitraClipを行うとした判断は現在においても妥当であったと考えております」
結びはマスコミ各社へのお願いだ。
「当該患者に関して、事実に反する報道が行われることで、わが国における本治療のあるべき姿がゆがめられかねないような状況もすでに生まれており、今後、本来であればこの治療の恩恵を享受すべき患者さんに正しく治療が行われず、救えるべき命が救えない事態が発生することを懸念しております。貴社の皆様に於かれましては、上記のような経緯を正しくご理解いただけることを切に願う次第です」

◆報道に「回答書」の反映されず
東大病院がマスコミへの回答書で「ご理解」を求めたにもかかわらず、マスコミ各社は一斉に報道を始めた。
2019年1月24日、毎日新聞が朝刊で「最先端治療、患者死亡 東大病院で心臓カテーテル」と報じた。東京都が医療法に基づき東大病院を立ち入り調査し、安全性が確認できるまでマイトラクリップを中止するよう指導したという内容が主だ。
同じ日、朝日新聞、共同通信、NHK、読売新聞も同内容で報じた。1万字に及ぶ回答書だったのに、各社の記事に東大病院からの「お願い」はほとんど反映されていなかった。

◆東大病院関係者「火消しのつもりが火に油」
ところで、回答書はワセダクロニクルと『選択』の報道については「事実に反する報道」と断じている。
「事実に反する報道」とは何を指しているのか。ワセダクロニクルは2019年1月21日、東大病院の齊藤延人院長あてに質問書をメールで送った。
だが、回答期限の1月23日正午を過ぎても連絡がない。
こちらから東大病院に電話した。
広報担当者の返事は「今回は回答しないことになった」ということだった。「事実に反する報道」をしていると考えるなら、なぜ、その報道をしたワセダクロニクルに抗議をするなり訴訟を起こすなりしないのだろうか。東大病院の行動は不可解だった。
そもそも東大病院は何の目的で回答書を作成し、マスコミ各社に送ったのか。
回答書を読んだ東大病院の関係者はいう。
「マスコミを使って火消しをしようとしたのでしょうね。しかしこれでは火に油を注いだに等しい。回答書の内容はあまりにも荒唐無稽です。担当医らが必死で言い訳を考えて書いたのだろう」
「荒唐無稽」な内容とはどんなものなのか。次回からは、回答書の具体的な中身を専門医と共に検証する。

http://expres.umin.jp/mric/toudai7-2.pdf

=つづく

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