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Vol.065 私が大谷さんのクラウドファンディングを応援する理由

医療ガバナンス学会 (2019年4月11日 06:00)


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濱木珠恵

2019年4月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私が敬愛する大谷貴子さんが、若年性がん患者さんが抗がん剤治療を受けるとき、将来のために精子保存や卵保存をすることを応援するクラウドファンディングを開始した( https://readyfor.jp/projects/marrow )。このプロジェクトを一人でも多くの方に知ってもらいたい。少額でいいから応援してもらいたい。私はそう思っている。

私が大谷さんと初めてお会いしたのは、十数年前、まさに血液内科医を対象とした未受精卵保存についての勉強会だった。まだ駆け出しの血液内科医だった私は、大谷さんがどういう方なのか分からず、指導医から「お前、大谷さんを知らなかったら、血液内科医としてはモグリだ」と言われた。正直、20代半ばのひよっこドクターだった私は、移植後10年を経過した患者さんに会うなんて初めてだったし、治療後の生活というものに思いを馳せる余裕もなかったと思う。

大谷さんは、1988年、25歳のときに白血病で骨髄移植を受けた元患者さんだ。闘病中から日本で初の骨髄バンクの設立に尽力されている。現在も骨髄バンクの推進や血液疾患の患者さん支援など精力的に活動されており、言われなければ元患者だとは分からないくらいエネルギッシュな女性だ。大谷さんは、今回と同様、若い白血病患者さんの妊孕性を担保することが患者さんの将来の可能性につながるということを切々と訴えていた。

切々と…。ちょっと違うな…。大阪出身の大谷さんは関西弁まじりで話をする。上沼恵美子か藤山直美かというくらい、しゃべりたおす。少人数の懇親会に紛れ込ませてもらった私は、とにかく大谷さんのしゃべりに圧倒された。それでも全くイヤな感じはしなかった。それは大谷さんが真剣に、本気の本音で話しているからだったと思う。覚悟をもった言葉は人を動かす。

パワーの塊にみえる大谷さんは、抗がん剤治療のため卵巣機能が失われ不妊症になった経験をもつ。当時は日本には骨髄バンクすら存在せず、命さえ助かればという時代だったかもしれない。しかし、白血病が治ったら結婚して妊娠してという夢を思い描いていた20代の女性にとってそれが非常に残酷な話であったということは、想像に難くない。この実体験が彼女の原動力のひとつなのだろう。

そして、初めてその話をきいた私は20代で、大谷さんと自分が重なった。他人事じゃなかった。もし自分だったらどうなのよ、堪えがたい話だよ、ありえない、絶対そんな状況は避けて通りたい。子どもを持つ、持たないは、そのときのタイミングや運にも左右される。子どもを持ってもいいし、持たなくてもいい。どちらの幸せもあるだろう。しかし当たり前のようにできると思っていたことを、その可能性を一方的に、しかも自分だけが遮断されてしまうのは、ものすごくイヤだ。欠落感とか喪失感とか、そういう感情しか湧かなかった。
大谷さんのしゃべりには、そういうリアリティがものすごく詰まっていた。
だから質疑応答のときには「必要な話だから患者さんに勧めたい。でも情報が足りない。胡散臭いと思われていて、大丈夫なのか分からなくて、患者さんに勧めていいのか自信がもてない。いい技術なら症例報告とかを早くたくさん出してもらって、胸を張って患者さんに勧められる状態にしてほしい」というわがままなコメントをした。あの頃はまだ未受精卵保存が今ほど一般的ではなかったからだ。
そして、そのときから、私は、白血病や悪性リンパ腫を発症した患者さんが治療を始めるとき、必ず、未受精卵保存や精子保存の説明をしてきた。もちろん病状によっては抗がん剤治療を優先する場合もあったが、それでも病状が落ち着いた段階で必ず専門家を受診させるよう心がけた。ときには抗がん剤治療を優先したために、若い女性患者の父親から罵倒されたこともある。それくらい妊孕性の保存は切実な問題なのだ。
制吐剤などの補助療法は増えているけれど、それでも抗がん剤治療はきつくてしんどくて大変だと思う。特に若い患者さんには、病気になった負い目だとか、闘病生活で周囲から遅れをとってしまったという焦りとか、実際に体力が落ちてしまったとか、将来への不安も含め、いろいろな気持ちの負担が出てくる。

なぜ自分だけがこんな目にあわなければならないのか。ベッドサイドで患者さんから何度も涙ながらに語られた。私には返す言葉がなかった。

少しでも喪失感を減らせるなら、安心感をもてるのなら、納得感が得られるなら、卵保存や精子保存は積極的にやってもらったほうがいい。やれることをすべてやって、納得してがん治療をすすめていってほしい。
若年者の抗がん剤治療は、治して終わりではない。その後をどう生きていくかという課題がついてまわる。ましてや10代や20代なら、闘病をおえて元気になったとき、将来には可能性をたくさん残しておいてあげたいじゃないですか。
現在、若い年代の方ががんを発症して抗がん剤治療を受ける際は、抗がん剤治療の前あるいは途中で、卵保存や精子保存を行い、将来の不妊問題への対策をとるようになってきている。しかしまだ認知度は低い。そして、それらは自費で行われるため、抗がん剤治療の費用とあわせて、若い世代のがん患者さんには大きな金銭的な負担となる。
大谷貴子さんのクラウドファンディングは、このような若い世代のがん患者さんの妊孕性温存のための経済的支援を行うものだ。All or Nothing方式のクラウドファンティングで、目標金額を達成できなければ支援は一切成立しなくなってしまう。この点にも大谷さんの覚悟を感じずにはいられない。支援者は寄附による税制優遇を受けることができる。ぜひサイトをのぞいていただき、若年性がん患者さんにとって「子どもをもつこと」が当たり前に選択できる社会となるよう、ご協力をいただきたい。
参考URL:
クラウドファンディング Ready for サイト
『いつか、パパやママになりたい。若年性がん患者さんの夢を未来へ』

https://readyfor.jp/projects/marrow

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