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Vol.137 「性的少数者」の人権を守れ;(2)「同性婚」拒否は憲法違反:

医療ガバナンス学会 (2019年8月7日 06:00)


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NPO法人 医療制度研究会・理事
元・血液内科医、憲法研究家
平岡 諦

2019年8月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

● 2月14日は聖バレンタインデー、「愛の日」:
2019年のこの日、13組の同性カップルが(おもにはLesbianのカップルとGayのカップルだろう)、「同性婚が認められていないのは、婚姻の自由を保障する憲法に違反する」などとして国を訴えた。国を訴えるのは初めてだという。全国4地裁に同時提訴したこの裁判の、第2回口頭弁論が7月2日名古屋地裁を皮切りに、7月5日大阪地裁、7月8日に札幌地裁と東京地裁でも行われたようだ。
この動きに呼応して、同性間の婚姻ができるよう、民法の一部を改正する法律案(婚姻平等法案)が6月3日、自身がLesbianであることを公表している尾辻かな子議員(立憲民主党)や、共産党、社民党の議員らによって提出された。同性婚を認めるための法案の提出も初めてだという。

● 国の主張:
第2回口頭弁論のトップを切って行われた名古屋地裁に、前もって国から提出された準備書面の内容は以下のようであった。従来の政府見解を踏襲した内容だ。
婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立すると規定する日本国憲法24条1項の「両性」が男女を表すのは明らかだと指摘、同項は同性間の結婚を想定していないと主張している。その上で、同性婚を認めない民法と戸籍法の規定は憲法違反とならず、国会が同性婚を認める法律を設けないことも立法不作為に当たらない。

現行憲法24条1項についての、国の指摘および主張はまちがっていない。しかし、「その上で」として述べている憲法解釈はまちがいである。それを明らかにするためには日本国憲法の成立から見ていく必要がある。

● 現行憲法の成立:
1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受け入れた。それは次の2点の受け入れを意味する。第一は、「軍国主義的助言者(指導者たち)」を罰した東京裁判を受け入れること、第二は、軍国主義を許した立憲・君主国家の憲法である明治憲法を改正し、日本を立憲・民主国家にすることだ。そしてできたのが現行憲法である。
現行憲法は、君主国家における権力者にとっては「押し付けられた」憲法であり、民主国家になった国民にとっては有難い憲法を「与えられた」と言うことになる(憲法制定その他に関して、詳しくは愚著『憲法改正 自民党への三つの質問 三つの提案』を参照)。

その当時の日本の民主化のレベルを、マッカーサーは1951年アメリカ上院外交・軍事合同委員会での証言で次のように表現した。「現代文明を基準とするならば、我らが45歳の年齢に達しているのと比較して、日本人は12歳の少年のようなものです」と。
君主国家の政治家に民主国家の憲法は作れない、そう考えたマッカーサーは、「マッカーサー3原則」を示してGHQ民生局に憲法原案を作成させた。日本政府にお手本を示すためだ。それが「GHQ素案」である。その内容は「12歳の少年」にも判るよう、懇切丁寧な「解説」付きであった。日本政府は「GHQ素案」の受け入れを了承(了承したことは、現行憲法のいわゆる「法源」が「GHQ素案」に遡ることを意味するだろう)、手直しをし、さらに国会の審議を経てできたのが現行憲法である。現行憲法の主旨を考える時に、「GHQ素案」にまで遡れば、「12歳の少年」にも判るようになっているのだ。

● 「法源」から見えてくる「同性婚」問題:
現行憲法24条1項とその英文、およびその部分に相当する「GHQ素案」を示す。
(現行憲法24条1項)婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。Marriage shall be based only on the mutual consent of both sexes and it shall be maintained through mutual cooperation with the equal rights of husband and wife as a basis.
(GHQ素案)The family is the basis of human society and its traditions for good or evil permeate the nation. Marriage shall rest upon the indisputable legal and social equality of both sexes, founded upon mutual consent instead of parental coercion, and maintained through cooperation instead of male domination.

「GHQ素案」の中で、現行憲法に残された部分を下線で示した。下線の無い部分が「解説」と言うことになる。現行憲法で問題になっている箇所は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立;Marriage shall be based only on the mutual consent of both sexes.」の部分である。「both sexes;両性」が男女を表すのは明らかだ。裁判での国の指摘は妥当である。しかし、「GHQ素案」の中の、それに対応する部分を見てみよう。「founded upon mutual consent」の部分である。その直後に「instead of parental coercion;両親の強要の代わりに」が続いているではないか。この部分は、戦前の旧民法が「婚姻に戸主の承諾を必要(第750条)」としていたことを受けているのだ。すなわち、この条項部分の主眼が、婚姻をかつての『家制度』から解放することにあることは明らかだ。「12歳の少年」でも判るだろう。

現行憲法制定時に、同性婚を念頭において議論された形跡はない。従って、「同項は同性間の結婚を想定していない」とする国の主張は妥当である。裏返せば、議論していない以上、現行憲法が同性婚を排除しているとは言えないのだ。

上述の24条1項と同様に、次に24条2項を示す。
(現行憲法24条2項)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。With regard to choice of spouse, property rights, inheritance, choice of domicile, divorce and other matters pertaining to marriage and the family, laws shall be enacted from the standpoint of individual dignity and the essential equality of the sexes.
(GHQ素案)Laws contrary to these principles shall be abolished, and replaced by others viewing choice of spouse, property rights, inheritance, choice of domicile, divorce and other matters pertaining to marriage and the family from the standpoint of individual dignity and the essential equality of the sexes.

「GHQ素案」全体を通して、原告側にとって大事な点は次の2点である。
第1点は、1項相当部分の冒頭にある「The family is the basis of human society;家族が人間社会の基礎である」こと、そして第2点は、2項相当部分にある「Laws・・・shall be ・・・replaced by others・・・from the standpoint of individual dignity;個人の尊厳に立脚した法律に、取って代わられるべきである」ことだ。
「同性婚」を希望することは、「人間社会の基礎である家族」の形成を望むことである。「同性婚」はカップルそれぞれの「個人の尊厳」に基づく行為である。すなわち原告の希望・行為は、現行憲法24条の主旨に沿っていることになる。裏返せば、「国が同性婚を認めないことは憲法違反」になり、「国会が同性婚を認める法律を設けないことは立法不作為」になるのだ。「12歳の少年」にも判るだろう。

● 世界は、今の日本を民主国家と見ているだろうか:
論考(1)で述べたように、国連の「拷問等に関する特別審議官」が、「性同一性障害者特例法」の規定にあるような、法定断種手術を人権侵害に当たるとコメントし、WHOその他の機関・団体は、断種手術の規定を法から削除するように何度も勧告している。また今回の論考(2)で述べたように、「同性婚」に関する国の憲法解釈は違憲だろう。国は法や憲法解釈で、「性的少数者」の人権を侵害しているのだ。
敗戦直後の日本の民主主義について、マッカーサーは「日本人は12歳」と評価した。世界は今の日本を、決して民主国家とは見ていないだろう。

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