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vol 102 医師当直制度の現状と解決案

医療ガバナンス学会 (2010年3月19日 12:00)


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京都府立与謝の海病院
副院長
時田和彦
2010年3月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【はじめに】
現在のわが国の医療は、崩壊の危機にある。また医療事故の報道も減少する気配がない。私はこれらの大きな原因の一つが、現在の医師当直制度にあると考えている。その改善のために以下のような提案をしたい。

【医師当直の現状】
病院の救急対応は、平日の昼間、夜間および週末に分けられる。このうち平日の夜間当直の現状について、私が現在勤務している病院を例にとり説明する。

例えばある平日の夜間当直を担当する医師は、朝8:30より17:30まで通常業務があり、17:30より翌朝8:30までの当直業務の後に、さらに翌朝8:30から17:30までの通常勤務を強いられる。通算すると33時間の連続勤務となる。当直翌日は忙しく、時間外まで勤務を続けることが多いので、しばしば連続35-36時間の連続勤務となる。このような当直が、副院長である私も平日に2回と週末に1回、毎月割り当てられる。代休はない。

当院での昨年の調査によると、平日の夜間当直15時間のうち、平均7時間が実働時間だった。従って残りの8時間は休憩や睡眠に充てることも可能だが、患者は連続して来てくれるはずもなく、結局一睡も出来ないことも多い。当直翌日の外来診察や外科医による手術は、医師にとって苦痛なだけではなく、危険でもある。

このような、労働基準法を無視した医師当直制度の問題点は、主に4つあると思われる。1)医師の肉体的、精神的負担が大きい。医師の集中力は33時間も続かない。特に当直翌日の勤務は医療ミスの危険が高まる。2)多くの病院では、当直時間帯に入院した患者の主治医は当直医が担当する。このため当直医は、出来れば救急患者を入院させたくないと考えがちである。入院が必要な患者が入院できない危険がある。3)これら2つの結果として、医療事故の頻度が高くなる可能性がある。4)このような当直を長年続けている勤務医の多くは、当直義務がない、または救急患者の少ない病院へ転勤するようになる。または開業するようになる。

実際に開業医へのアンケートで、勤務医時代に何が最も負担だったか、との質問に対し、最も多い回答は「当直」であり、44.5%に上っている。(日本医事新報H21.10.17号)

【行政側の対策案】
このような過酷な医師当直制度を改善しない限り、地方中核病院の医師不足は根本解決されることはないと考える。解決への第一歩は、まず国民にこれらの実態を知ってもらうことであろう。そして行政側と病院側とが協力して改善に当たるべきである。

行政側からの対策としては、診療報酬改定の際に、医師の勤務状態に応じて病院の診療報酬に差をつける方法が考えられる。すなわち、医師の勤務が労働基準法を遵守している病院には、報酬を格段に高くするのである。これにより病院側は、医師の労働条件改善に全力を尽くすであろう。現在多くの病院の経営者は、医師当直制度の問題点に気付きながら、見て見ぬふりをしているように思える。

さらに労働基準監督署が、8時間労働の守られていない病院への指導を強化するのも有効であろう。他にも良い方策があるかもしれない。いずれにしても、当直制度の改善には行政側の積極的な介入が不可欠と考える。

【病院側の対策案】
各病院は上記のような診療報酬改定により、また労働基準監督署の指導により、医師当直の3交代制を推進するであろう。大学病院などの大病院では医師数が豊富なので、比較的簡単に3交代制度を導入できるであろうし、現在でも実施している病院もあろう。

問題は地方中核病院の多くを占める中規模病院である。現在の勤務医数では3交代制は導入困難な病院が多い。そこで3交代制を導入するためには、医師の増員が必須となる。

医師増員がなるべく少なくて3交代制をする方法として、例えば救急部を作り、5名の医師を配属した場合を考える。朝から夜中までの16時間は、これら5名の医師で救急患者の初期対応に当たるのである。もちろん各医師は8時間勤務である。夜中から朝までの8時間は、現在の常勤医師が順番に勤務する。3交代を遵守するために、深夜勤務の翌日は休みとする。これにより各医師が担当する当直は、毎月1回程度なので、日常診療に支障をきたさずに実現可能であろう。

この例での、医師数と病院の経済収支を考えてみる。まず医師数については、救急部に5名が必要となる。しかし昼間の救急対応には、元々各科の医師が常時1名割り当てられていたので、医師数の増加はのべ4名となる。

次に病院の経済収支では、4名の医師の給料が追加で必要となる。しかし現在医師に支払われている当直料と、当直時実労時間当たりの超勤手当ては不要となる。私の試算では、これらの増額と減額はほぼ同額となるため帳消しされる。さらに医師の8時間勤務遵守により診療報酬が増えれば、病院は増収となるはずである。

最後に小規模な病院であるが、原則として3交代が全くできないような小病院は、多くの救急患者や救急車の受け入れはすべきではないと考える。もしも地域的な問題で、小規模病院でも救急患者の受け入れをせざるを得ないのであれば、公的な資金を充填して、当直医師をアルバイトの形で雇わざるを得ないであろう。

【おわりに】
地方の中核病院の医師不足を解消するために、医師に地方病院勤務を一定期間義務化しようという考えがある。これにより確かに地方病院の医師は増えるが、それだけでは不十分である。医師当直制度などの勤務医の劣悪な労働環境を改善しない限り、地方中核病院には、嫌々ながら1-2年間のみ勤める医師ばかりが増えることとなろう。

現在のような、医師にとって過酷な当直制度は、欧米諸国では考えられないと聞く。欧米諸国で出来ている医師の8時間労働が、日本で出来ないはずはない。行政担当者も病院管理者も我々医師も、当直制度は改善可能なのだ、改善するのだとの、確固たる信念を持つべきである。その前提として最も大切なことは、国民にこれらの現状を知ってもらい、世論を高めることである。それには、国民が医療に関心を持っている今しかない。

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