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Vol.138 妊娠中に目の前で「加熱式たばこ」を吸われ… 医師が指摘する子どもへのリスク

医療ガバナンス学会 (2019年8月9日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(3月20日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019031900076.html

森田麻里子

2019年8月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ここ数年でかなり一般的になってきた加熱式たばこや電子たばこ。普通のたばこと違って受動喫煙のリスクがない、健康への悪影響が少ない、禁煙につながる、と思っている方も、いらっしゃるかもしれません。しかし実は、それは大きな誤解です。今回は、加熱式たばこ・電子たばこの危険性と、それに関連してリスクが高まる残留受動喫煙について解説したいと思います。

たばこは子どもの健康にも大きな悪影響を及ぼします。例えば、妊娠中のママがたばこを吸っていると、胎児の発育が阻害されます。そして産まれた赤ちゃんの乳幼児突然死症候群のリスクは、オッズ比にして2倍以上になります。アメリカの乳幼児突然死症候群のケースのうち、22%はたばこが原因であると推定されているのです。また、喘息のある子が受動喫煙にさらされていると、入院するリスクがオッズ比にして2倍になります。また、親の喫煙が子どもの白血病のリスクを上昇させる可能性も指摘されています。

加熱式たばこは、葉たばこを加熱することで、ニコチンを含んだ蒸気を発生させる仕組みです。確かに、たばこの3大有害物質「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」のうち、タールと一酸化炭素については、紙巻きたばこより低減されることがわかっています。しかし、ニコチンの量はほとんど変わりません。また、日本で販売されている電子たばこは、ニコチンを含まないフレーバーのついた液を加熱し、蒸気を発生させます。このような電子たばこにおいても、鉛・クロム・ニッケルなどの重金属やホルムアルデヒドの量は、紙巻きたばこより多い製品もあることが、世界保健機関(WHO)の報告書でも明記されています。加熱式たばこや電子たばこが健康にどのような影響を与えるのかは、長期間経ってはじめてわかってくるものです。いまの状態は、壮大な「実験」が行われているといっても過言ではありません。

加熱式たばこや電子たばこが危険なのは、煙が出ない・見えにくいことや、健康リスクが少ないという誤解から、普通のたばこは吸えないような場所でも使われてしまう可能性があることです。例えば、私も妊娠中に、「加熱式たばこだから大丈夫」という間違った理由で目の前で加熱式たばこを喫煙されたことがあり、悲しい思いをしました。今月ハーバード大から発表された研究でも、その危険性が指摘されています。例えば、電子たばこを吸う人の場合、66.7%の人が家の中で紙巻きたばこを吸わないことにしていましたが、電子たばこについて同様のルールにしているのはわずか25.4%でした。

たとえ目の前に子どもがいなくても、部屋の中や喫煙者の体に有害物質が残留し、結果的に子どもや他の非喫煙者にたばこの害が及ぶこともわかっています。これが、「残留受動喫煙(三次喫煙)」というものです。2004年にサンディエゴ州立大学から発表された論文では、子どもの目の前で親が喫煙していなくても、子どもの尿中のニコチン濃度は、喫煙者のいない家庭と比べて8倍になっていることがわかりました。

さらにアメリカでは、妊婦さんや中高生にも電子たばこの使用が広がっています。アメリカ疾病管理予防センターがオクラホマ州とテキサス州で行った2015年の調査では、14人に1人の女性が妊娠中、またはその前後に電子たばこを吸っていたことがわかっています。アメリカの中高生の間でも、紙巻きたばこの喫煙が減っていたにも関わらず、電子たばこの使用が増えたため、たばこ使用率が上昇傾向となっています。

加熱式たばこや電子たばこは普通の紙巻きたばこより軽く考えられがちですが、健康への影響がないわけでは決してありません。普通のたばこと同じように健康に悪影響があると理解して、そもそも喫煙するかどうか、また喫煙するとしたら、その場所は喫煙してよい場所なのかどうか、判断していただきたいと思います。

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