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vol 107 千葉・埼玉・茨城に医師を増やす必要性(1)

医療ガバナンス学会 (2010年3月23日 07:00)


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三県の医師不足の現状と将来予測について
医療構想・千葉
了徳寺大学 学長
増山茂 了徳寺大学
2010年3月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


医師不足による病院の閉鎖・規模縮小などが相次ぐ中、政府は2009年度から医師養成数の増加を打ち出した。現政権も更なる増員策を考えているようである。
2010年2月21日、朝日新聞は「医学部新設、3私立大が準備」というスクープ記事を発表した。ただこの中には千葉・埼玉・茨城をベースとしたものはないようである。一方、全国医学部長会議や日本医師会は、新しい医学部の創設など言語道断である、という意見を開示されている。

医療構想・千葉では、2010年3月13日に、「どうしたら医師過疎地域に医師を増員できるか」についての緊急討論会を行った。

http://iryokoso-chiba.org/shinpo_kinkyu_sh.html

以下、その討論内容を参考にしつつ、千葉県・埼玉県・茨城県に新たに医育教育機関入学定員を抜本的に増やす必要があることを何回かに分けて提言したい。

I なぜ増やす必要があるか(今回ここで述べる)。
II どのような医育教育機関が必要か。(次回に述べる)。

【I なぜ増やす必要があるか?】
結論はひとつ。将来関東圏にすさまじい医療過疎圏が生まれることが確実であり、この地域では医育教育機関入学定員を増やすことが有効な解決策の一つだからである。

1.OECD Health Data 2009 によれば、OECD諸国(人口千人あたり3.2人)に比べ、日本の医師数(同2.1人)は悲しいほどほど少ない。しかし医師抑制政策の始まる前の1966年時点では、同1.2人対同1.0人と、OECD諸国と同等レベルでであった。

2.医師の少ないこの日本だが、千葉県や埼玉県や茨城県ではさらに少ない。平成18年(2006年)厚生労働省 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によれば、この3県の人口あたり医師数はトップの京都や東京の半分以下の最低レベルであり、患者千人あたり医師数も最低である。医師不足数・率も大きい。加えて、県内格差では千葉県・茨城県では全国平均より大きく、両県内には平均値以上に深刻な医師不足地域があることが示唆される。

3 実際、千葉県における二次医療圏ごとの医師数を見てみると、全国平均が(10万人あたり)206人、千葉県平均が同153人のところ、君津医療圏は同117人・山武長生夷隅医療圏では同94人という深刻さである。まさしく医療崩壊の先進地といわれている千葉県を象徴するように、これらの地域の医師数は絶望的に少ない。

4.地域の医師数に影響する因子は多数あろうが、大きく影響するのは地元の医学部の数である。人口当たりの医学部(卒業生)数は、圧倒的に西高東低である。例えば、九州の人口は1320万人、10の医学部があり、年間約1000人の医師を養成する。四国の人口は401万人で、4つの医学部がある。人口1300万人で11の医学部がある東京と同レベルである。この理由として、戊辰戦争以後の近代化政策において、西日本が優遇されたためであることが考えられる。一方、千葉・埼玉県の人口は合計1340万人で九州とほぼ同じだが、医学部は3つしかない。ちなみに、千葉県は人口620万人、医学部は1つである。

5.医学部定員は2009年に舛添厚労大臣により増員の決断がなされたが、1970年代の一県一医大計画による増加のあと、1980年代以降の定員削減は医学的および地域的ニーズと無関係に定められてきた。その結果著しい医師養成数の不均衡が固定されることになった。問題は西高東低だけではない。人口10万人あたりの医学部入学定員数をみると、全国平均では6.9人。関東圏においては、栃木県(医学部2校)は同11.3人、東京都(同11校)は11.1人。翻って、茨城県は3.7人、千葉県は同1.9人、埼玉県は同1.6人となっており、三県の医師養成数の少なさは群を抜いている。

6.各都道府県の医学部入学者に占める地元県内高校出身者は、ここ5年でやや増えているにもかかわらず、千葉県では逆に減った。また全国の医学部卒業生の地元定着率はここ5年でやや低下したが、千葉県では80%近くから50%まで激減した。つまり、千葉県では地元の学生は千葉大学に入学できず、卒業生も県外に出てしまう形になっている。

7.研修指定病院と研修医の間の都道府県別マッチ者数をみると問題はさらにはっきりする。平成21年度の対人口比での研修医マッチ者数の全国平均に対する充足率は、埼玉が42%でワーストワン、トップの東京都の174%と比べると、1/4以下のレベルにある。また茨城は57%でワースト4、千葉は77%で下から14位となっている。つまり全国的に見ても三県の研修医の集まりが非常に少ないことが理解できる。

8.我が国の長期的人口減少トレンド中にあって国内推定患者数は現在の約850万人から980万人へと15%程度伸び、2025-30年にピークを迎えると予測されている。現在の医師の増加傾向を踏まえたとしても、2016年には医療需要に対する医師の不足数は7.8万人に達する。また、2035年になっても2.7万人の医師が不足すると予測されている。

9.将来の地域格差を考えるとさらに厳しい状況が予想される。千葉県・埼玉県などのように2025年には2005年に比べて患者数の伸び率が+30%以上にもなる地域もあれば、逆にマイナスとなる地域もある。他方、医師数の伸び率に全国的にそれほど大きな地域差はないので、当然、医師不足の地域格差はさらに広がると予想される。これらの結果、千葉、埼玉、茨城の三県は、2025年には他の地域を大きく引き離して医師不足地域のワースト3になると予測されている。

10.人口あたりの医師数、患者あたりの医師数、人口あたりの医師養成数、などにおける著しい地域格差は是正されねばならない。現在の地域格差を放置すれば将来さらに拡大することは火を見るよりもあきらかである。医師養成課程の地域的新設や大幅な増設は、とくにこの千葉・埼玉・茨城の三県においてこそ、早急に検討さるべき課題である。他方、コメディカルの業務範囲拡大と再教育、診療報酬での急性期医療の評価、女性医師の就労支援の仕組みづくり、広域的な医療機関の統合と再配置、外国人医師の活用など、地域の特性に見合った短期的中期的対策は必須であるし、中長期的には全国的な医療機関や医師養成課程の再配置も課題となるだろう。

かくのごとき明確に予測しうる人為的地域格差を放置し、「現時点で何もしない理由」を並べ立てる医療者やその教育に携わるものがいるとすれば、明日の国民により「不作為による罪」に値すると審判されることだろう。早急、かつ誠意ある対応を求めたい。

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