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vol 5 「米国南カリフォルニア大学留学体験記その2」

医療ガバナンス学会 (2006年3月10日 20:53)


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2006年3月10日発行
     ~米国南カリフォルニア大学留学体験記その2~
南カリフォルニア大学に学んで
(カリキュラム・2005年秋学期講義紹介①)

南カリフォルニア大学(USC)
医学部附属健康増進・疾病予防学際研究所(IPR)客員研究員
ならびにHollywood, Health & Societyリサーチインターン
別府文隆

●イントロダクション

今回はヘルスコミュニケーションの大学院カリキュラムおよびUSCの講義を紹
介したいと思いますが、読者の皆様にご紹介したい内容が豊富にあるため、当初
の想定以上に文章全体が長くなってしまいました。お許しを頂いて予定を変更し
2回にわたってご紹介します。
●ヘルスコミュニケーションを学ぶカリキュラムは全米にある

ヘルスコミュニケーションについて学ぶことができる講座は全米にあります。
こちら1)でその詳細を概観することができます。東部に32、西部に16、全米に
おいて計48の大学でヘルスコミュニケーションは学べることになります。各大学
で複数の学部(医学部とコミュニケーション学部など)で専攻や副専攻を提供し
ていることもよくあるので、そういう意味では学生からすると選択肢が48以上あ
ることになるでしょう。

このサイトでは、米国外でも英・豪・欧州などの9つの大学が紹介されていま
す(日本の大学の紹介はありません)。そもそもこのサイト1)のように専門毎
に全体を網羅した大学院横断型の情報リソースが日本には無いことに気付きまし
た。そういうサービス、日本でも是非欲しいところです。大学側にとっても学生
獲得のための良い広報・宣伝ツールになると思いますし。
USCはじめ、米国の大学でヘルスコミュニケーションを学ぶのは複数のアプロー
チがあります。学部のカリキュラムはよく知らないのですが、大学院では、主専
攻として・副専攻として・聴講生(audit)として・修士課程で・博士課程で、
といった具合です。大学によって入学時のハードルの高さ・評価ランキング・リ
ソースの質・評判はそれぞれなので、学生の側からすると勿論吟味して選ぶ必要
があります。

USCは映画・メディア・マスコミュニケーションに関する学部の評価が特に高
い大学ですし、予防医学に関しても独特なカリキュラムとオリジナリティーの高
い優秀な教授陣をそろえているので、ヘルスコミュニケーションを学びたい学生
にとってはまず挙がる選択肢の一つだと思います。

 

●USCにおけるヘルスコミュニケーション専攻(副専攻)のカリキュラム紹介

USCにおける講義はコミュニケーション学科(Annenberg School for
Communication)と、医学部であるKeck School of Medicineの公衆衛生大学院
(Master of Public Health)内、予防医学コース(Preventive Medicine)で学
際的に副専攻(minor)として開催されています。

USCはヘルスコミュニケーションに関する講義が多いので、上記2つの学部から
でも、他学部からでもどういうパターンでも学ぶことができる点が良いところの
一つだと思います。現に自分が聴講してきたUSCの講座で、公衆衛生や予防医学、
コミュニケーション学科の学生は勿論、映画学科、MBA(ビジネス大学院)、公共
政策大学院、法科大学院、教育学関連の大学院などの院生が正規履修または聴講
(audit)として参加していることはよくありました。学際色の強い領域なので
自然なことでしょう。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAとUSCはアメリカン・フットボールを
はじめ様々な点でライバル関係にありますが、同時に人材交流もさかんなので、
講義によってはUCLAの院生が聴講に来ていることもあります。
ここでは、今回の原稿でUSCヘルスコミュニケーション専攻のカリキュラム全
体を概観して、次回の原稿で先学期聴講した3つのうち主に2つを具体的に紹介し
たいと思います。

カリキュラムのマトリクス原文はこちらです2)。
*翻訳は概略ですし筆者の独断によっていますので、引用・二次利用について
は原典を参照いただき、USCに直接お問い合わせください。

教授陣はほとんどが、第4回の原稿でご紹介するHollywood, Health &
Society(以下、HH&S)という自分が研究インターンをしている機関のボードメ
ンバーでこの分野の権威です。大学院の講義なので、ほぼ全て数名~20人程度の
少人数でディスカッション(英語のスピードがすごく早くて苦労しています)主
体で行われます。先生が一方的に講義して終わり、というのはこちらではあり得
ないようです。

 

■COMM 510: 態度・価値・行動(Attitudes, Values & Behavior)
Michael Cody, PhD.(先学期に彼がやっている学部生向けの講義を聴講しまし
た。)

目的:社会影響の理論と実践を学ぶ。特にドラマなどの素材を用いる
compliance技術(一般市民の納得・順守・承諾を引き出す技術)によって対象者
の態度・行動・意思・(エビデンスから誤ったと判断できる)信条・既成概念な
どを変化させることを含む。具体的には、対面コミュニケーションの技術から
Entertainment Educationというドラマを用いて視聴者に影響を与えるスキルま
で学ぶ。合わせて説得理論(説得に関する行動科学・認知心理学の諸理論)につ
いても学ぶ。
■COMM 520: マスメディアの社会的役割(Social Roles of the Mass Media)
Peter Clarke, PhD.(後述するようにMayer教授との共同講義を先学期聴講し
ました)

目的:メディアがどのように言説を構築しているかを学ぶ。マーケティングや
メディア論の立場から特に米国の事例を中心に疫学的・広告・商業主義・情報技
術などの豊富な知識と体験から講義する。
■PM526: 公衆衛生におけるコミュニケーション(Communication in Public
Health)
Tess Cruz, PhD, MPH(今学期聴講しています)

目的:コミュニティ規模(マスを対象とした)の健康推進・疾病予防コミュニ
ケーションの効果を上げるための方法を学ぶ。ヘルスコミュニケーション分野の
諸理論、情報の受け手分析、一般市民のニーズ、メディアキャンペーンのデザイ
ン・評価方法、ソーシャル・マーケティング(マーケティングのノウハウを公共
の利益・福祉の向上に活用する方法論)、メディア・アドボカシー
(マスメディア本来の価値を有効活用するための一般市民や研究者の側からのメ
ディアへの働きかけ、メディアとの協同のこと)、メディアキャンペーンの先行
事例の検討などを含む。
■COMM 528: 組織の視点からのウェブデザイン(Web Design for
Organizations)
Judson Ferris Ferdon & Josh Mooney

目的:営利・非営利業界含めたインターネットの役割について学ぶ。

営業利益・マーケティング・顧客サービス・公共広告・企業戦略・eコマース
などの視点から。学生は実際の企業や組織の立場から考察することが求められる。
■COMM 530: コミュニケーション技術発展の社会影響(The Social Dynamics
of Communication Technology)
Bill Dutton, PhD

目的:コミュニケーション通信技術 (ICT)の発展により社会がどう変化してき
たかを学ぶ。背景理論から現象を見る視点を育て、批判的科学的にICTの社会・
政府・教育・ビジネスの現場における導入とデザインを検討する講義。

 

■PM 536: プログラム評価と研究(Program Evaluation & Research)
Thomas Valente, PhD(今最もお世話になっている方のひとりです。数学科出
身でコミュニケーション学で博士号をとり、Johns Hopkinsで途上国の健康増進
キャンペーン等の評価で業績を積んだ方です。Diffusion of Innovation理論で
有名なE.Rogers博士の直弟子の一人です。メディアを使ったキャンペーンの評価
やSocial Network Analysisが専門です)

目的:健康推進に関連する事業(マスメディアキャンペーンを含む)の評価の
ために必要な概念・介入・データ収集・分析の方法と事業全体のデザインについ
て学ぶ。実際のキャンペーン評価データを用いた統計パッケージソフト(SASお
よびSTATA)演習を含む。
* Valenteの個人ウェブサイトはこちら 3)
■COMM 575: エンターテイメント系のマス・メディアにおけるアドボカシ-と
社会変革(Advocacy and Social Change in the Entertainment Media)
Lynn Miller, PhD.(この先生はまだ面識がありませんが、今後是非聴講した
い講義の一つです。)

目的:エンターテイメント・メディア分野におけるアドボカシーと社会変革に
ついての枠組みを提供する。実際のサンプル(公共広告・社会科学・放送番組・
電子媒体など)を収集・検討し、特定の社会問題解決のために、メディア活用
(設計・評価)のための計画書・設計図を各自構築する。
■COMM 581: マスメディアと社会サービス:キャンペーンの設計と評価
(Media and Social Services: Design and Evaluation of Campaigns)
Doe Mayer, PhD., Peter Clarke, PhD
(先学期聴講していた講義の一つ。目から鱗、という体験をしました)

目的:社会サービスを営む組織(政府・行政機関・研究機関・財団・市民団体
など)からどのように一般市民にメッセージが送られ相互にコミュニケートされ
ているか(戦略・方法・評価など)を学ぶ。対人コミュニケーションによるアウ
トリーチ活動からメディア・キャンペーンまで。学生は講義と科学的エビデンス
をもとに、自身のメディアキャンペーンアイデアを構築・設計し予算獲得のため
に各財団や政府関係者に対してプレゼンする(仮想的に)ことが最終課題。

 

■COMM 582: 国際協力・開発に関するコミュニケーション
(International Communication:National Development)

C.S. Bia, PhD & Ishita Sinha Roy, PhD

目的:国家規模・地球規模での開発・国際協力に関するコミュニケーション・
技術・メディアについて理解する。欧米とその他の先進国や発展途上国との関係
を通してグローバリゼーション、ナショナリズムについて検討する。学生は背景
理論を通じて事例を検討し、開発や国際化に関して考察することが求められる。
■COMM 583: グローバルなエンターテイメント・エデュケーション事業
(Global Entertainment Education Programs)
Michael Cody, PhD.(前述)

目的:ドラマや漫画を用いて知識の普及・啓発を行うEntertainment
Educationの世界的な展開について学ぶ。具体的には健康・安全・人権・多くの
社会問題についての教育方法論。WHOの事業や米国主導の国際協力や発展途上国
の事例を通してその方法論と戦略・評価方法が紹介される。
■COMM 587: 聴衆(情報の受け手)分析(Audience Analysis)
Shelia Murphy, PhD.

目的:聴衆分析の基礎的な理論と方法について学ぶ。古典となっている先行研
究の検討や最新の方法論(ニールセン社の視聴率・フォーカスグループ・インター
ネット経由の購買調査・心理尺度・心理社会的分析など)を通じて学ぶ。国内・
国際社会におけるマスメディア世界を分析・検討するためのツールを提供するこ
とがゴール。

 
●次回予告

今回は以上です。次回は上記の講義のうち、筆者自身が受講した2つの講義
(PM 536とCOMM 581)についてできるだけ詳細にご紹介します。筆者の活動にご
興味を持っていただいた方は、ブログに日々の学びを記録していますので、ご笑
覧いただけると幸いです。ヘルス・コミュニケーション日記

http://healthcomm.blog32.fc2.com/blog-category-1.html

●参考リンク・文献

1)http://www.gradschools.com/listings/menus/commhealth_menu.html
2)http://www.usc.edu/schools/medicine/departments/preventive_medic
ine/divisions/behavior/education/mph/assets/pdf/Matrixofhealthcommcourses.pdf
3)http://www-hsc.usc.edu/~tvalente/

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