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臨時vol 6 「インタビュー 情報共有と補償のインフラが必要です」

医療ガバナンス学会 (2006年3月6日 21:15)


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2006年3月6日発行
Yong Sa LIM  RHC USA社長
MRICインタビュー vol.5
聞き手・川口恭(ロハスメディア)

ベルケード問題で個人輸入薬の安全性について注目が集まるようになった。そ
の構造的な課題と解決策について、’98年から日本国内の医師へ国内 未承認薬
の供給を行なっているRHC・リム社長に伺った。

 

―― 今回、ボルテゾミブで有害事象が発見されました。そもそも未承認薬を個
人輸入して使うから有害事象が起きやすくなるのだという意見もあるようです。
個人輸入のせいで有害事象が起きたというのは少々乱暴な意見のように思いま
す。大前提として、患者さんには、麻薬以外のすべての薬剤を使う権利がありま
す。また一方で未承認薬がなぜ未承認なのかの整理も必要だと思います。

つまり、がんなどの分野で問題になっているドラッグ・ラグ(欧米での承認か
ら日本での承認までに大きな時間差があるもの)の結果として一時的に未承認な
のか、オーファン・ドラッグ(経済的に見合わないため、メーカーが承認申請を
しないもの)なのか、です。
少なくとも、オーファン・ドラッグについて使う権利がありませんとは言えな
いはずです。またドラッグ・ラグのものについても、治験に入れなかった患者さ
んが自己責任で使うのを止める権利は誰にもありません。またバイアグラ以来、
国際輸入小包を使うような個人輸入業者もweb上にたくさん展開していますので、
患者さんがその気になった場合に現実問題として輸入を止めることは不可能です。
むしろ、個人輸入の安全性を担保することと有害事象が起きてしまった場合の対
応策を考えた方が建設的だと思います。

 

―― 安全性を担保すると言いますと?
個人輸入をして使うと言っても、私どもは医師が介在する未承認薬輸入・使用
のプロセスでなければならないと考えています。医師が介在することによって、
IRB並みか、それ以上の注意が必然的に払われるようになります。その 場合、
むしろ危険が潜んでいるのは薬そのものの安全性です。
薬というと一般の人は錠剤を思い浮かべると思うのですが、実際には生物製剤
のような生モノも多いのです。そのような薬剤には、流通途中の温度管理が重大
な意味を持つことはお分かりいただけるでしょう。一定の温度で迅速に運ぶこと
が大切です。
もっと根源的には、輸入された薬剤が、本当に輸入元の国内で流通している薬
剤と同じものであるのか、そこの担保も重要になります。出荷ルートのはっきり
しない薬剤を扱う業者はネット上にいくつもありますし、多くの場合、安易に安
さと品質の担保が引換えにされることも、使う側にはあまり伝わらないでしょう。

しかし個人輸入される未承認薬であるなら当然、メーカーもしくは代理店から
正規に卸されたものであるという、品質及び同等性の担保と、先ほど述べた流通
の安全性の担保は欠かせません。手前味噌になりますが当社は品質と物流のトレー
サビリティは既に常に担保しており 、現在は使用実態のトレーサビリティをど
う未承認薬使用のルール作りに役立てていけるかの課題に取り組み始めています。
でもその分 、出荷ルートがわからないような業者と違い、コストが高くなって
しまうのは避けられません。

 

―― 有害事象が起きてしまった場合の対応策を考えるべきと言いましたが、今
はどうなっているのですか?
薬剤の安全性に関しては、情報をどう周知するのかという側面と、被害をどう
補償するのかという側面があります。
まず情報なんですが、使用実態や有害事象について共有する仕組みがまったく
ありません。治験に入っている施設では、治験分の情報だけ共有されます。けれ
ど個人輸入分については誰も知らないのです。当社が供給した薬剤を基点にトレー
スできる情報については、当社がハブとして機能することで責任を持って取りま
とめることができますが、他の業者が代行した分まで情報収集するのは困難です。
情報収集するための何らかのインフラが必要なのでないかと思います。そこに
は誰もが自由にアクセスできるべきですし、一方で情報の質の担保も重要になっ
てきます。学会のように何らかの公的なフィールドが用意される必要があるので
はないでしょうか。その意味でも、今回のベルケードの問題で日本血液学会と日
本臨床血液学会が迅速に行動してくださったのは非常に意義深いことだと考えて
います。

 

―― 補償の方はどうなっていますか。
ご承知のように、承認薬による副作用被害と治験中の副作用被害は救済制度が
あります。ところが未承認薬については、医療者に過失がない限り、救済されま
せん。
これは二つの意味で問題だと思います。一つ目は当然のことながら、今回のよ
うな未知の有害事象が起きてしまった場合に患者さんが非常に困るということ、
二つ目は医療者側にリスクが偏りすぎているということです。医師無過失時の有
害事象による患者の被害がどう救済されるかに関しては、何もルールが決まって
いないのが現状ですが、それでも医師は、薬剤の輸入時に「一切の責任は(輸入
当事者である)医師が負う」と必要理由書に記載し厚生労働大臣へ提出してまで、
患者さんのために治療の選択肢を広げているのです。
こういった状況ですので、無過失補償の保険制度を早急に構築するべきだと思
うのです。そして、こちらの部分は民間でも充分手がけられると思いますし、未
承認薬の供給を行なう当社であるからこそできる保険制度の形もあると思います。
例えば、当社の利益の一部を保険の原資へ回すことで、当社を介し輸入した薬剤
には保険が無条件で付いてくるような形態の薬剤付帯保険を 現在考えています。
これはキレイ事として言っているのではなく、何か問題が起こったときに、未
承認薬が使われることが全否定されてしまう、そのような事態が起こらないため
にも、一企業としても絶対 に必要な取組だと思っています。この先も未承認薬
のコンパッショネート・ユース(人道的供給)は必要とされます。私どもは現在
日本国内で唯一、その基本的なルール作りのお手伝いができるインフラを整備し
ている会社ですから、今後も積極的に取り組ませていただきたいのです。
(略歴)Yong Sa LIM  RHC USA社長
1960年 京都府生まれ
日本での海外からの医薬品輸入業をへて、
1995年より米国に拠点を移す
1998年にRHC USA Corporationを設立、現在に至る

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