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vol 105 厚労省による行政処分者数を激増させる日医委員会答申

医療ガバナンス学会 (2010年3月22日 07:00)


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弁護士
井上清成
本稿はm3.comで配信されたものです。
2010年3月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【日本医師会 医療事故における責任問題検討委員会答申】
3 月10 日、日本医師会の「医療事故における責任問題検討委員会」による「医療事故による死亡に対する責任のあり方について」と題する答申が公表された。この答申は2009年1月になされた日本医師会会長の諮問に答えたものである。

本委員会は、18人の委員で構成され、うち9人は法律家(大学教授や弁護士)で、1人はマスコミ関係者であった。医療事故死が起きた後の法的責任を整理しようとする試みである。そして、法的責任のうち、特に着目されたのが「行政処分」であった。

【新しい行政処分勧告システムの導入を答申】
答申とその添付資料では、現行の行政処分制度に関し、詳しい検討がなされている。特に、刑事判決依存型の行政処分を問題視していた。「刑事責任の後を追って行政処分を行うシステムを改める必要がある」というのである。

検討の中では、「刑事判決依存型の行政処分の運用は、犯罪にはならなくても不法行為になるような医療事故や医師としての品位を損する行為は行政処分の対象外とされることになり、本来、行政処分がなされてしかるべき事案において行政処分が行われないという問題を生じさせているといえよう」「現在の運用は、行政処分が行われる場合においても、実際に事故が生じてから処分まで長期間にわたることが多くなり、行政処分の持つ相手方への制裁としての感銘力を低下させることになる」とまで言及されていた。

そのような検討の上で、「刑事あるいは行政処分に関しては、医療の専門家によって処分の勧告ができる第三者機関を設置することが必要である」としている。その上で、「現在、行政処分は医道審議会の勧告を得て厚生労働大臣が処分を行うことになっているが、医療事故については、医道審議会に対し、医療専門家の立場から助言を与える、いわば『医師による医師の再生のための行政処分の調査勧告システム』を構築する必要がある」と結論づけた。

【行政処分者数の激増を招来】
厚生労働省は2月24日、医道審議会の答申を踏まえ、医師28人に対する行政処分を行い、ちょうど3月10日に、それら行政処分が発効している。28人中、免許取消が2人、医業停止が23人、戒告が3人であった。ところが、医療ミスが処分理由とされたのは、ただ1人だけである。もちろん、それも刑事判決依存型であり、医療事故死による業務上過失致死罪に問われた医師であった(刑事処分は50万円の罰金、行政処分は医業停止3カ月)。

日医委員会の答申は、このような現行の運用を改め、もっと行政処分者を増加させようとするものである。それも、医道審議会に対し、医療の専門家が勧告することによって、行政処分を受けるに値する医師を発掘しようと言うのであろう。そのような新しい行政処分勧告システムを導入すれば、確かに、行政処分者の人数が激増するのは間違いない。「勧告システム」と称しているが、「通報システム」と言ってもよいであろう。

【日本医師会の行方】
日本医師会の担当理事の記者会見によれば、答申のもともとの発想は、厚労省の”医療事故調”に関する第三次試案や医療安全調査委員会設置法案にあるようである。また、必ずしも民主党案を適切なものとは考えていないらしい。その上で、行政処分者数の増加を意図したのであろう。適切な言葉で言えば、「制裁型の刑事責任を改め、再教育を中心とした行政処分へ」と表現するらしい。

しかし、そのような論理を展開したとしても、この「厚労省による行政処分者数を激増させる日医委員会の答申」は明らかに不当だと思う。ただ、今はまだ答申が出された段階にすぎない。日本医師会自体がこの答申を採用すると決めたわけではなさそうである。

そうすると、日本医師会がこの答申を採用するのかどうかは、4月1日の日本医師会会長選の後ということになるのであろう。果たして、日本医師会は、今後、厚労省による行政処分者数を激増させる結果となる日医委員会の答申を採用するのであろうか。

日本医師会会長選の行方とともに、注視しなければならない最重要事項であると思う。

【筆者プロフィール】
井上清成(いのうえ きよなり)氏
1981年東京大学法学部卒。86年弁護士登録(東京弁護士会所属)。89年井上法律事務所開設、2004年医療法務弁護士グループ代表。

 

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