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vol 106 文献を引用しない論文を書きますか?

医療ガバナンス学会 (2010年3月22日 12:00)


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森兼啓太
山形大学医学部附属病院検査部

2010年3月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


新型インフルエンザ(2009年A/H1N1)の流行は、国民の20%程度が罹患して第一波を終えようとしている。今後どのような形で再度流行するのかを予想するのは必ずしも容易ではない。最も確率の高い形は、2010年11月ごろから従来の季節性インフルエンザと同様の立ち上がりをみせ、A/H1N1が季節性インフルエンザになってしまうことであろう。しかしそれに先だって夏季に流行が始まらないとも言い切れない。

国じゅうを大騒ぎに巻き込んだ新型インフルエンザ対策の検証は、どこかで行わなければならない。流行が終息し、記憶が薄れない現時点が最も適切であろう。その、国の対策の検証ができそうにない話は、拙稿(MRIC vol 85 2009年の「御前会議」:新型インフルエンザ専門家諮問委員会)を参照願いたい。何せ、最高決定機関ともいえる政府対策本部に重要な諮問を随時行ってきた委員会の議事録が残っていないのである(註:本件は報道によれば調査中との情報もあり、絶対残っていないとは言えない状況である)。

去る3月15日に行われた厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において、事務局から新型インフルエンザ対策を総括する旨、発表があったようだ(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0315-5j.pdf)。それによれば、(明記されていないがおそらく厚労省主導で)、
1) 今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)対策の方針策定等に携わった専門家並びに「新型インフルエンザ対策行動計画」及び「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の作成に携わった専門家を中心として、総括を中心的に担う本委員を選定
2) 本委員により、まず、今回の対策の経緯について事実関係を中心に整理するとともに、対策等に携わった専門家として見た今後の課題等を抽出
3) そのうえで、毎回テーマ(検疫、公衆衛生、広報、医療、ワクチンなど)を設定し、各分野の専門家や有識者を参考委員として招き、意見交換を行う
4) こうしたいわば第三者による評価や提言等を含め、本委員により全体の総括を行い、取りまとめを行う
とある。さらに今月末までに本委員を選定し、委員会を何度か開催し、6月頃までの取りまとめを目指す、とある。

「今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)対策の方針策定等に携わった専門家」というのは、まさに御前会議「新型インフルエンザ専門家諮問委員会」の5名の委員のことであり、この委員が本委員会の中心になるであろうことは容易に想像がつく。そして、「今回の対策の経緯について事実関係を中心に整理する」とあるが、いつからどんな対策をとったかということは資料として残されており、新聞記事を切り貼りすれば済むことである。整理が本当に必要な「事実関係」は、いつ誰がどのような経緯で節目の方針転換あるいはそれを行わないことを決めたか、ということであり、問題はそれが明確な資料として残されていないことである。

諮問委員会の議事録がなく、11ヶ月も前のことを記憶だけを頼りに思い出し、「事実関係」を整理し今後の課題を抽出する作業は、研究者が文献を引用しない(できない、と言った方が正しい)状況で総論的な論文を執筆することに似ている。そのような論文を読者諸兄は書きたいであろうか?また仮に執筆されたものを読んだとして、その内容を評価するだろうか?単なる一個人の意見という風に受け止めるのが普通であろう。

読者諸兄には、本委員会にどのような委員が選出されるか注視して頂きたい。委員が決まった時点で、思い出す「事実関係」の方向性も定まり、総括の行方は決まる。これがそのままこの国の新型インフルエンザ対策のレベルを表すことになる。

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