医療ガバナンス学会 (2019年5月17日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2月27日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2019022500108.html
山本佳奈
2019年5月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
北陸地方で春一番が吹き、全国的に最高気温が3月並みから4月並みのところが多くなった2月4日、中国や四国、東海地方の一部でスギ花粉の飛散開始が確認され、今年の花粉シーズン開始となりました。さらに、1週間後の2月11日には、大田区でもスギ花粉の飛散を確認。東京でも花粉シーズンが始まりました。ちなみに、昨年より3日早い、過去10年の平均より5日も早い飛散開始となりました。
今日は、本格的なシーズンを迎える花粉症について、興味深い研究結果も合わせてご説明したいと思います。
■花粉を体内に入れないように守っている
そもそも、花粉症とは、スギやヒノキ、ブタクサやカモガヤといった植物の花粉が原因となってアレルギー症状を引き起こす疾患です。花粉をできる限り体の外に出そうとした結果、くしゃみや鼻水や鼻づまり、目のかゆみや涙や充血といった症状が現れます。目や鼻から入ってきた花粉を、私たちの体が異物であると認識し排除することを選択した結果、再び花粉が入ってきた時に、鼻水や涙で洗い流す、くしゃみで吹き飛ばす、鼻詰まりを起こすことによって、花粉を体内に入れないように守っているのです。
鼻や目の症状だけでなく、のどや皮膚のかゆみ、下痢や熱っぽさなどの症状が現れることもあります。また、シラカンバ花粉症などでは花粉によって皮膚が荒れたり、咳や喘息を生じたり、リンゴなどバラ科の果物を食べることで口の中がかゆくなったり腫れたりすることもあります。
こうした症状は花粉の飛ぶ季節にだけに現れることから、季節性アレルギー性鼻炎ともいいます。世界大百科事典によると、以前は枯草熱(こそうねつ:hay fever)といわれ、欧米で、サイロ(農産物や飼料を収蔵する容器や倉庫)に牧草を入れるときに鼻粘膜のかゆみと痛み,くしゃみ,鼻づまり,鼻汁,涙などの発作を起こすものを指したそうです。古くは古代ローマの時代から同様の記載があったとか。
■都内では推定有病率が約50%
環境省の「花粉症環境保健マニュアル」(2014)によると、すでに約60種類もの植物の花粉アレルギーが報告されていますが、一般に、最も多いのはスギ花粉を原因とするスギ花粉症です。平成28年度に東京都が行なった「花粉症患者実態調査」によると、都内のスギ花粉症推定有病率(日常生活に支障がない軽症の方も含む)は48.8パーセント。年齢区分別に見たスギ花粉症推定有病率は、どの年齢層においても平成18年度の前回調査よりも上昇していたことが分かりました。飛散する花粉数の増加、母乳から人工栄養への切り替え、食生活を含む生活習慣の欧米化、腸内細菌の変化、大気汚染や喫煙などが花粉症の患者数増加に影響していると考えられています。
しかしながら、花粉が体内に入ってきたからといってすぐに花粉症になるわけではありません。数年から数十年という年月をかけて花粉を浴び続けることで花粉に対する抗体が十分作られると、花粉が体内に入ってきたときに排除しようとアレルギー症状を引き起こすことになります。これが、花粉症の発症機序です。
■プールと花粉症との関連性
ドイツの国立環境健康研究センターのKohlhammer氏らが、35歳から74歳の2606名の成人を対象に塩素プールの使用と花粉症発症の関連について調べた研究によると、学童期に水泳プールを毎年3~11回使用していた人は、使用していなかった人に比べて花粉症を発症する可能性が74%高かったといいます。また、過去12カ月間に水泳プールを毎週1回以上使用していた人は使用していない人に比べて花粉症を発症する可能性が32%高く、さらに生涯において水泳プールを使用した経験がある人は使用経験がない人に比べて花粉症を発症する可能性が65%高いこともわかりました。泳ぐ人の尿や汗、その他の有機物質が塩素処理された水と反応して放出される三塩化窒素が影響していると筆者らは考えています。
また、ノルウェーのベルゲン大学のSvanes医師らが、デンマークやエストニア、アイスランドやノルウェー、スウェーデンの女性6317名を対象とした8年間の追跡調査を行った結果、月経不順である女性に喘息や花粉症が多くみられることが分かりました。26歳から42歳の月経不順をもつ女性は、喘息のリスクが1.54倍、花粉症のリスクが1.29倍と高かったといいます。
花粉症の症状を悪化させる原因も、研究により次第にわかりつつあります。一つ目は、ストレスです。
■花粉症の人はインフルエンザにかかりやすい?
2008年、米国のオハイオ州立大学のJanice博士らは、花粉症や季節性アレルギーを有する男女28人が参加した試験の結果、精神的なストレスや不安で季節性アレルギーが重症化または長期化しうることが示唆されたと発表しました。他にも、タバコや換気の悪い室内環境における空気の汚染、春先の黄砂なども、花粉症の症状を悪化させる可能性があることが指摘されています。
2017年3月には、家庭医や小児科医、産科医や皮膚科医、アレルギー専門医や内科医など、米国の23の医学団体で構成されている「気候と健康に関する医療社会コンソーシアム」が、気候変動が健康に与える影響について詳述した報告書を発表。その中で、最も健康を害しやすい人の一例として、花粉や山火事、スモッグなどによる大気汚染による喘息や慢性肺疾患をもつ人が挙げられていました。気候変動による花粉の大気汚染とその健康影響は、世界的な問題の一つだと言えるでしょう。
さて、花粉症シーズンの前に流行する疾患といえば、インフルエンザですよね。今年は、A型インフルエンザウイルスが猛威を振るい、“流行警報”が発令されたほどでした。インフルエンザと花粉症との関係性についても興味深い研究結果があります。
2018年の韓国のソウル大学病院のJeon医師らの報告によると、アレルギー性鼻炎をもつ人の粘膜はA型のインフルエンザウイルスが感染しやすいというのです。鼻の粘膜がアレルギー物質によって炎症を起こしダメージを受けていることや、免疫物質の産生量が減少していることから、インフルエンザウイルスが感染しやすくなっている可能性があるのです。
■内服は飛散ピークの2週間前が有効
花粉の飛散量が多くなる条件は、気温が高いこと、日照時時間が多いこと、そして雨が少ないこと。日本気象協会によると、今年の花粉の飛散量は、北海道は例年を下回るものの、東北から近畿で例年と比べてやや多い地方が多く、中国地方は多い。四国は例年並み、九州は例年並みか多めになると予想されています。また、スギ花粉の飛散のピークは、福岡では2月下旬から3月上旬、広島や大阪では3月上旬、東京は3月上旬から4月上旬となり、飛散する期間が長くなりそうとのこと。昨年は梅雨明けが早く、日照時間も多く、猛暑となったため、花粉がたくさん作られた、ということなのですね。
そんな花粉症ですが、花粉が本格的に飛散し始める2週間ほど前から内服を始める初期治療が有効だと言われています。早めに相談してみてくださいね。